2010年ノーベル化学賞とイグ・ノーベル賞

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スウェーデンの王立科学アカデミーは10月6日、2010年のノーベル化学賞を、医薬品や工業製品の製造に欠かせない有機化合物の革新的な合成法を開発した鈴木章・北海道大名誉教授(80)、根岸英一・米Purdue University特別教授(75)、 Richard F. HeckUniversity of Delaware名誉教授(79)の3人に授与すると発表した。

授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金1000万スウェーデン・クローナ(約1億2800万円)を3氏で分け合う。
ノーベル賞の日本人受賞者は、米国籍の南部陽一郎氏を含め計18人、化学賞の受賞者は計7人になる。

化学賞:
 1981年  福井謙一 化学反応過程の理論的研究
 2000年  白川英樹 導電性高分子の発見と発展
 2001年  野依良治 キラル触媒による不斉反応の研究
 2002年  田中耕一 生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発
 2008年  下村脩   緑色蛍光タンパク質 (GFP) の発見と生命科学への貢献

業績は「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」。

鈴木名誉教授が1979年に報告したパラジウム触媒を用いる有機ホウ素化合物のクロスカップリング反応(鈴木カップリング反応)は、有機合成化学のみならず、触媒化学や材料科学などの広い分野に多大な影響を及ぼした。
広範な一般性と実用性を有しており、医薬品を含む数々の生理活性天然物合成に利用されている。

根岸教授(当初、帝人勤務)は、鈴木名誉教授に先だって1977年、有機亜鉛化合物と有機ハロゲン化物とをパラジウムまたはニッケル触媒で反応させ炭素と炭素がつながった生成物を得る反応(根岸カップリング反応)を開発した。
Heck教授(と故溝呂木・東京工大教官)も、パラジウムを使って水素を炭素に置き換えることで、炭素と炭素をつなぐ合成反応(溝呂木・ヘック反応)を発見した。

鈴木名誉教授と根岸教授はともに、1979年にノーベル賞を受賞したPurdue Universityの故Prof. Herbert Brownの下で研究した。

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2010年のIg Nobel Prizesの授賞式が9月30日、米マサチューセッツ州のハーバード大学Sanders Theatreで開かれ、10グループが受賞した。

イグ・ノーベル賞は1991年、ハーバード大系の科学雑誌「ありそうもない研究」(Improbable Research ・・・Research that makes people LAUGH and then THINK)の編集者Marc Abraham が創設した。

日本人はこれまで、2005年までに11件、2007-2009年に1件ずつ計3件、合計14件の研究でイグ・ノーベル賞を受賞している。

2006/10/13 ノーベル賞とイグ・ノーベル賞
2007/10/8  2007年イグ・ノーベル賞
2008/10/4  2008年イグ・ノーベル賞
2009/10/3 
2009年イグ・ノーベル賞

本年は2008年に認知科学賞を受賞した公立はこだて未来大学の中垣俊之教授らが率いる日本と英国の共同研究チームが前回の受賞テーマの延長で、今回は交通計画賞を受賞した。

日本人の受賞はこれで15件となる。

各賞の受賞者とその内容は以下のとおり。

工学賞 メキシコ国立工科大学の研究チーム
ラジコンヘリでクジラの鼻水を収集

クジラに触れずに潮を採取することは困難とされていた。
チームは、ボートから全長約1メートルのラジコンヘリをクジラの上に飛ばして、ヘリに取り付けたシャーレで潮の採取に成功。
これを調べることにより、年齢、種類、健康状態などを調査している。

医学賞 オランダのアムステルダム大学の研究チーム
ジェットコースターで喘息が改善

「ジェットコースターに乗る前は、不安などの否定的な気持ちを感じて息苦しくなる。喘息患者でなくてもそうだ。だが、乗った後は興奮や高揚感などの肯定的な感情で楽になる。喘息患者にも同じ効果が見られた」。

