Bayer の薬害問題

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217日の米CBSテレビの報道番組 60 Minutes One Thousand Lives A Month” というタイトルで Bayer の失血予防薬 Trasylol (Aprotinin) の薬害問題について報じた。

   http://www.cbsnews.com/stories/2008/02/14/60minutes/main3831900.shtml (番組ビデオ付き)

Bayer HealthCare Pharmaceuticals Trasylol (Aprotinin)は失血リスクや輸血リスクが高い患者の心臓バイパス手術時の失血予防薬として使われる。

Trasylol は出血をコントロールできるという研究から1993年にFDAが使用を承認した。

しかし、2006年1月に Dr. Dennis ManganoNew England Journal of Medicine に次の発表を行なった。

血行再建術を受ける患者 4,374 例を対象に、3つの薬剤(Aprotinin 1,295 例、アミノカプロン酸 883 例、トラネキサム酸 822 例)の投与と薬剤非投与(1,374 例)について評価した。

アプロチニンの使用は、複雑な冠動脈手術を受けた患者あるいは初回手術を受けた患者において、透析を要する腎不全のリスクが 2倍になることと関連していた。
同様に、初回手術群にアプロチニンを使用すると、心筋梗塞または心不全のリスクが 55%増加し、脳卒中または脳症のリスクが 181%増加した。
アミノカプロン酸とトラネキサム酸はいずれも、腎、心、脳イベントのリスク増加とは関連していなかった。

結論
アプロチニンは重篤な標的臓器障害と関連することから、継続的使用は賢明ではないことが示される。
一方、アプロチニン($1,000)より安価なジェネリック薬であるアミノカプロン酸やトラネキサム酸($50)は、安全な代替薬である。

FDAは20062月に、この研究に基づき、本剤の使用を制限するよう、勧告を出したが、禁止はしなかった。 

BayerはハーバードのDr. Alexander Walker に調査を依頼した。70,000人の患者の記録から、同じような結果が得られた。

2006年9月、Dr. ManganoはFDAに17カ国5,065名の患者の観察を提示し、本剤の禁止を要請した。
しかし、彼の研究はプラシーボ(偽薬)と対比するというきちんとした研究ではなく、病院の記録の分析であったため、あまり評判はよくはなかった。
Bayerはこの会議に出席したが、
Dr. Walker の研究結果については触れず、本剤を擁護した。
(以後の調査で、担当者がこの報告の研究方法や分析に問題があるとして質問し、会議日までに返事を受け取っていなかったとしている)
この結果、本剤は禁止されなかった。

20079月に開催されたFDA諮問委員会に先立って発表された資料において、FDAはTrasylol (Aprotinin)が透析が必要となる腎不全や死のリスクを上昇しうるという見解を表明、11月に使用が禁止された。

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番組ではDr. Mangano は、2006年1月から2007年11月までの間に 431,000人の患者が本剤の投薬を受けており、もし20061月の彼の報告時に本剤を禁止しておれば、22,000人(月 1,000人)の命 (番組タイトルの One Thousand Lives A Month) が救われたであろうと述べた。

FDA Dr. Hiatt は、もしBayerの調査結果を知っておれば、20069月の会議で禁止の提案をしていたであろうと述べている。


* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

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