三菱化学の石油化学事業の将来

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9月7日の日本経済新聞の「そこが知りたい」に三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長が大胆な発言をしている。

「市況に左右される経営はやめるべきだと考えている。--- 安価な中東や中国製品の影響力が増している。日本は自動車や電機産業向けの加工度が高く、価格変動が少ない製品を生産すべきだ」

「そういう意味では日本の石化コンビナートは歴史的使命をほぼ終えた。(現在14カ所ある)コンビナートは将来は2-3カ所あればいいのではないか。」

「原油を原料とする石化事業から撤退はしない。ただ原油価格変動のリスクを減らすための努力は必要だ。低コストの原油の安定調達に役立つのなら、生産地である
中東などの資本を受け入れてもいい。具体的な話はないが、当社が経営の主導権を持てるなら構わない。先方は当社の先端技術に興味があるだろうから、互いにメリットのある形を模索することができる」

「医療用製品や太陽電池、リチウムイオン電池用の材料など7つの事業領域を育成分野と位置付けた。医療も環境も人類が快適に暮らすには欠かせない技術。需要拡大が期待できる」

8月21日の化学業界紙との懇談でも、「石油などに振り回されないよう“脱ナフサ”と製品の高機能化を着々とやっていきたい」と述べている。
 
同社長は7月にロンドンとニューヨークで証券アナリストに会社の現状や中期経営計画の内容を説明したが、「医薬品事業には評価が得られたが、
石油化学をなぜやっているのかといった質問を受けた。理解できないといわんばかりだった」と述べた。

ーーー

同社長は昨年11月の会見で、次のように述べている。

当社は化学をベースにした会社ではあるが、中東にまで原料を求めるつもりはない。
エチレンセンターも持ちつつ、高度化されたファインケミカル事業を展開していきたい。
コークスを70年やってきた炭素化学の歴史がある。
カーボンファイバーとか、ナノチューブなど将来的に楽しみだ。

石油化学は中東、インド、中国などの台頭があるが、当社もアライアンスやリファイナリーを含めて対応していけば、まだやっていける。そうした方策なども新中計に盛り込みたい。

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三菱ケミカルホールディングスは5月13日に新中期経営計画「APTSIS 10」を発表した。
      
http://www.mitsubishichem-hd.co.jp/ir/pdf/20080513-1.pdf

このなかに、上記の社長の考え方が記載されている。
 

石化事業については、

・集中事業(成長戦略の中核事業)は
  ポリカーボネート・ビスフェノールA (現在は減産中)
  ポリプロピレン
  機能性樹脂

・基盤事業の体質変革では
  ポリエチレンの高機能化
  石化誘導品事業の見極め(アセット・ライト)
  コア誘導品中心型のコンビナートにシフト(連携、協業)

・再編・再構築事業の構造改革では
  テレフタル酸事業の構造改革(他社との連携・協業)、合理化

を挙げている。

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石化誘導品事業の見極め(アセット・ライト):
  Asset light 戦略はダウが基礎部門について取っている戦略で、原料価格変動の影響を受けやすい基礎部門については、新規事業だけでなく、既存のダウの事業についてもJV化を行いつつある。
(同社は、基礎化学品と機能性化学品のバランスが取れ、多角化し、上流から下流までの統合会社で、グローバルに活動し、生産性と信頼性が高い、技術優位の企業となることを目指している。)

同社は従来から各地で多くのJVを設立しているが、2007年になってから、更に勢いを強めている。
   
2007/10/5 Dow、JV白書を発表 

2007年12月には、クウェート国営石油の子会社 Petrochemical Industries Company (PIC) との間でグローバルな石化JV50/50)を設立すると発表した。

   2007/12/19 ダウとPIC のグローバル石化JV 詳報 

上記のインタビュー記事で小林社長は、「中東などの資本を受け入れてもいい」としている。

しかし、日本の石化事業は今後、輸出がなくなり、国内需要の伸びは期待できず、小規模多数工場の過当競争で採算悪化が予想されるため、出資する資本があるとは考えにくい。日本に出資しなくても、現地での先端技術の採用は既に行なわれている。

   
コア誘導品中心型のコンビナートにシフト(連携、協業):
  同社では、水島はC3(プロピレン)強化のコンビナートに、2系列のナフサ分解設備を有する鹿島はオレフィン・アロマ(OA)の総合的な石油化学基礎製品の中心とすることを目標としている。

参考 2008/7/31 三菱化学鹿島のEOセンター 

   
テレフタル酸事業の構造改革(他社との連携・協業)、合理化:
  これまで同社にとってテレフタル酸は成長戦略の中核事業であった。

  独自技術によるグルーバル展開:テレフタル酸
   成長するアジア市場において事業拡充、圧倒的世界一技術・顧客開拓力・海外事業展開力
    1963 黒崎
    1987 松山  25万トン
    1990 韓国 170万トン
    1994 インドネシア 64万トン
    2000 インド 47万トン 80万トン
    2006 中国  60万トン

本ブログで以前から懸念していたように、中国での供給過剰から各社減産に入っており、同社としてはこの事業を再編・再構築事業に位置付けた。

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中国需要の減退により、今後日本の石化事業は苦しい状況になる。

1980年代以降、日本の石化がよかったのは、産構法後のバブル時代と、2003年頃からの中国バブル時代のみである。
産油国や中国で大規模プラントが続々完成するなか、新しい需要は考えにくい。

昔からの小規模多数工場による過当競争体質により、再度赤字体質に戻るのは確実である。

「日本のコンビナートは将来は2-3カ所あればいい」と思われる。そうしないと共倒れになる。

問題はどうやって減らすかである。
政府に介入してもらうのは、産構法が最後である。

日経インタビューの「聞き手から一言」では以下の通り述べている。

世界的な経済発展を背景に好調が続いた化学各社も、今後は需要減退による業績悪化が見込まれている。日本でも世界でも、大規模な業界再編が起きる可能性もある。
小林社長はDVDの生産子会社の社長をつとめるなど「傍流の出身」だと自らを評する。その分、社内外のしがちみが少なく、思い切った手を打ちやすい。石化事業一辺倒からの転換でも業界の先陣を切ろうとしている。社長就任から1年余り。いよいよどんな具体策を示すのか注目が集まる。


* 総合目次、項目別目次は
 http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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