中国のインターネット反対運動が石化計画を止める

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2006年11月、台湾資本のDragon Group(騰龍グループ)は福建省廈門の海滄投資区で芳香族とPTAプラントの建設に着工した。
PXはDragon Aromatics (Xiamen) Co.(騰龍アロマティックス)、PTAはXiang Lu Petrochemical (翔鷺石油化学) が担当する。

 
2006/7/31  台湾資本のDragon Group福建省廈門でPXからPETまで一貫生産へ
 

しかし、このたび、騰龍アロマティックスは住民の反対運動でPXプラントの建設中断を強いられた。
5月末に廈門市当局は住民やメディアの声を受け、Dragon AromaticsのPX計画について廈門地区環境評価が完了するまでの建設中断を決定した。住民の反対は収まらず、場合によっては計画の中止、立地の変更も考えられる。

廈門は旅行やレジャーに適した美しい島だが、PXプラントは廈門湾をへだて7km離れた海滄投資区にある。
(中国の規則ではそのような工場は住宅地から最低10km離れていることとなっている。)
両社は環境アセスメントを行い、国家発展改革委員会(NDRC)の認可を得ているが、環境アセスメントは一般に公開されていない。

香港の Asia Sentinel は経緯を以下の通り述べている。

当初、コラムニストがPXプラントの危険性を問題とする記事を新聞に書いたが、市当局は関連記事の記載を禁止した。
ところが、「事故が起こると何千トンもの毒物が放出される」といった内容の記事がインターネットに次々掲載された。

その内に “I Love Xiamen, No PX “. といったビラが廈門市中にばらまかれた。

これに対して、廈門市長は何も問題はないと言明した。

3月16日に北京で開催された中国人民政治協商会議(CPPCC)で、中国科学院メンバーで廈門大学の化学の教授のZhao女史が工場により引き起こされる健康問題について懸念を表明した。規則では危険な工場は住宅地から少なくとも10km離れる必要があることが喚起され、105名のCPPCCメンバーが工場移転を要請する手紙にサインした。
(Zhao女史にも騰龍アロマティックスの環境アセスメントは開示されていない)

その後、インターネットや携帯電話のSMS(Short Message Service)で情報が伝わり、爆発的に広がった。

3月25日のメッセージは次の通り。
「騰龍グループはベンゼン計画を開始した。非常に毒性の強い化学品が製造されると、廈門全体が原爆にやられるようなもので、みんなが白血病にかかり、奇形児が生まれる。我々は健康な生活をしたい。国際機関はこのような計画は住宅地から100km離すことを義務付けている。廈門は16kmしか離れていない。子孫のために、この情報を皆に知らせよう」

3月28日には地元のTVがこれを報じた。

5月30日に廈門市当局はDragon AromaticsのPX計画について、廈門地区環境評価が完了するまでの建設中断を決定した。
しかし、市民は中断は中止とは違うとし、これは単なる時間稼ぎだと批判した。

5月31日、人びとが集まり、「パラキシレン反対、廈門を守れ」のプラカードを先頭にデモが始まった。警官は何もせずに引き下がった。5,000人程度がデモに参加した。

 

騰龍アロマティックスの芳香族計画は13.5億ドルを投じて、パラキシレン800千トン、オルソキシレン160千トン、ベンゼン228千トンのほか、発電所や桟橋、タンクを建設するもので、2009年初めのスタートを目指していた。

なお、翔鷺石油化学のPTA第二期計画(150万トン)については問題となっておらず、既存プラントの増設であることから、同社ではこれに関係なく計画を続行する見込み。

ーーー

中国ではこれまで地方政府の業績はGDPGross Domestic Product)への貢献で評価されたため、住民の安全、環境保護に反することがしばしば起こった。住民無視の企業誘致が今回の事態を引き起こしたといえる。
環境アセスメントの段階で住民の意見も聞いておれば、こんな事態にはならなかったであろう。

「原爆」、「白血病」、「奇形児」などは、(どこまで知った上でのことか分からないが)、反対のために何も知らない住民をけし掛けているような感じも見られる。
これも住民への事前のPRが全くなされていなかったためであろう。問題が起こってからの対応も不十分なようだ。

相手が中国企業でなく、台湾企業であるからかどうかは分からない。

中国では2005年11月に発生した吉林石油化学の爆発事故やその他の多くの事故・環境問題で住民の不安が高まっている。
最近も
太湖のアオコ(藍藻)の発生で無錫市の飲み水供給が問題となっている。(6/16 に詳細)

中国ではようやく「省エネ・排出抑制総合工作方案」が出され、環境対策が重視されるようになったが、今後は、住民対策も必要になる。
中国に進出する日本の企業に、また新しい問題が生まれた。


* バックナンバー、総合目次は http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm

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