経団連の独禁法改正に向けた提言

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経団連は11月20日、「独占禁止法の抜本改正に向けた提言 -審査・不服申立ての国際的イコールフッティングの実現を-」を発表した。
  
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/091.html

 

改正独禁法は2006年1月4日に施行されたが、附則で、「政府は、この法律の施行後2年以内に、新法の施行の状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、課徴金に係る制度の在り方、違反行為を排除するために必要な措置を命ずるための手続の在り方、審判手続の在り方等について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」とされている。

   改正独禁法については 2006/2/16 独禁法改正 

これに基づき、内閣官房長官の下で「独占禁止法基本問題懇談会」が開催され、2006年7月には「独占禁止法における違反抑止制度の在り方等に関する論点整理」が公表され、2007年6月に報告書が取りまとめられた。

   2006/7/25 独占禁止法に関する論点整理 

   2006/8/2  「独占禁止法基本問題」に関する経団連のコメント

 

公正取引委員会は10月16日に「独占禁止法の改正等の基本的考え方」を発表した。
   
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.october/07101601.pdf 

上記の報告書等を踏まえ,公取委の責任で作成・公表したもので、今後、政府部内を含めた各方面との議論を踏まえて、具体的な法案等の作成作業を行うこととなる。

公取委の考え方の主なポイントは以下の通り。

    現行法 改正案
課徴金 対象となる違法行為 ほぼ、談合・カルテルに限定 (追加)
・他の事業者の事業活動排除行為(コスト度外視の価格設定等)
・不当表示や優越的地位の乱用
時効(除斥期間) 3年 5年(欧米なみ)
算定率 大規模製造業者で10% 変更なし
割り増し 再違反は5割増 「主犯格」を追加(加算率は未定)
自首による減免制度 先着3社まで減免 ・減免企業数を拡大
・グループ各社を1社とカウント
審判制度 処分の審査と不服申し立ての
審判をともに担当
変更なし
他社の株式取得の届け出 事後届け出 事前届け出

上記の2006年8月の経団連コメントの「望ましい法改正の姿」の一つは、公取委の審判の廃止で、公取委が審査・審判の両方を兼ねることへの不信感を払拭するため、公取委による審判を廃止し、公取委の行政処分への不服申立ては、裁判手続に委ねるというものであった。

今回の公取委案では審判制度は変更なしとなっている。

公取委の竹島一彦委員長は以下の通り述べている。

「処分の審査と不服申し立ての審判を同じ組織が兼ねることへの疑念は印象論としては理解できる。
ただ、独禁法違反事件の審査には継続性や高度な専門性が必要であり、公取委が第一審相当の判断を行う方が合理的かつ効率的だ」
「公取委の判断に納得がいかない企業は高裁に訴えを起こせる。今の制度で企業が被害を受けているとは思えない」

ーーー

経団連の提言は、以下の通り、問題意識を明らかにしている。

グローバル化に伴い独禁法の重要性は高まり、国際的整合性が求められる。

しかし、わが国の独禁法に係る行政処分にいたる手続及びその後の不服申立手続は、欧米諸国の制度と比べて、適正手続、制度運用の予見可能性が十分に確保されているとは言い難い状況にある。

基本問題懇談会は、2年間という長期に渡る審議にもかかわらず、21世紀の競争法のあるべき姿を根本に立ち返って見直すとの基本理念を見過ごし、また独禁法の執行にあたっての適正手続の確保に関する国際的な比較や各界からのコメントへの対応も十分になされないまま、本年6月に報告書を公表した。
これをもとに独占禁止法の見直しがなされるならば、さらに問題が深刻化するおそれがあるといわざるを得ない。

1.予見可能性を確保した、国際的に整合性のある適正手続
  
課徴金を課す際には刑罰と同程度の適正手続が確保されなければならない。

2.迅速で明確な課題の解決
  収集した証拠を行政機関側に有利か不利かを問わずアクセスができる状態に置くこと。

3.摘発・行政処分へのリソースの集中
  独占禁止法違反事件の多くはカルテル・談合事件など、違反事実の有無が争点となるものであり、
  この判断に習熟した裁判官に委ねるのが適切である。

経団連の「望ましい法改正の姿」は以下の通り。

1.不服申立手続の公正・公平性の確保
  
(1) 公正取引委員会の審判の廃止
     
行政処分に対する不服申立ては地方裁判所に対する取消訴訟の提起により行う仕組みに改めるべき。

  (2) 専門的な審理機関の整備

  (3) 専門的人材の育成・確保

  (4) 公正取引委員会の保有する証拠の開示
      裁判所からの令状なしに証拠の収集が行われ、これに対する妨害行為には罰則が強化されている。
      審査対象の事業者及び代理人がすべての関係証拠を閲覧できることを法律上明記すべき。

  (5) 現行法上の排除措置命令が出されるまでの適正手続の確保
      意見申述・証拠提出の機会

2.国際水準に適う新たな審査制度の構築
  
(1) 弁護士立会権等の確保

  (2) 自己負罪拒否特権の創設
      
「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」という自己負罪拒否特権及び黙秘権

  (3) 審査の透明性の確保  

3.その他の公正取引委員会の考え方に関する意見

   (1) 萎縮効果を生じさせない課徴金の対象範囲の見直し
      事業者の正当な競争インセンティブひいてはわが国経済の持続的な成長を阻害することのないよう

   (2) 公正取引委員会による警告・公表要件の明確化

   (3) 証拠文書等の適正な取り扱い

   (4) 実務に配慮した株式取得の事前届出化等

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* バックナンバー、総合目次は 
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
  
項目別の索引も作成しました。

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