三菱化学の石油化学事業再構築

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三菱化学の再構築が急ピッチで進んでいる。

三菱化学はABS樹脂、ポリエステル繊維原料の国内生産、PVC(& PS)からの撤退を決めるなど、昨年末から事業の選択と集中を加速している。また、水島での旭化成とのエチレン統合の検討も行っている。

2008/11/28 三菱化学、ABS事業から撤退

2009/2/24  三菱化学、テレフタル酸事業の事業構造改革

2009/4/13 三菱化学、PSとPVC事業から撤退

2009/5/19  三菱化学と旭化成、水島でエチレン統合

付記

このほか、2008年12月の「2008-10年度の中期経営計画の見直し」で、
「アルファオレフィンとエトキシレートは2009年に停止」としている。
アルファオレフィン(高級アルコールを含む)は2009年5月、エトキシレートは2009年3月に停止した。
このグループのEOは顧客誘致による事業基盤強化を行っている。
   2008/7/31 
三菱化学鹿島のEOセンター

三菱化学は5月29日、カプロラクタム事業及びスチレンモノマー事業からの撤退を決定したと発表した。

同時に、DSMとの間で、DSMが欧州を中心に展開するポリカーボネート(PC)事業と、三菱化学のナイロン事業を交換する検討を開始した。

ーーー

カプロラクタムとナイロン

同社のナイロンチェーンの再構築案は以下の通り。

工場 製品 能力
水島 シクロヘキサン
  ↓
110千トン 2010年3月停止
黒崎 シクロヘキサノン
  ↓     
120千トン 2010年3月停止
カプロラクタム 
  ↓
60千トン 2010年3月停止
ナイロン
  ↓
30千トン DSMへの譲渡交渉開始
(コンパウンド化及び販売)
   三菱エンジニアリングプラスチック
     (三菱化学 50%/三菱ガス化学 50%)

 参考 カプロラクタムの国内シェア(日経推計)
      宇部興産 35.2%
      住友化学 34.3%
      東レ    19.1%
      三菱化学 11.4%
     (国内生産能力 525千トン)

三菱化学は2005年3月末にカプロラクタムの外販事業国内販売・輸出から撤退し、1系列50千トンを同年9月末で製造停止した。なおシクロヘキサノンについては、カプロラクタム1系列停止後も生産量を維持し、国内及び中国を含むアジアマーケットへ拡販を目指した。

三菱ケミカルホールディングスは2009年3月決算で減損損失を計上しているが、その中に、
ヴイテックのPVC設備(水島、川崎:45億円)のほか、黒崎のカプロラクタムやナイロン設備(27億円)などが含まれている。

参考
三菱化学はカプロラクタムを原料とするナイロン6を生産しているが、三菱エンジニアリングプラスチックのパートナーの三菱ガス化学ではメタキシレンジアミン(MXDA)を原料とするMXナイロンを新潟及び米国ヴァージニア州で生産している。

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スチレンモノマー

鹿島のSMを2011年3月に停止する。

日本経済新聞(4月10日)は三菱化学が年内にもPSとPVC事業から撤退すると報じた。
PSについては事業統合会社のPSジャパンへの出資を引き揚げ、PVCについてはヴィテックを解散する方針としている。

三菱化学は既にPVCの撤退を発表している。

PSについては、報道ではPSジャパンの持ち株を旭化成、出光興産に売却し、同事業から撤退するとしており、売却額は今後詰めるとなっている。

2009/4/13 三菱化学、PSとPVC事業から撤退

PS撤退はまだ発表していないが、今回のSM 撤退から間違いない。条件の交渉中ということであろう。ABSは既に撤退を発表している。

三菱化学のSM、PS、ABSの能力は以下の通り。

SM事業 PS事業
 千トン  千トン 出資比率
三菱化学 四日市     0 PSジャパン (三菱化学) 四日市    85   27.5%
鹿島   371 鹿島    -
旭化成 水島   678 (旭化成) 水島   108   45.0%
千葉    - 千葉   207
出光興産 千葉   210 (出光興産) 千葉    45   27.5%
徳山   340 徳山    ー
合計   445   100.0%

ABS事業
会社名 工場  千トン 出資比率
テクノポリマー (三菱化学) 四日市 90   40%
JSR 四日市 200   60%
合計 290   100%