平和賞 英Keele Universityの研究者3人のチーム
呪いや罵りの言葉を吐くと痛みが和らぐことを証明した。

氷水に一定の時間以上、手を浸す対照実験を行ったところ、罵倒し続ける被験者は、何も言わない被験者よりも約50%長く痛みに耐えることができた。
心拍数も上がり疼痛知覚が低下したのは、脅威の感受性を低下させる闘争逃走反応が働いたと推測される。

ただし追跡調査では、穏やかな人の方が大きく痛みが軽減するとも明らかになった。
公衆衛生賞 メリーランド州フォート・デトリックの労働安全衛生機関の研究チーム
研究者のあごひげに微生物が付着することを実証

研究施設で微生物に汚染された場合、顔を規則通りに洗浄してもひげの微生物は死滅しにくいため、特に注意が必要だと警鐘を鳴らした。

交通計画賞 公立はこだて未来大学の中垣俊之教授らが率いる日本と英国の共同研究チーム
粘菌が交通網を整備

東京都近郊を描いた地図上で培養された粘菌は、各都市にあたる場所にエサを配置すると細長く伸びてネットワークを効率的に形成し、その様子は東京の交通網そのものだったという。
更に、実際の鉄道網より効率的な形であったり、迂回路が準備されているケースもあった。

同チームは2008続く2度目のイグ・ノーベル賞受賞

前回、真正粘菌変形体という巨大なアメーバ様生物が迷路の最短経路を探し当てることができることを発見し、最終的には粘菌に学んだ計算方法を利用して現代社会のインフラ基盤である通信網・道路網・上下水道網などのネットワークの新しいデザインに役立てたいとしていた。

物理学賞 ニュージーランドのUniversity of Otagoの研究チーム
靴やブーツの上から靴下を履くと氷上で転びにくくなることを証明

「一部の“進取の気性に富んだ”人たちは凍結した道路を歩く際、靴の上から靴下を履くという慣習を実践していた」。この慣習を科学的に検証。

経営学賞 イタリアのUniversity of Cataniaの研究者ら。
従業員の昇進を成果主義ではなくランダムに行う方が、より効率的な組織にできることをコンピューターモデルで証明。

「これまでの仕事がうまくいったからといって、昇進後はどうなるかわからない。だから、ランダムに昇進させる方が組織全体の効率が上がる確率が高くなるというわけだ」。

生物学賞 イギリスのブリストル大学と中国の共同研究チーム
オオコウモリがヒト同様にフェラチオを行っている事実を明らかにした。

行動の正確な理由はわかっていないが、メスの唾液がバクテリアを殺す作用を持つ、交尾時間が長くなり成功率が上がるなどが考えられるという。
化学賞 BP
マサチューセッツ工科大学、テキサスA&M大学、ハワイ大学の研究チーム
油と水は混ざらないという古い定説の間違いを証明した。

「もし海が静止していたなら、メキシコ湾に流出した原油はすぐ海面に浮かび上がり、海水と混ざることはなかっただろう。
だが海には海流があり海水の密度分布も一様ではないため、原油が微細 な粒子となって拡散し、プルームという層が海中に形成されている」。
経済学賞 Goldman Sachs、AIG、Lehman BrothersLehman BrothersBear StearnsMerril LynchMagnetarTop managements
世界経済の金融利益を最大化させ、金融リスクを最小化させる新たな投資方法を開発
(経営破たんで国民の税金を投入してもらい、グローバルな危機を起こし、先進国を不況に陥れた)

 

なお、2009年公衆衛生賞に輝いた「Emergency Bra」の商品化が決定した。
緊急時にブラジャーをガスマスクとして使用するというもので、災害時は2つのマスクに分割し、もう一人近くにいる人へ渡せるというところも特徴。価格は1つ29.99ドル。

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本年のノーベル物理学賞は、グラフェンの分離に成功し、さまざまな性質を発見した英マンチェスター大のAndre Geim教授(51)と共同研究者のKonstantin Novoselov教授(36)に与えられた。

Geim教授は2000年に、「カエルと力士を浮揚させるための磁石の使用に対して」でイグノーベル物理学賞を受賞しており、史上初めて、ノーベル賞とイグノーベル賞の両方受賞となった。


目次、項目別目次
    
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htmにあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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