PPカルテル審決

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公正取引委員会は8月10日、住友化学、サンアロマー、出光興産、トクヤマに対するポリプロピレン販売価格カルテルの審決(8月8日付け)を発表した。
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.august/0708101.pdf

ポリプロピレンの販売分野における競争を実質的に制限していたとし、以下を命じた。

住友化学とサンアロマーは
 ・販売価格引き上げの合意の消滅の確認
 ・合意の消滅と今後は価格を自主的に決めることを取引先に周知徹底
 ・今後、他と共同してPP価格を決めず、自主的に決める。

出光興産とトクヤマ:
 違法行為があったが、現在は消滅
 出光はプライムポリマーに35%出資で、実質的に事業をやってはいないため、
 またトクヤマは現在PP事業をやっていないため、
 格別の措置は命じない

公取委は2000/3/6の部長会で「10円/kg目処の引き上げで合意」したと認識し、上記の判断を下した。
これに対して、企業側は「
合意なし」と主張している。

2000/3/6の部長会に関して、企業側と公取の主張は以下の通り。

企業側
(応諾した)グランドポリマーが「上申書」で、3/6の部長会でPPの値上げにつき7社が合意したことはない旨主張している。
PP市場における大手2社たる日本ポリケムとグランドポリマーが消極的意見を述べ、この意見を他社の出席者が認容している。
合意があったとの供述の間には,いろいろ矛盾があり、各供述には信用性がない。
部長会メンバーの大部分は値上げ決定権限を有していない。そこでの発言は個人としての発言にすぎない。
   
公取
7社の出席者全員が一致した旨の複数の供述調書は、事情聴取の内容を録取した上で供述人にその内容を読み聞かせ及び閲読等させた上で,同人が、誤りがない旨申し立て署名押印したものであり、その作成過程からみても任意性に欠けるところはなく、さらに各供述内容は整合している。

今回の審決で、公取委は次の通り説明している。

独占禁止法第3条において禁止されている「不当な取引制限」は「共同して対価を引き上げる等」となっているが、
「共同して」のためには「
意思の連絡」が必要である。

「意思の連絡」は、一方の対価引上げを他方が単に認識認容するのみでは足りず、対価の引上げを実施することを
認識ないし予測しこれと歩調をそろえる意思があることを意味する。
しかし、事業者間相互で拘束し合うことを明示して合意することまでは必要でなく、
相互に対価の引上げ行為を認識して暗黙のうちに認容することで足りる。

その判断に当たっては対価引上げがなされるに至った前後の諸事情を勘案して事業者の認識及び意思がどのようなものであったかを検討し事業者相互間に共同の認識認容があるかどうかを判断すべきである
(東芝ケミカル株式会社審決取消請求事件平成7年9月25日東京高等裁判所判決同旨)。

