米国のMTBE市場の激変

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2006年5月5日は米国のMTBE市場が大きく変わる日である。この日以降、米国のほとんどのガソリンからMTBEが除かれる。
(ガソリン値上げを懸念する声が多く、期日が若干延期される可能性がある)

MTBEやエタノールは従来、オクタン価向上のためにガソリンに添加されていた。

1990 年改正の大気浄化法では、自動車排気ガス対策として、スモッグが問題となっている地域(ロサンゼルス地域、サンディエゴ地域、サクラメント地域等全米で約10 地域)において、1995 年から重量ベースで2%以上(上限3.7wt%)のOxygenate (含酸素分成分)を含有する改質ガソリンの販売が義務付けられた。さらに、それ以外の多くの地域や州においても、自主的に同様の基準が導入されており、現在、全米のガソリンの約30%が改質ガソリンとなっている。

Oxygenateとしては、MTBE が85%以上使用され、エタノールは8%程度であった(その後下記の一部州での禁止でMTBEの比率は減っている)。

ところが、MTBEによる地下水汚染が大問題となった。ガソリンスタンドの地下タンクには必ず漏れがある。ガソリンの漏れは微生物が分解するが、MTBEの場合には分解する微生物は少ない。このためMTBEが地下水を汚染することとなる。

米国には川が近くになくて地下水を飲み水にするところが多いが,MTBEが混じると臭いや味で飲めなくなる。また、ガソリンスタンドが営業停止になって住民がいなくなった町もあるという。

この結果、カリフォルニア州ニューヨーク州、コネティカット州などが2004年からMTBEの使用を禁止した。ニューヨーク等はエタノールに切り替えたが、カリフォルニア州では、エタノールは遠くから輸送する必要がありコストがかかること、および最近のガソリンはOxygenate混入なしでも問題がないと主張してOxygenate含有義務免除を要請し、ロスのようなスモッグ地域を除き、免除となっている。

Texas Petrochemicals LP というC4留分専業の会社がある。MTBEやブタジェン、ブテン-1、イソブチレン等々を製造販売している。この会社が2003年7月にChapter 11(日本の会社更生法に近い)を申請した。原料やエネルギーコストの上昇の中で、MTBEの規制強化で需要がドンドン減っていくと予想し、債務の縮小を狙ったものである。コンサルタントの助言を得て行ったもので、この策は見事に成功し、同社は立ち直った。本年4月に、同社はHuntsmanからブタジェンとMTBEのプラント(PO/MTBE併産設備は除く)を購入している。

昨年のエネルギー法案審議においてはいろいろな法律案が議論されたが、最終的には本年5月5日でOxygenateの添加義務が失効することとなった。また、MTBEによる汚染に関して免責にする法律も提案されたが、これは否決された。

55以降は Oxygenateの添加義務はなくなるが、オクタン価向上剤は必要である。しかし、MTBEを使用して地下水汚染が起こった場合に免責はされない。

この結果、従来MTBEを添加していたガソリンはエタノールをオクタン価向上剤として添加することとなる。
米国ではエタノールは中西部でコーンを原料に生産されている。(ブラジルではサトウキビが原料)

現在、米国では十分なエタノールがあるのか、輸送手段は十分か、又、輸送費等でエタノールがコストアップになりガソリン価格が上がるのではないか、ブラジルからのエタノール輸入関税を下げるべきだなどという議論が盛んである。

いずれにせよ、これまでにガソリンに大量に使用されたMTBEは今後は使用されなくなる。原料のメタノールにも影響が出るだろう。

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