日本の石油化学産業の構造改善ー6 選択と集中時代 続き

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25years24_1 (前回の続き)

3)三井化学および住友化学の全面的統合発表

2000年11月、三井化学と住友化学は「21世紀の化学産業におけるグローバルリーダー」をめざすべく、03年10月に両社の事業を全面統合すること、ポリオレフィン事業については01年10月に先行的に統合することを発表した。両社はともに千葉にエチレンセンターを持ち、両社が出資する京葉エチレンとともに互いにパイプラインで結びつき、コンビネーテッド・コンビナートを形成しているほか、三井は大阪に、住化はシンガポールにもエチレンセンターを持つ。住化の医薬・農薬事業は収益に貢献しているし、両社の新規事業も順調である。統合により、世界トップクラスの化学会社と技術力や収益力において互角に競争できる、アジアで最大、世界第5位の化学会社が誕生することになる。

本件は三井側からの提案で、企業エゴを捨て、真のグローバル企業を創ろうというものであったと言われている。これ以前に両社のメインバンクである住友銀行とさくら銀行(三井主導)が合併し三井住友銀行が発足している。

全面統合については両社が共同株式移転により持株会社を設立して上場する方式で出発するとしたが、統合比率は、統合の際の株価およびその他の考慮すべき要素を勘案して決定するとした。統合までに時間があり過ぎるのではないかということと、統合比率を後で決めるというのが問題とされた。

これに対して三井グループの繊維・化学会社で「大三井化学」のメンバーになると想定されていた東レが、「三井-住友の場合、統合してもエチレン能力は180万トン弱で、これで強いといえるかどうかだ」と反対した。

両社は事業統合検討委員会を設置して検討を始めるとともに、ポリオレフィンの統合の準備を始めた。

4)ポリオレフィン業界の再編
①三井住友ポリオレフィン
三井化学と住友化学は全面統合に先行して01年10月に両社のポリオレフィン事業を統合することとした。しかし、公取委は
PP分野におけるメーカーの価格改定行動について協調的な行動がみられるとの問題を指摘した。両社は統合新会社においては業界団体への営業部門者の出席を一律禁止するなど独占禁止法遵守体制を更に徹底すると誓約し、01年12月にようやく公取委の事前承認を得た。

02年4月、半年遅れで三井住友ポリオレフィンがスタートした。03年10月の全面統合を控え、二重の手間を省くため、工場については統合せず、親会社への製造委託の形をとった。

三井は宇部とのPP事業統合会社のグランドポリマーを02年4月に吸収合併し、宇部ポリプロの宇部持分、トクヤマ持分も取得した。住友化学も千葉ポリプロのトクヤマ持分を01年6月に取得している。

②宇部興産のPP事業撤退
三井と住友のポリオレフィン事業統合を機に宇部興産はPP事業から撤退した。当初はグランドポリマーを生産会社とし、営業権を三井住友ポリオレフィンに譲渡する案が検討されたが、最終的には01年10月に宇部がグランドポリマーの持分を三井化学に譲渡し、宇部・堺工場内のグランドポリマーのプラントの操業は宇部興産が受託することとした。02年4月、三井化学はグランドポリマーを吸収合併した。

③トクヤマの撤退と出光石化の提携
01年1月、徳山でプラントが隣接するトクヤマと出光石化はPP事業における提携を発表した。両社でPPの製造JV・徳山ポリプロを設立してトクヤマの工場内に20万トンの設備を新設
03年5月に営業生産を開始)し、トクヤマの既存設備は廃棄01年7月にトクヤマがPPの営業権を出光石化に譲渡した。

④日本ポリケム・日本ポリオレフィン・チッソの再編
01年6月、PE事業での日本ポリケムと日本ポリオレフィンの、PP事業での日本ポリケムとチッソの、事業統合計画が発表された。統合すれば、PEの生産能力は133万トン、PPは109万トンとなる。