本件は改正前の独禁法に基づくため、今後の進め方は次の通りとなる。

   応諾する場合
     追って課徴金納付命令
       応諾すれば課徴金納付で完了
       審判請求すれば、審判で新しい課徴金納付命令
   
   応諾しない場合
     東京高裁へ控訴

企業側は「合意はなかった」と主張しており、東京高裁への控訴もありうる。
その場合、最終決定までまだまだ時間がかかる。

以前にも述べたが、こんなに時間がかかるのは問題である。

本件の経緯は以下の通り。

  2006/7/13 ポリプロ価格カルテル事件の現状 

  2007/7/10 ポリプロカルテルのその後 

2000 1 21 部長会で値上げの必要性について意見交換
    2 7 現状のPPの販売価格で採算が取れるナフサ価格の水準 17,000~18,000円/kl で共通認識
(各社:共通認識はない)
    2 21 PPの値上げについて意見の一致をみず
    3 6 4月以降のナフサ価格の見通し 22,000から23,000円/klで一致
10円/kg目処の
引き上げで合意
(各社は「合意なし」と主張)
    3 17 各社の値上げの打出しの内容、対外発表時期等を確認
(各社:値上げ手続き後であり、事前合意がなくとも進捗状況の話はする)
    3 27 各社の責任分担ユーザーを取り決め
(各社:送別会の集まり。酒席で,各社が値上げ交渉に入っている中での難物ユーザーの名を挙げることは、カルテル合意
     の存在を前提としなくても行われ得る)
   4   (4/15~5/1)各社の値上げ実施予定日 →課徴金計算始期
   5 30 公正取引委員会が立入検査   →前日が課徴金計算終期(2007/6/19 審決:日本ポリプロ、チッソ)
  9   チッソ、日本ポリケム、グランドポリマー 
 本件合意から離脱する旨等を他の各社に文書で通知→
課徴金計算終期(2003/3/31納付命令:三井化学
2001 5 30 公取委勧告
 

 拒否:住友化学、サンアロマー、出光石油化学(→出光興産)、トクヤマ
      
2001/6/27 審判開始決定
          9/12 第1回審判
      2006/8/4  第28回審判(審判手続終結)


 応諾:日本ポリケム
(→日本ポリプロ)、グランドポリマー(→三井化学)、チッソ

 ○日本ポリケム:
   勧告を厳粛に受け止めている

 ○グランドポリマー:
   ・
合意が成立など認識と異なる部分もあり、応諾するか否か苦慮
   ・まぎらわしい行為があったことも事実
   ・早く結論を出して欲しいという社員の気持にも配慮し、応諾
   ・認識と異なる点については上申書提出

 ○チッソ:
   早く事業に専念したいため
応諾

2003 3 31 応諾3社に課徴金納付命令
日本ポリケム  8億4517万円 →審判
三井化学
(グランドポリマー)
 7億6008万円 →応諾
チッソ  4億3513万円 →審判
2007 6 19 日本ポリプロ、チッソ審決
日本ポリプロ
(日本ポリケム)
 2億2087万円
チッソ  1億1662万円

課徴金計算終期の見直しで当初の命令より大幅減額

2007 8 8 勧告拒否4社に審決

  結論 独禁法違反あり(各社は否定しているが)

住友化学、サンアロマー 価格引き上げ合意の消滅の確認とその周知徹底等
出光興産、トクヤマ 格別の措置なし(PPの製造販売業を実質的に営んでいない)

 

付記

独禁法
第54条  公正取引委員会は、排除措置命令に係る審判請求があつた場合において必要と認めるときは、
当該排除措置命令の全部又は一部の執行を停止することができる。
   2    前項の規定により執行を停止した場合において、当該執行の停止により市場における
競争の確保が困難となるおそれがあるときその他必要があると認めるときは、

公正取引委員会は、当該執行の停止を取り消すものとする。

今回、公取委が住友化学とサンアロマーに「価格引き上げ合意の消滅の確認とその周知徹底等」を命じたのは上記の「特に必要があると認めるとき」に該当すると認めたためとしている。

その理由として以下の通り述べている。

平然と情報交換した
PP製造販売業者の数は7社から4社に減少したことにより、情報交換をすることがさらに容易になった
PPの値上げについて共通の認識を形成しやすいといえる
(ナフサ価格とPPの価格との連動性)
ポリオレフィン業界においては価格の引上げを行う不当な取引制限が繰り返し行われてきた
とりわけ
住友化学は過去にPPの価格カルテルにつき1回、PEの価格カルテルにつき3回行政処分を受けたこと
   
以上から、今後、本件違反行為と同様の違反行為が再び行われるおそれがあると認めることができる
   
なお、「特に必要があると認めるとき」に該当するか否かの判断については、公正取引委員会の専門的な裁量に委ねられている。
(最高裁判所平成16年(行ヒ)第208号、平成19年4月19日判決)

Plattsは Japan's FTC fears Sumitomo Chem may engage in price fixing again というタイトルで本件を伝えている。      

 

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