ポスト産構法時代には当時の三菱油化がスチレンモノマーの手直し増設で鹿島で205千トン、四日市で271千トンの能力をもち、輸出価格の高騰で莫大な利益を上げた。2年間で500億円といわれた。
この利益をもとに時価発行増資を行い、得た資金で鹿島のエチレンの増設を行った。

しかし、その後SM価格は暴落。三菱油化はこの拡張戦略が裏目に出て、その後損益が悪化、三菱化成との合併となった。

三菱化学は1999年秋に四日市のベンゼン2系列年22万トン、EB 29万トン、SM2系列 27万トン(うち1系列 9万トンは休止中)をスクラップした。2001年1月に四日市のエチレンを休止)

ーーー

DSM との交渉

三菱化学 DSM は、DSM Engineering Plastics欧州を中心に展開しているポリカーボネート(Xantar)事業と三菱化学が日本及びアジアを中心に展開しているナイロン事業について、事業の交換の検討に入ることにつき基本合意書を締結し、具体的検討に入った。

DSM は、ナイロン事業を主力事業の1つと位置づけている。

DSM Engineering Plastics の主力製品
 Stanyl ® the highest performance polyamide
 Akulon®  a range of PA6 and 66 resins
 Arnitel ®  Copolyester Elastomer
 Arnite®  PBT and PET resins

昨年9月には、江蘇省江陰市にナイロン6 レジンの工場をスタートさせている。
(2006年に同地にコンパウンド工場を建設)
原料のカプロラクタムについてはDSM南京ケミカルに14万トン/年のプラントを持っている。

日本ではDSMジャパンが扱っており、これに統合する。

三菱化学は、ポリカーボネート事業を集中事業の一つとして位置づけて、グローバル展開している。DSM から事業を譲り受けることにより、DSM の付加価値の高いコンパウンド品を中心としたポリカーボネート事業を欧州及びアジアで展開することができ、更なる拡大を期待することができる。

譲渡対象の事業規模は、それぞれ2008年度で約120億円。

本事業交換を実施した場合、DSMはベルギーのGenkでPCコンパウンド製造を受託、三菱化学はMEPの子会社MEPCOM九州の黒崎でナイロンコンパウンドを受託する。販売・技術サービスにおいても、継続的な相互協力関係を構築する予定。

ーーー

三菱化学と三菱ガス化学は1994年に折半出資で三菱エンジニアリングプラスチック(MEP)を設立し、PCを含むエンプラの販売をMEPに委ね、一体化した。
しかし、PCについては両社ともに主力分野と考えており、独自に海外進出を図っているように見える。

中国では三菱化学がシノペックと組んで燕山石化内にビスフェノールAを含む工場建設を行っているのに対し、三菱ガス化学はこのたび、上海化学工業区内に、PC原体(8万トン)、造粒(6万トン)、コンパウンド(2.8万トン)を建設、合わせてテクニカルセンターをつくることを発表した。  

今回のDSMとの交渉が成功すれば、PCに関して三菱ガス化学との関係はどうなるのだろうか。

同グループのPC事業
立地 社名 能力
(  )は未稼働
          出資
三菱化学 三菱ガス
      化学
MEP その他
黒崎 三菱化学 20(+60)千トン 100%
鹿島 三菱ガス化学 100千トン 100%
韓国 三養化成 85千トン 25% 25% 三養社 50%
タイ Thai Polycarbonate 140千トン 5% 5% 60% TOA 30%
中国 北京計画 * (60千トン) 50 x 80% 50 x 20% SINOPEC 50%
中国 菱優工程塑料(上海) (80千トン) 80% 20%
  *シノペックとの事業戦略提携の基本合意
    2009/4/15
三菱化学、シノペックと事業戦略提携の基本合意

・タイのみMEP中心
・いずれの計画にもMEPは入っている。

 (三養化成は1989年に三菱化成50%で設立、2001年4月にMEPが株を譲り受けて参加)

・販売もMEPが担当

注 三菱化学の黒崎では2系列計40千トンのうち、古い1系列20千トンを停止し、60千トンの新設を行った。
設備は2008年3月に建設が完了したが、事業採算の悪化から7月からの稼動を当面の間延期すると発表している。(その後、稼動の発表はない)

なお、三菱化学は本年5月、植物由来のポリカーボネートの開発及び量産化に向け、黒崎にパイロットプラントを建設することを決定したと発表した。能力300トン/年で20104完成予定。


* 総合目次、項目別目次
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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