インド政府、ボパール事件で新方針

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インド政府は624日遅くに、1984年のBhopal事件に関して、Manmohan Singh首相が指名した閣僚委員会が出した方針案を承認した。
犠牲者への賠償を追加し、
Dow Chemical の責任を追及し、Union Carbideの当時の会長のWarren Andersonの引渡を米国に求めるもの。

インド政府の動きは、6月7日にインドのBhopal 市の裁判所がインド人の元役員等8人に有罪とした判決のあと、被害者の支援者やメディアからの政治的圧力によるもの。

2010/6/9 Bhopal 事件でインド人元役員等8人に有罪判決

判決に対しては以下のような点で批判が殺到した。

犠牲者の数を考えれば、「禁固刑2年」は軽すぎる。
Warren Anderson元会長について、インド政府は「犯罪人引渡し条約」に基づき引渡しを求めたがアメリカはインド政府の要求を全く無視した。アメリカとの経済関係を重視し、「インド政府が意図的に動かなかった」という批判もある。
インド政府は補償金交渉に重点を置きすぎ、アメリカに対し毅然とした対応をしなかった。補償金もインド人一人当たりで計算すれば「雀の涙」程度のものであった。
補償金の少なさに加え、補償金支給の遅れ、役人の横領の可能性、後遺症等に対するインド政府の無策等々。
判決まで25年の年月を要したこと。

新方針の概要は以下の通り。

1. 政府はインドの裁判所に、ダウの責任問題について決定するよう要請する。
   
  ダウは、Union Carbide 470百万ドルを支払ってインド政 府との間で将来にわたって解決した。ダウは10年 以上後の2001年 にUnion Carbide を 買収しており、なんらの債務も引き継いでいない」とし、「工場はUnion Carbide India が所有、運営していたものであり、Union Carbide 自体はなんら工場の操業に関与しておらず、同社及び社員はインドの裁判所の管轄外である」としている。
   
2. Warren Anderson元会長の引渡しについて、米国への圧力を強めるため、インド外務省は政府の諸機関から追加の材料を集める。
   
3. 被害者への補償
  ・死亡者の家族に100万ルピー($21,500
  ・回復不能の障害者に50万ルピー($10,700)
  ・癌患者に20万ルピー($4,300)
  ・一時的障害者に10万ルピー(($2,100)
   
  これまでの支払分は調整される。
  2008年現在で、工場のあるMadhya Pradesh州は一人平均27千ルピー ($580) を支払っている。
   
4. 環境浄化
  Madhya Pradesh州の責任だが、中央政府はこの目的のため31億ルピー($66.6 million) を支出する。
  保存されている危険物の処理、汚染された家屋等の解体、水や土壌の汚染の復旧などが含まれる。
   
  工場は1984年の事故のあと、直ちに閉鎖されたが、2009年現在で州は環境浄化に294千ルピーしか支出できていない。
   
5. その他
  1989年に示談による和解が得られ、ユニオンカーバイドは事故によって生じた被害に対し47000万米ドルを支払うことに同意したが、政府はこの件を再交渉できないかどうか調べる。
   
  また、今回の裁判の判決について、別の犯罪を理由に裁判を再開し、もっと重い罪に問えないか、検討する。
   

ーーー

2008年に米国下院の16名の議員がインドのSingh 首相に、被害者救済運動を支援するレターを出しており、2009年6月にはFrank Pallone 下院議員を初めとする米国の議員27人がダウに対してBhopal 事件被害者の救済を要請している。

2009/6/23 米議員、ダウにBhopal 事件被害者の救済を要請

しかし、インド政府は、米国企業のインド進出への影響を懸念し、ほとんど動かなかった。
世論に押されて、ようやく動き始めたようだ。

 


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