ホンダの中国四輪車事業の移転価格税制問題

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ホンダが東京国税局の税務調査を受け、2002年3月期以降の収益について中国の四輪事業で総額1,400億円を超える巨額の申告漏れを指摘された。

国税局は技術移転や設備、部品の販売、日中間の利益配分など事業全面にわたり、問題を指摘した。

   移転価格税制については
     2006/6/29
武田薬品、移転価格税制に基づく更正 (他の例も記載) 
       

     2008/2/7 
信越化学の移転価格課税 
     

これに対し、ホンダは、「中国の合弁会社との取引条件についても、日本・中国両国の法令等を遵守し、適切な取引価格が実現されるよう努め、結果得られる利益に対しては日本・中国両国において適正に納税を行っております」としている。

中国では多くの産業が、現地との合弁を義務付けられており、ホンダの子会社も地元の有力企業との共同出資である。

ホンダの中国での活動は以下の通り。

合弁会社 Honda 提携先 立地 製品 備考
広州本田汽車 50% 広州汽車 50% 広州市 第一工場 四輪車24万台/年
第二工場 四輪車12万台/年
合計 36万台/年
1999年スタート
東風本田汽車 50% 東風汽車 50%     (3段階計画)
 東風本田汽車零部件 広東省恵州市 四輪車の部品 1994年スタート
 東風本田発動機 広州市 エンジン 1998年スタート
 東風本田汽車(武漢)* 湖北省武漢市 四輪車 12万台/年 2003年*
本田汽車(中国) 65% 広州汽車 25%
東風汽車 10%
広州経済技術開発区
輸出加工区
欧州向け Jazz 5万台/年 輸出専用生産拠点
        (四輪車 合計53万台/年)  
五羊-本田摩托(広州) 50% 広州摩托集団 50% 広州市 二輪車 100万台 2006年新工場に移転
新大洲本田摩托 50% 海南新大洲摩托車47.33%
天津摩托集団 2.67%
天津市、上海市、海南市 二輪車  
嘉陵-本田発動機 70% 中国嘉陵工業 30% 重慶市 汎用エンジン、芝刈機、ポンプ  

  *東風本田汽車(武漢):東風の武漢万通汽車の50%をホンダが引受

 

中国での大規模事業の合弁契約は政府の承認が必要で、政府から条件を付けられることが多い。

ホンダの場合も政府からロイヤリティの率に制限がつけられ、これが問題になったという。

米国でProcter & Gamble IRS(国税庁)から移転価格税制(税法482条)で追加課税されたことがある。スペインのEspanaへのライセンスについて、スペインの法律で禁止されていることからロイヤリティを取らなかったのが問題となった。
この件は裁判になり、スペインの法律の規定が優先され、
P&Gの勝訴となった。

今回の場合、国税局はロイヤリティの率制限が「法律」ではなく、「行政指導」であるとして、これを認めなかった模様である。

しかし、中国政府の条件を呑まなければ事業ができない状況にあることから、これが前例となると、移転価格税制に関する問題が新たな「中国リスク」として浮上する。中国に進出する企業のほとんどが対象となる。

今回のような場合、もし日本で課税を受ければ、本来は契約を変えてロイヤリティを高くすることになるが、中国がそれを認める筈はなく、結局二重課税となってしまうこととなる。

もう一つの問題は、ホンダのJVのうちメインの広州本田と東風本田は50/50JVであることだ。

米国では海外取引だけでなく、国内取引でも移転価格税制が適用される。関係会社との取引価格は第三者との間の取引価格に調整して課税所得を計算する。(税法482条)
逆に第三者との取引価格はどんなものでも問題ない。利益が対立する第三者との間で、仮に安い価格を決めるとすると、他で何らかのメリットがあるからの筈である。(それがなければ背任となる)
この意味で、第三者との50/50のJVの場合は、移転価格税制は問題にならない。

日本の国税局は武田薬品の場合も50/50JVとの取引価格を問題とした。敢えて相手に利益を与える筈はなく、この措置はおかしい。

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別途、中国の法人税が低いことから、ロイヤリティや求償価格を低くすれば、企業にとって有利になるという背景もある。(出資比率による)

200811から新企業所得税法が施行されたが、それまでは外国企業には優遇税率が適用され、かつ「2免3減制度」で、黒字化から2年間は免税、その後3年間は税率が半分になるという恩典があった。

  一般 輸出比率7割超の企業など
中央指定の開発区  15%    10%
地方指定の開発区  24%    12%
 * 黒字化から2年間は免税、その後3年間は上記の税率が半分

改正後でも、国内外企業に対する所得税率は25%で、日本よりはるかに低い。 

   2008/1/4 中国、新企業所得税法施行  

通常は法人税率の低い国で事業をしても、配当を日本で受ける際には、日本の法人税率で課税されるため、メリットはない。
ただし、開発途上国が産業育成のために税の免除をしているのに、日本で課税されれば目的が果たせないため、途上国の場合は「みなし外国税額控除」を適用し、相手国で日本と同じ税率で納税したとみなす措置が行なわれる。

日中租税条約では中国の経済開発奨励措置に関する「みなし外国税額控除」の適用を決めているが、中国の所得税法改正後もみなし外国税額控除が適用されることが、日中両国の税務当局間で確認されている。

国税局がこの視点で企業の行動を見るという可能性もある。

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ホンダは2008年3月期の(米国会計基準に基づく)連結財務諸表で、関連負債および税金費用として800億円を計上した。
同社は、調査は現在も進行中であり、「あくまでも将来の税金費用の発生を米国会計基準の解釈指針48号に基づき見積もる」という連結財務諸表上の会計処理であるとしている。
(日本の会計原則にはこの規定はなく、単独決算には反映させていない)

米国財務会計基準審議会(FASB)は2006年6月に解釈指針第48 号「法人所得税の申告が確定していない状況における会計処理」を発表、2006年12月16日以降開始事業年度から適用することとなり、ホンダは2007年4月1日から適用している。

従来は法人所得税の不確実性は「偶発事象の会計」でカバーされ、偶発損失は発生可能性が probable(70%程度以上)で、かつ金額の合理的見積が可能な場合に認識することとなっていた。(偶発利益は認識せず)

新しい指針では、税務当局との論争が最終的に裁判所に持ち込まれた場合、申告通りとなる可能性が「50%を超える」かどうかが基準となる。


* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。


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