チッソ分社化構想 棚上げ

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水俣病の未認定患者の新救済策がチッソの拒否で膠着状態になっているのに対応するため、自民党の水俣問題小委員会は6月10日、チッソの分社化の素案をまとめた。

しかし、与党水俣病問題プロジェクトチームは17日の会合で、チッソの分社化の検討より、「未認定患者の救済策実現を優先させる」との認識で一致し、問題の全面解決に向け、訴訟を起こしている団体に対し和解を働き掛けていく方針を確認した。

2007/11/23 チッソ、与党プロジェクトチームの水俣病未認定患者の新救済策を拒否 

2008/5/31 チッソの弁明 

 

自民党の水俣問題小委員会(園田博之委員長)は10日、チッソの分社化を進める「公害健康被害補償金等の確保に関する特別措置法」の素案をまとめた。

液晶で好業績を続けるチッソを新会社に衣替えさせることで補償への不安を解消、同社の新たな負担を伴う与党プロジェクトチームの未認定患者救済案の受け入れを促すのが狙い。

法案の骨子は以下の通り。

公害被害の補償で多額の債務がある事業者に債務支払いと事業とを別法人で行わせ、収益力を高めて債務履行を完遂させることを目的とする
   
事業者は患者補償や公的支援の債務返済、地域経済への支障を及ぼさない再編計画を作成し環境相による認可を受けなければならない
   
新規事業会社の株式譲渡には環境相の承認を必要とし、譲渡益は公的支援を行っている自治体に納付。自治体はこれを積み立て、補償債務支払いを引き受ける
   
事業者と自治体は債務引き受けに関する協定を締結できる。締結には環境相と自治体議会の承認を必要とする
   
再編で新たに生じる登記諸税や法人事業税などは免除。欠損金処理に関する特例措置も設け事業者負担を軽減する
   

チッソの事業部門を100%子会社化して上場・独立させ、現在のチッソは補償部門だけを担う親会社とする内容。
上場後の株式売却益で約1500億円の公的債務と約400億円の金融機関に対する債務に加え、将来も続く患者補償を担う。
親会社は当面、子会社の株式配当益で補償業務を担い、3年後をめどに株式を他者に全面譲渡、譲渡益を熊本県に納付して補償業務を委ね、清算するとしている。

園田氏は「患者補償の安定した財源を確保し、膨大な公的債務を早期返済できる土台づくりのためだ。チッソの業績が好調な今でないと時機を逸する」と語った。

園田氏は、「課題は二つ。一つは将来の患者補償も含め、チッソが負うおおよその債務を確定できるか。もう一つは、その債務を十分上回る評価が株式市場で得られるかどうかだ」としている。

小委員会では、譲渡益(税金免除)は2000億円以上が見込まれると想定している。

「株売却で株が別の資本の手にわたり、水俣工場がなくなるのでは」という地域の不安の声に配慮し、「債務返済、地域経済への支障を及ぼさない」とした。
また、分社化しても、債務がほぼ固まらないと株は売却しないとしており、
株式譲渡には環境相の承認を必要」とした。

チッソは未認定患者による訴訟も抱え、補償費用がさらに膨らむ可能性がある。親会社清算後に新たな負担が生じた場合にどうするかという問題がある。

売却益について、大手証券会社関係者は「見込みを上回る可能性もあるが、素案に『地域への配慮』が盛り込まれたことなどは譲渡益が減るリスクでもある」と指摘している。

ーーー

この案では、補償業務を熊本県が引き継ぐ形となり、公害の汚染者負担(PPPの原則)を揺るがしかねないとの批判が強い。
汚染者負担の原則(PPP)を貫くためとして、国と熊本県は32年間公的支援を続けてきたが、子会社株売却後には親会社は清算するため、加害企業が消滅することになる。

鴨下一郎環境相は13日、「分社化によって水俣病の責任の所在が不明瞭になることを心配している」と懸念を表明、「訴訟もあり、将来的に債務がどの程度になるのかが不透明な間に、分社化が進んでいくのはどうなのか」と述べた。

2000年の抜本策作成に加わった熊本県職員は、「チッソの存続自体、市場原理を逸脱した公的支援が前提」と指摘、「道義的責任を有するが故に存続しているチッソの分社化構想は、倒錯した企業倫理観を改めて印象づける」とし、「分社化の本質は、過去の責任との決別であり、それは許されない」としている。

チッソなどを相手取り係争中の水俣病不知火患者会(約2100人)と水俣病被害者互助会(約150人)は、「被害者救済が最優先。加害企業が形を変えて延命するのは許されない」との共同声明を発表した。

 

17日の与党水俣病問題プロジェクトチーム会合では分社化法案を公明党や県、県議会に説明した。

県議会などからは分社化の議論が救済策より先行することへの批判が噴出した。
公明党は、分社化法案も「白紙から検討する」としたが、あくまで「救済策実現による全面解決のめどを立てた上での話」とクギを刺した。

未認定患者のうち約3400人が与党救済策の受け入れを表明する一方、約1500人はそれを拒み国家賠償請求訴訟を起こしており、全面解決の枠組みはできていない。

プロジェクトチームは、チッソの分社化の検討より、「未認定患者の救済策実現を優先させる」との認識で一致し、問題の「全面解決」に向け、訴訟を起こしている団体に対し和解を働き掛けていく方針を確認した。
園田博之座長は「分社化法案の結論は、全面解決のめどが立たないと出せない。裁判に訴えておられる方に、話し合い解決を求めていく」と話した。

 

日弁連の水俣病問題検討プロジェクトチームは未認定患者の実態調査を行なっている。日弁連は、与党プロジェクトチームの未認定患者の新救済策を「不十分な内容」と批判し、現行の認定基準見直しを含めた総合的な救済施策を求めている。今秋にも実態調査の結果をまとめ、国や熊本県に不知火海沿岸住民の健康調査を迫る考え。


* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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