日本ポリケムと日本ポリオレフィンのPE事業統合は難航した。日本ポリケムは三菱化学と東燃化学のポリオレフィン事業統合会社だが、東燃化学はダウ(UCCを買収)との合弁会社でPEのメーカーの日本ユニカーの株主でもある。
公取委は日本ポリケムと日本ポリオレフィンが、東燃化学を通じて日本ユニカーとも企業結合関係が出来ると考え、その場合の販売シェアが約45%で第1位に、また、上位3社の累積シェアが約80%となるとして、これを問題視した。

この問題の解決のため03年6月、三菱化学が日本ポリケムの東燃持分を買取り、三菱の100%子会社とし、公取の了承を得た。

この結果、PEについて、03年9月に、日本ポリケム、日本ポリオレフィンに三菱商事プラスチックを加えて3社の合弁会社・日本ポリエチレンを、PPについては同10月に、日本ポリケムとチッソの合弁会社・日本ポリプロを発足させた。

なお、日本ポリエチレンは04年9月で四日市工場内の75千トンの老朽化した小型LDPEプラントの操業を停止した。同工場のエチレンは既に01年1月に、また37千トンのPPプラントも02年末で生産を停止している。

この計画は実質的には昭和電工、新日本石油化学、東燃化学がPE事業を、チッソがPP事業を三菱化学に委ねることを意味する。但し、これら各社が白紙委任をしたとは考えられず、特に前3社についてはエチレンの操業にからむため、ある程度の操業度の維持の約束があると思われる。逆にいえば、三菱化学はこれらエチレンセンターを抱え込んでしまったともいえる。

⑤宇部興産PE事業再編 
宇部興産は01年10月に宇部がグランドポリマーの持分を三井化学に譲渡し
PP事業から撤退したが、新聞報道では丸善石化コンビナートに197千トンの能力を持つPE事業についても03年までに撤退する方針を決め、事業売却の検討に入ったと伝えられた。

しかしながら、京葉モノマーのVCMと同様、宇部のPEプラントが停止するとエチレンの操業に支障を生じる丸善石化の提案により、丸善石化のエチレンとの一体運営を行うこととし、宇部はPE事業を分離して宇部丸善ポリエチレンを設立し、その50%を丸善石化に譲渡し、JVとした。04年10月に営業開始した。

5)PS,ABS事業の再編

①PSジャパン
旭化成と三菱化学は統合会社A&MスチレンでPS事業を行っているが、03年4月に出光石油化学のPS事業と統合、新会社PSジャパンをスタートさせた。
出光は130千トンの能力の過半の85千トンを停止し、45千トンのみを残した。 

PSジャパンでは更に、04年6月、ただ一社単独でPS事業を行う大日本インキ化学(DIC)との統合を発表したが、公取委の承認を得られず、統合計画は白紙に戻された。(2/20記事参照)

②鐘化のABS事業撤退
鐘化は1966年以来超耐熱・耐熱ABSを製造販売してきたが、経営資源を他部門に集中することを決め、02年10月、
テクノポリマー(JSR、三菱化学の事業統合会社)に営業権を譲渡した。高砂のプラントは他の製品に転用した。

③日立化成のAAS樹脂事業のUMG ABSへの営業譲渡 
日立化成は、1970年より熱可塑成形材料であるAAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体)樹脂を販売してきたが、AAS樹脂の販売価格の下落、原料SMやアクリロニトリルなどの原料価格の高止まりから、収益の低迷を余儀なくされていた。日立化成では厳しい事業環境下では収益の改善は困難であるとの判断、
UMG ABSに営業譲渡することとした。

以上を通じて日本の石化事業もかなり整理されてきたが、まだ不十分との見方が大勢であった。
塩ビでは更なる再編が噂された。
特に住友化学と三井化学の統合は業界にショックを与えた。旭化成と三菱化学の「水島コンビナート一体運営」構想など、更なる大統合が噂された。

 

コメント(1)

いつも貴重な情報ありがとうございます(っていうか俺が知らないだけか?)中国の大型プラント稼動やサウジの低コストナフサの出現などからも、日本の石化事業の再編が急務と思う今日この頃です。しかるに今記載されてる歴史はその始まりに過ぎず、これから起こりうる再編を予見するのも困難な状況で、これからの日本の石化コンビナートはどこに向かうんでしょうね。。大変興味があるところです。

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