オーストリアのOMV、ハンガリーのMOLの買収をギブアップ

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オーストリアの石油会社OMVは昨年9月にハンガリーの石油会社MOLの買収の意向を発表、その後、MOLが自社株買いに動くなど、徹底抗戦の構えを示していた。

OMV86日、欧州委員会がこの買収に反対したことを理由に、買収提案を引き下げた。

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OMV Aktiengesellschaft はオーストリアの製造業では最大の上場企業。中欧での最大の石油・ガス企業で、5大陸、18カ国で石油の採掘生産を行っている。

1994年にノルウエーのStatoil とフィンランドのNeste の石化事業を統合して設立されたBorealis に35%出資している。
Borealis の残り65%は、アラブ首長国連邦IPICAbu Dhabi National Oil 50%Abu Dhabi Investment AuthorityNational Bank of Abu DhabiのJVが50%出資)が出資している。

オーストリアのSchwechat では、2006年にOMV がオレフィンを、Borealis がLLDPEとPPの新増設を行い、欧州の一大石化基地とした。

    2006/11/10 OMVとBorealis、オーストリアとドイツで石化増強          

Borealis Abu Dhabi Abu Dhabi National Oil CompanyとのJVのAbu Dhabi Polymers (Borouge)を設立し、石化事業を展開している。

    2006/6/2 湾岸諸国の石油化学ー3 アラブ首長国連邦(UAE)
      

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MOLはハンガリーの石油会社から中欧最大の企業の一つとなった。

 ・MOLは化学会社TVKの84.86%を所有。
    エチレン 660千トン、LDPE 97千トン、HDPE 420千トン、PP 280千トン

 ・スロバキアの石油会社 Slovnaft Plc.を所有

 ・2003年にクロアチアの石油・ガス会社 INA の25.0%を買収、同社と戦略的提携を行なっている。


ポーランドのPKN Orlen 2005年にMOL との統合交渉を開始したが、政治化した結果、失敗に終わっている。

   2008/7/29 PKN Orlen、ポーランド初のPTAプラント建設
    

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OMVはベルリンの壁の崩壊時点からMOLを狙ってきた。
ロシアのビジネスマンが買った株を買取ったりしている。

昨年9月にOMV230億ドル(約25千億円)の買収計画を発表した。

MOLとの統合でもっと効率的なダウンストリームビジネスを作ることを狙った。
効率の向上、企業レベル及び上流事業、ガス・石油化学事業での最適化により、税引前で年間
4億ユーロのシナジー効果が出ると主張している。

これに対してMOLは、今回のOMVの発表は正式のTOBでないことを株主に伝え、OMVの提案はMOLの事業と将来性を低く評価していること、合併が年間4億ユーロのシナジー効果があるとするが、合併や独禁法上で必要とされる事業売却によってマイナス効果もあるとして、同社としてはこれに反対すると述べた。
OMVの動きに対抗し、MOLは自社株の40%を買い戻した。

ハンガリー政府も外国の国営企業がハンガリーの戦略的企業を買収するのを防ぐ目的で、「OMV法」と呼ばれる法律を通した。
OMVはオーストリア政府とアブダビ政府のファンドであるIPICがコントロールしているため、対象となる。)

欧州委員会はハンガリー政府に対し、この法律は資本の自由な移動を不当に抑えるもので、EU法に違反すると伝えた。
TOBに関して面倒な手続きを必要としており、政府がエネルギー会社の役員を1名指名できるのを問題にした。

MOLは民営化されているが、政府所有の黄金株があること、議決権が10%に制限されていることなど、敵対的買収に対する防御手段を持っており、OMVは欧州委員会がこれらの障害も除去することを求めた。

その後、両社はいろいろな手段で争いを続けた。

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6月16日、欧州委員会はOMVによるMOLの敵対的買収に関して反対意見書を出した。

OMVはオーストリアのSchwechat 製油所を持つが、買収により、ハンガリーとスロバキア(Slovnaft 社)の2つの製油所を手に入れることとなることを問題とした。

OMVはこれに対して異議を申し入れ、いろいろの国の給油所の売却、製油能力の集中についての欧州委員会の懸念を除くため第三者が能力をシェアする「共用製油所」/コストセンターモデル案など、妥協条件を出したが、欧州委員会はこれを受け入れなかった。

OMVでは、これ以上の妥協は経済的戦略的合理性を損なうとし、今回の買収をギブアップ、欧州委員会への申請を取り消した。

しかし、今までに取得した
MOLの株式20.2%を手放す考えはないとしている。
20.2%の持ち株を最大限利用するいろいろなオプションを考える。)

また、MOLの株主として、コーポレート・ガバナンスの原則確立を求め続けるとし、MOLに対する訴訟は撤回しないとした。

 

MOLOMV提案の合併は競争上問題であり、「価値破壊」的で、経済的にも戦略的にも意味はないと述べ、今後も株主価値の保護に注力するとしている。

 


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   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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