SHARQ (Eastern Petrochemical) の歴史

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SHARQとは、アラビア語で「東方」を意味し、同社がサウディアラビア東部州に位置していることと、東方の国・日本との合弁会社であることに由来した愛称である。

本計画は1970年に石油鉱物資源公団(ペトロミン)総裁が三菱商事・三菱油化に対しサウジの石油化学事業具体化のための協力の希望表明があったことに始まる。

AR-RAZI (The Saudi Methanol Company) の方が、海外進出先を探していた三菱ガス化学が当事者であること、FSがよい結果であったことで順調に進んだのに対し、こちらは当初難航した。

日本側は製品の大部分の販売責任を負うことになるが、日本や東南アジアでの供給過剰の実情から販売が難しいこと、ルーマスのFS報告書で巨額の赤字発生の結論が出たことなどで、消極的であった。

1977年にサウジの企画大臣が来日し、通産大臣に三菱の対応の遅れにクレームをつけたことから、サウジとの関係を強化し原油の長期安定確保を図るため、通産大臣から三菱グループに対しプロジェクト推進を要請、ナショナルプロジェクトとして支援する旨表明した。

この結果、1979年1月に三菱商事、油化、化成ほか51社の出資で調査会社「サウディ石油化学開発」を設立し、翌年SABICと共同調査のための予備契約を結んだ。そして事業内容をエチレン 25万トン、EG 15万トン、LLDPE 13万トンと決定した。

1980年10月、日本側、SABlC、ダウケミカルの三者間で、エチレン、EG両プラントの共同所有・共同生産について合意がなされた。
SABICは別途ダウとエチレン50万トンとEGのJVペトロケミヤの交渉を進めていたが、エチレンの相当量をダウが輸出することとなっており、付加価値を高めたいSABICは輸出を認めたくない背景があった。このため、SHARQの計画と統合することとした。

具体的には以下の通りである。
・エチレン(50万トン):ペトロケミヤが操業、SHARQがうち、46% 23万トンを引き取る。
・MEG(30万トン):SHARQが操業、ペトロケミヤが50% 15万トンを引き取る。
 (ジエチレングリコール(3万トン)、トリエチレングリコール(1500トン):MEGと同様の扱い)
・LLDPE(13万トン):SHARQ専有。

これにより、1981年5月に投資会社「サウディ石油化学(SPDC)」に移行、海外経済協力基金の45%出資が決まった。
三菱商事が6.73%、三菱油化が4.37%、三菱化成が3.42%を出資し、ほかに、石化、銀行、石油、電力、銀行、鉄鋼など46社が出資した。

そしてSABICとSPDCの間でSHARQが、ダウとの間でペトロケミヤが設立された。(SHARQは1981年9月に設立登記) SHARQとペトロケミヤの間で共同所有・共同生産契約(JOPA)が締結され、また、SPDCとペトロミンの間でインセンティブ原油供給契約が締結された。
なお、後になって改定されたが、当初の契約ではSPDCは能力の75%の引取義務(権利ではなく、SABICの通告で減量可能)があった。

ところが1982年12月に突然、ダウがペトロケミヤから撤退した。日本側はショックを受けたが、サウジ側は大臣がダウの撤退をSHARQプロジェクトに影響させないことを約束したため、日本側はプロジェクトを引き続き推進する方針を再確認した。ペトロケミヤは以後、SABICの100%事業として当初案の通り推進された。

1981年6月に千代田化工建設との間で建設契約が結ばれ、設計・エンジニアリング、基礎工事、プラント建設(1983年3月~85年3月)、と順調に進んだ。その間、サウジの従業員のトレーニングが日本で実施された。 

1985年5月、ペトロケミヤのエチレンが操業開始、その後SHARQのPE、EGが運転を開始した。11月にはEGの第一船が波方ターミナルに入港、12月にはLDPEの日本市場引取りが開始された。EGは当時は日本で不足しており、メーカー4社が均等に引き取った。LDPEは日本のメーカー11社が国内外で販売した。

なお、インセンティブオイルについては、その後の原油の市場価格下落によりメリットがなくなった。ペトロミンはノンペナルティでの引取量削減を了承、1986年に契約を終了した。

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営業運転開始の頃からは石化製品の需給が逼迫状況となり、市況が大幅に改善。SHARQは営業初年度から利益を計上し、配当を実施した。そのため、SPDCも累積損失をほぼ一掃した。
SHARQの生産および販売は、その後順調に拡大し、高収益を継続した。このためSHARQは次のステップヘと向かうこととなる。

1989年にSABICはペトロケミヤの第2エチレン建設方針を決定、翌年SHARQが第2期計画を決定した。

 1991年の実能力:
  エチレン 79万トン(SHARQ分 36万トン)
  MEG   36万トン( 同     18万トン)
  LLDPE 19.6万トン

 第二期計画:
  エチレン 50万トン(SHARQ 
38%*) 
  MEG   42.5万トン(SHARQ 50%)
  LLDPE 20万トン 

  原料はエタン不足のためNGLとなり、ケロッグのミリセカンド法採用
  プロピレン27.3万トン併産する(SHARQでは不要)
  SHARQのエチレン引取枠は(エチレン+プロピレンx0.83)x38%
27.6万トンとなる。

第2期計画は1993年に完成した。その後、第1エチレンは15万トン、第2エチレンは20万トンの手直し増設をしている。

 1994年の実能力:
  エチレン① 79万トン(SHARQ 46%)
  エチレン② 80万トン(SHARQ プロピレンのエチレン換算分を含めた合計の38%)
  MEG    90万トン(SHARQ 50%)
  LDPE    45万トン

1996年には第3期計画で合意し、2000年に完成した。

  エチレン 80万トン(SHARQ 37%) S&W法
  MEG   45万トン(SHARQ 50%)
  LLDPE 30万トン

現在の能力は以下の通り。

  エチレン 244万トン(SHARQ 115.5万トン) 
  EG     135万トン(SHARQ  
67.5万トン、うち日本側権利 27万トン)
  LLDPE  
75万トン(うち日本側権利 30万トン)

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SHARQ新規計画

20046月、SPDCは拡張計画の大筋を発表した。ペトロケミヤとのエチレン共同保有とは別に、自社でエチレンを生産するとともに、EGとLDPEのほか、HDPEも生産する。

・原料:エタンとプロパン
・立地:現SHARQ敷地内
・製品:エチレン 120万トン
     MEG    70万トン
     LLDPE  40万トン
     HDPE   40万トン
・完成:2008年1Q

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なお、SPDCの出資比率は三菱商事の6.73%に対して、三菱油化と化成の合併により三菱化学が7.79%と商事を上回り、国際協力銀行(元、海外経済協力基金)の45%に次ぐ第二位の株主となっていたが、2005年に三菱商事が少数株主から保有株式を買取り、出資比率を21%に引き上げた。三菱商事主導の形を明らかにしたもの。

 

現在(及び今後)のSABICの石化計画の概要は以下の通り。
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/big/sabic.htm 

資料:「サウディ石油化学 20年のあゆみ」ほか

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