欧州カルテル制裁金への対応

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2007年には欧州委員会は多数のカルテルを摘発し、多額の制裁金を科したが、日本の企業も多く含まれている。     

対象分野 主な対象企業 制裁金
(百万ユーロ)
送電設備 三菱電機、東芝、日立製作所、独・シーメンス   751
エレベーター 三菱電機、米・オーチス   992
ファスナー YKKグループ、独・プリム   329
業務用ビデオテープ ソニー、富士フィルム、日立マクセル    75
建築用板ガラス 旭硝子、日本板硝子、仏・サンゴバン   487
クロロプレンゴム ENI、旧DuPont Dow Elastomers電気化学、東ソー    243
NBR  (2008/1) Bayer日本ゼオン    34

 

これに対し、各社が順次、対応を発表している。

送電設備(ガス絶縁開閉装置)(単位:千ユーロ)

   2007/1/26 EU、電力用ガス絶縁開閉装置のカルテルで1200億円の制裁金    

  免責額 制裁金
Siemens(ドイツ)     396,563
Siemens(オーストリア)      22,050
ABB(スイス)  215,156       0
三菱電機     118,575
東芝      90,900
Alstom(フランス)      65,025
Areva(フランス)      53,550
日立製作所      51,750
Schneider(フランス)      8,100
富士電機システムズ      3,750
日本AEパワーシステムズ*      1,350
合計  215,156   750,713
* 富士電機システムズ、日立、明電舎のJV

三菱電機、東芝、日立製作所、富士電機ホールディングスは、それぞれ欧州第一審裁判所へ提訴した。

日本企業は欧州での販売実績はほとんどないが、上記の取り決めに従って欧州で応札せず、直接的に欧州での競争を制限したため制裁金が課せられた。

欧州の送電設備市場は地元勢が強く、機器の仕様も独特。製品投入には新た場開発投資が必要になる。
欧州市場参入を見送った経緯について「参入しても採算を取るのは難しい」との判断があったと説明する。

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エレベーター(単位:千ユーロ)

   2007/2/28 EU、エレベーターのカルテルで過去最高の罰金 

社名 減額 罰金
KONE Oyj  138,130  142,120
三菱電機      18    1,841
Otis  208,227  224,933
Schindler    5,277  143,780
ThyssenKrupp   37,980  479,670
合計    992,312

三菱電機の発表はない。(少額なため、受け入れたと思われる)

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ファスナー 4つのカルテルで摘発)(単位:千ユーロ)

   
Prym group(ドイツ)   40,538千ユーロ
YKK group    150,250
Coats group(英)      122,405
他 4社         15,451
合計          328,644

YKK は2007年12月7日、欧州第一審裁判所に提訴した。

欧州委が主にカルテルに関与していたとするのはYKKの独子会社のYKK Stocko Fasteners GmbH だが、1994年にYKKが資本参加し、1997年に全額出資の子会社とした。
カルテルはYKKが資本参加する以前に始まっており、情報開示の不足があったとして、旧オーナーに損害賠償請求をしている。
同子会社は欧州だけで事業を展開しているが、欧州委はYKKの全世界売上をもとに制裁金を科したことを不服としているもよう。

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ビデオテープ (単位:千ユーロ)

Sony  47,190  
Fujifilm  13,200 協力で40%減
Hitachi Maxell  14,400 協力で20%減
合計  74,790  

日立マクセルは2008年1月31日、制裁金 14,400千ユーロを支払うと発表した。
提訴による裁判費用などを考慮した。

付記 ソニーは2月15日、制裁金支払いを発表した。

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建築用板ガラス (単位:千ユーロ)

  2007/12/1 欧州委員会、板ガラスカルテルに制裁金
    

Asahi (Japan)   65 000
Guardian (USA)  148 000
Pilkington (UK) 日本板硝子  140 000
Saint-Gobain (France)  133 900
TOTAL  486 900

なお、EUは自動車用ガラスについても調査を行なっている。

日本板硝子は2008年1月31日、制裁金140,000千ユーロを支払うと発表した。
提訴による裁判費用などを考慮した。

日本板硝子は自動車分を含めた過料額を3.5億ポンド(約 465百万ユーロ)と見込み、ピルキントン社買収後の暖簾と合わせ、20年定額で償却することとし、2007年3月期決算に折り込んでいる。

旭硝子は2008年2月5日、課徴金の支払いに応じることとしたと発表した。
同社グループの主張が欧州委員会による課徴金の決定に概ね反映されたこと等を総合的に勘案した。
同社は自首減免制度に基づき、EUの調査に協力し、追加証拠を提出して、制裁金の減免を受けている。

なお同社は2008年1月15日、グループ経営の立場から監督上の社会的責任を痛感しているとし、代表取締役、取締役会議長、並びに関係執行役員は1月度から3ヶ月間、報酬の30~10%を自主返上することにしたと発表した。

同社は2007年12月期の決算で、自動車ガラス分も含めた課徴金の引当として324億円の特別損失を計上した。

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クロロプレンゴム (単位:千ユーロ)

   2007/12/11 欧州委員会、クロロプレンゴムのカルテルで 243.2 百万ユーロの制裁金

  本来の制裁金 減額 実際の制裁金
Bayer    201,000 *1  100%        0
東ソー       9,600   50%     4,800
DuPont/Dow
(うちDow) 
   79,000
  (64,900)
  25%     59,250
    (48,675)
ENI     132,160 *2      132,160
電気化学     47,000       47,000
合計        243,210

電気化学は2008年1月15日、「当社およびデンカ ケミカルズ社は競争制限行為を意図したことはなく、かつ事実認識も異なるため、欧州第一審裁判所へ提訴することにした」と発表した。
但し、「発生する可能性がある最大損失額(4,700万ユーロ=約76億円)を特別損失として引当計上する」として、連結決算予想を修正した。


一方、
東ソーは2008年1月31日の役員会でこれを「応諾」することを決めた。
訴訟を提起した場合の裁判の長期化による時間的・費用的負担、課徴金の更なる減額の可能性などを総合的に判断した結果、裁判によらず早期解決を図ることが最善と判断した。

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なお、従来は欧州第一審裁判所への提訴では、ほとんどのケースで制裁金が引き下げられていたが、2007年12月の家畜用のビタミンB4 カルテルではBASFに対する制裁金を引き上げる判決がなされた。
企業は今後、控訴戦略をよく考えるべきだとの意見が出ている。

2007/12/14 欧州第一審裁判所がカルテルの制裁金を増額 


* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

 

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