信越化学、ヨーロッパのメチルセルロース能力増強完了

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信越化学は5日、メチルセルロースのヨーロッパでの生産拠点、SEタイローズ社(SE Tylose GmbH & Co.KG)の増設を完了し、本格稼動を開始したと発表した。同社は直江津工場と合わせて能力63千トンとなり、これまでの首位の米ダウケミカル(約45千トン)を抜き世界第1位の座を確固たるものとした。

同社は200億円をかけて日独で増強をおこなったもので、昨年12月に直江津工場(新潟県上越市)の生産能力を年産20千トンから23千トンに増強、今回ドイツのSEタイローズ社の能力を27千トンから40千トンに増強して、合計能力を63千トンとした。

セルロース誘導体はパルプを主原料とする水溶性高分子で、建材用、医薬用を主要用途に、食品、トイレタリー、土木など幅広い用途分野を持つ。
信越化学は用途別に見ても現在、医薬用途で世界トップ、建材用途でも世界トップクラスのシェアを有している。今回の増設は
建材および医薬向けが順調に伸びる見通しであるため実施した。

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SEタイローズは信越化学が2004年1月にスイスのクラリアント社(1955年にSandozの化学品部門がスピンオフしたもの)からセルロース部門を買収したもので、Shin-Etsu International Europe 100%子会社とした。買収額は 241百万ユーロ(約310億円)で、社長は欧州の塩化ビニル樹脂の拠点、Shin-Etsu PVC B.V.の荒井文男社長が兼務している。

信越化学のセルロースが主に医薬・工業用途なのに対し、クラリアント社のセルロースは主に建材用途。日・欧の2拠点を確保しセルロース事業の欧州での拡大を図りたい信越化学と、事業の選択と集中を進めたいクラリアント社の意向が一致した。

SEタイローズはメチルセルロースのほかにヒドロキシエチルセルロースも10千トン生産しており、建築・塗料用を中心に全世界に販売している。

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なお、同事業で首位の座を奪われたダウも巻き返しを図っている。
まず、ドイツの
 Stade工場で本年に3千トンの増設を実施、次いで2007年にMichigan 州 Midland、2008年に Louisiana.州 Plaquemineで合計 17千トンの増設を行い、合計能力を65千トンとする。

セルロース需要が堅調なことから両社ともさらに増産に踏み切る可能性があり、首位争いが激化しそうだ。

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信越化学の決算(下記)でセルロース部門は有機・無機化学品部門の「その他」に含まれる。ほかに日本酢ビ・ポバール㈱が含まれるが、かなりの部分がセルロースと思われる。
2006年3月期の決算説明では以下の通り記載されている。

 セルロース 
  国内事業が医薬品向けや自動車関連向けを中心に堅調に推移したほか、ドイツのSEタイローズ社も建材向けの販売が好調だった。  
  ドイツのSEタイローズ社で増設を行うとともに、国内では昨年末増設が完了した製造設備の安定操業に取り組み、事業の拡大に努めている。

日本で20千トンの能力しか持たなかった信越化学がM&Aにより2極で47千トンと世界の1/3のシェアを確保し、ダウとの上位2社で7割近いシェアを占めることで、価格を安定させ、収益向上を実現した。続いて大増設で短期間に世界一に仕上げた。
塩ビ、シリコーン、半導体シリコンなど得意とする製品に経営資源を集中し、それぞれをまたたく間に世界的な事業に育てた、金川社長の決断はやはり、さすがである。

信越化学の塩ビ事業、シリコーン事業、半導体シリコン事業についてはそれぞれ以下を参照。

2006/5/16 世界一の塩ビ会社 信越化学
2006/9/21 GE、シリコーン事業を売却
2006/9/27 信越化学、300mmウエハー生産能力の大幅増強を決定

金川社長はカントリーリスクを理由に塩ビでの中国進出はしないとしているが、中国の需要の伸びの大きいシリコーンでは例外的に進出している(投資額は大きくない)。

同社は将来の事業リスクに備え、今期から国内のウエハー設備の減価償却を従来の5年から3年に短縮、年間130億円の償却負担となるが、3月期予想の連結営業利益は前年比30%増の2410億円となり、12期連続で過去最高を更新するとみられる。

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コメント(3)

金川社長の経営は、スピ-ド経営です。本にも書いていますが、先見性と迅速な判断が、実績を生んでいます。この組織の意思決定の早さは、どうなっているのでしょうか。大きな組織を持つ他の大企業では考えられないでしょうねぇ。「不確実性の中の意思決定能力」を高めましょう。ちょっと、うらやましいです、信越化学さん. ヘッドコ-チ

金川社長のインタビューや記事がいろいろありますが、信越の意思決定の仕組みが見えてきます。

2006/5 日本経済新聞 私の履歴書
 社長に就任してから会議のムダも省いていった。取締役会は月2回から1回に減らし、1回当たりの時間もほぼ半分にした。全社的に会議の時間は3分の1以下に短縮されたと思う。
 重要事項を決める前には、案件ごとに豊富な専門知識をもった少数の役員、顧問、社員などを集め、私と具体的、かつ徹底的に議論する。会社に評論家はいらない。
 新規事業を育成するために、私が委員長となって「Z委員会」というプロジェクト・チームもつくった。研究所や工場、営業部門から委員を集めて10のテーマを選び、研究開発を進めた。


 出社は毎日朝7時半。まず信越化学や主要子会社の仕事を終え、米シンテック社の仕事に取りかかる。本社のあるヒューストンは前日の夕刻だ。ファクスで送られてくる1日の全重要事項に目を通す。電話で現地の幹部と経営課題を具体的に議論し、結論を出す。約30年間欠かさない日課である。

 塩ビに限らず、経営には相場観とスピードが不可欠だ。

 2000年にはIT(情報技術)ブームが絶頂期を迎える。当社にも「1キログラムでもいいからすぐ出荷してほしい」と顧客の要請が殺到した。直ちに緊急会議を招集し、その場で二百数十億円の新工場建設を決断した。
 建設には普通約2年かかるが「ガダルカナルを思い出せ」と言い、1年以内に完成させるよう建設責任者に指示した。

 金融市場の動向も注視している。96年半ば、金利が上がる可能性もあったので財務担当の金児昭常務を呼び、急きょ社債発行計画をつくってもらった。
 様々なリスクに挑戦して迅速に決断する経営を続けた結果、当社の手持ち資金は現在約5千億円になった。この資金を次の発展に使いたい。
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週刊現代 2003/10/25
ー えっ、中期計画もムダですか。
金川 ムダの最たるものですよ。中期計画を作るために各工場から何人もの人間が集まりますが、1年先の状態が分からないのに、3年先が誰に読めるか。売り値を高くして原価率を下げれば、いくらでも帳簿上の利益は書ける。仮定に基づいた計画を作って喜んでいるヒマがあったら、別のことに時間を使ったほうがよっぽどマシです。

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意思決定の速さはすばらしい。
しかし、社長が(80歳ですよ)毎日朝7時半に出社し、国内外の子会社も含めて、毎日の報告に目を通し決定を下すというのは、どうでしょうか。
結局はすべて金川社長の陣頭指揮のようです。
ポスト金川時代の信越でも同じことが期待できるかどうかです。
中期計画は経営を「考えさせる」上では無駄ではないと思います。

欧米企業と日本企業の競争力の違いは,ひとつは、この意思決定の早さだと思います。カリスマ・ワンマン経営者の金川社長の1つのモデルが見えていると思います。日本の化学企業も、意思決定を少しでも早くすることができれば、競争優位性が高まるのではないか、という仮説を持っているのですが…。ヘッドコーチ

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