中国のABSメーカー

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鎮江奇美化工(Zhenjiang Chi Mei Chemical) はこのたび江蘇省鎮江市で10万トンのABSプラントをスタートさせ、合計能力を70万トンとし、中国第一のABSメーカーの地位を固めた。

鎮江奇美化工は2008年に、台湾の奇美実業(Chi Mei )と国喬石化(GPPC)が両社の鎮江市のABS事業を統合して設立した。GPPCは25万トン、奇美は35万トンのプラントを持ち、奇美は更にこの10万トンプラントを建設中であった。

このプラントは2007年8月に建設を開始、当初は2008年下期にスタートの予定であったが、経済情勢の悪化、ABS価格の急落で延期されたもの。

本年に入り、中国政府の
家電下郷」(「家電を地方へ」という運動、前日記事参照)の拡大でABSの需要も価格も上昇に転じている。

同プラントの一部の機器は、江蘇省太倉市で6万トンのABSプラント建設を計画し、その後中止したSinochemから購入した。

中国中化集団公司(Sinochem: 元国営の石油トレーディング企業で、石油の探鉱開発,生産,精製まで一貫操業を目指す)は2003年、 江蘇省太倉市で年産6万トンのABS、年産2万トンのPTMEGプラントの建設を計画した。
大規模設備建設の前に、新しく開発された技術のテストのために、比較的小規模のものとした。

ABSについては計画を中止。現在太倉には、2万トンのPTMEGと2万トンのHFC-134a (フロン代替)がある。

中国のABSは 台湾 韓国 勢が中心となっている。

メーカーと能力は以下の通り。(単位:千トン、2009年2月現在)
2006年の生産量は1,279千トン、2007年は1,771千トンとなっている。

Producer Capacity Location
Zhenjiang Chi Mei鎮江奇美)  700 Zhenjiang, Jiangsu 江蘇省鎮江
LG Yongxing LG甬興化工)  500 Ningbo,Zhejiang 浙江省寧波 
Formosa Chemicals & Fiber  250 Ningbo, Zhejiang 浙江省寧波
Sinopec Gaoqiao Sinopec 高橋化学)  200 Shanghai
PetroChina Jilin  190 Jilin City, Jilin 吉林省吉林
PetroChina Daqing  105 Daqing, Heilongjiang 黒龍江省大慶
Shinho Changzhou 新湖(常州)石化   70 Changzhou, Jiangsu 江蘇省常州
Huajin Group (華錦化工集団)   50 Panjin, Liaoning 遼寧省盤錦
PetroChina Lanzhou   50 Lanzhou, Gansu 甘粛省蘭州
Total  2,115

Zhenjiang Chi Mei鎮江奇美)

上記の通り、台湾の奇美とGPPCの鎮江のABSを統合した。

奇美は台湾にABS 年産100万トン、PS年産30万トンのプラントを持ち、他に旭美化成(奇美90%、旭化成10%)で旭化成技術によりPC 7万トンを生産している。

GPPCは台湾に 33万トンのSMプラント、8万トンのABS/SAN プラント3万トンのPSプラント、及び子会社の必詮化工(BC Chemical) で62千トンのPSプラントを持っている。
また、中国のほか、タイ
子会社 Grand Pacific Chemical (Thailand)でABS 2万トンを生産している。

LG Yongxing LG甬興化工)

韓国のLG Chem 75%、現地の寧波甬興化工 25%出資するJV

2006/9/12  LG Chem、中国で2工場竣工

Formosa Chemicals & Fiber:台湾のFPCの子会社

2008/4/16  台湾プラスチック、寧波エチレン計画取り止めか

Shinho Changzhou 新湖(常州)石化 

韓国の新湖石油化学と常州プラスチック及び常州新港経済開発社とのJV
Shin Ho Petrochemical はその後SH-Chemical と改称し、更に改称して現在はSH Energy & Chemical
2000年にJVを設立し、韓国からABSプラントを移設した。
現在は韓国では
EPS90千トン)のみ生産している。

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台湾・韓国のABSメーカーは、Zhenjiang Chi Mei が鎮江市、Shinho Changzhou が常州と揚子江沿岸にあり、LG Yongxing と Formosa Chemicals & Fiber は浙江省寧波市にある。これが大きな差を生んだ。

2004年6月、中国は揚子江流域でのアクリロニトリルの輸送を全面的に禁止し、陸上輸送についてはトン当たり10ドルの課徴金を課した。
政府は環境保護の強化と輸送の安全が理由で、アクリロニトリルが危険物であることから、漏れた場合の水中生物への影響を懸念してのものとしている。

危険物の海上輸送については、国連の勧告に基づく国際バルクケミカルコードに基づき規制が行われるが、国内河川での規制はそれぞれの国に任されており、その判断を批判できない。

更に20058月には、中国交通部はアクリロニトリルを含む危険物のトラックの容量を規制し、従来の30~50トンを10トンに制限した。

Chi Mei はそれまで、原料ANMを上海から鎮江まで、揚子江及び600kmの長江運河を通って船でアクリロニトリルを運んでいたが、これにより、陸上輸送を止むなくされ、運賃が大幅に上昇した。

影響を受けたのはChi Mei だけではないが、この措置はChi Mei を狙ったものとの見方がされた。

2001年に奇美実業のオーナー許文龍・台湾総統府顧問が台湾独立姿勢や慰安婦発言(小林よしのりの漫画「台湾論」に「従軍慰安婦は強制されたのではない」との発言が引用された)で批判され、中国本土の石油化学工場が中国政府から閉鎖命令を受けたと報じられたこともあった。(事実ではない)
鎮江工場の運営面でいろいろ圧力がかけられた。

2005年3月、台湾の併合を目的とする中国の反国家分裂法に反対する百万人デモが台湾で行われた日に、許文龍の声明書なるものが台湾紙に掲載された。

「引退の言葉」と題されたこの声明には、「台湾と中国は一つの中国に属している。台湾の独立は支持しない。最近の胡錦濤主席の談話と反国家分裂法の制定に心強く思った。大陸に投資した我々は台湾独立を支持しない。奇美は大陸で、より発展する」とする内容だった。
<p>HTML clipboard</p>これについてはいろいろな噂が飛び交った。

規制は現在も続いている。各社は連雲港市から陸路でアクリロニトリルを輸送している。


* 総合目次、項目別目次は
 http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

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