イレッサ訴訟、東京地裁は国の責任も認める

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肺がん治療薬「イレッサ」の副作用をめぐり、東日本に住む死亡患者3人の遺族が、輸入を承認した国と販売元のアストラゼネカに計7700万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は3月23日、患者2人について国とア社の責任を認め、計1760万円の支払いを命じる判決を言い渡した。
死亡患者3人のうち1人については、発売3カ月後に説明書の「警告」欄で副作用が注意喚起された後に服用しており、請求は退けられた。

裁判長は「国は承認前の時点で副作用による間質性肺炎で死に至る可能性があると認識していた」と指摘した。
そのうえで「安全性確保のための必要な記載がない場合、国は記載するよう行政指導する責務がある」との見解を示し、間質性肺炎の危険性を目立つように記載するよう指導しなかった国の対応を違法と結論付けた。

ア社に対しては「イレッサは特定の患者に高い効能、効果があり、製造上の欠陥はない」としたが、「当初の添付文書の記載では医師らへの情報提供が不十分で、指示・警告上の欠陥があった」とした。
PL法上で規定する「通常の安全性を欠いた状態だった」と認定し、「添付文書に致死的となる可能性を記載していれば、服用を開始・継続することはなく、間質性肺炎で死亡することはなかった」と結論付けた。

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イレッサで深刻な副作用を受けた患者と副作用によって死亡した患者の遺族計15人が、国とアストラゼネカに損害賠償を求めた訴訟で、東京、大阪両地裁は、原告側の和解勧告の上申書に基づき、事前に協議して、本年1月7日に和解勧告した。

しかし、政府は1月28日、東京、大阪両地裁の和解勧告に応じないことを決めた。アストラゼネカも勧告受け入れを拒否した。

2011/1/31 政府、イレッサ訴訟で和解勧告拒否

このため、両地裁で判決が言い渡されることとなった。

大阪地裁では2月25日に以下の判決が言い渡された。

アストラゼネカ:
  警告欄に記載するなどして注意喚起を図るべきだった。
  緊急安全性情報配布(2002/10)前は製造物責任法上の欠陥があり、賠償責任あり。
  原告9人に計6050万円の賠償。2002/10以降服用し死亡した男性の請求は棄却。

政府:
  添付文書に関する行政指導は必ずしも十分ではないが、当時の知見のもとでは一定の合理性がある。
  国家賠償法上の違法はない。

政府の責任については、1995年6月のクロロキン薬害訴訟の最高裁判決(下記)に沿ったもの。
  「被害が生じても直ちに国家賠償法上の違法性は生じず、許容限度を超えて著しく合理性を欠く場合に違法性がある」

この判決に対し、原告側、被告側がともに控訴している。
原告側は、国の責任が認められなかったことなどを不服とした。

大阪地裁の判決を受け、細川厚生労働相は、医薬品の安全性対策を強化するため、薬事法の改正や抗がん剤の副作用被害救済制度の検討に着手する考えを示した。

今回の東京地裁の判決は、政府にも責任を認めたもので、これについては両地裁で判断が分かれた。

判決を受け、細川厚生労働相は記者会見で、「判決内容を精査し、関係省庁と協議しながら今後の対応を決めたい」とした上で、「(東京地裁と大阪地裁で)異なった判断なので、一般的に申し上げれば、上級裁判所の判断を仰ぐというのも一つの方法かと考える」と述べた。

アストラゼネカ社は、「東京高裁に控訴することも視野に入れ検討中」とのコメントを発表した。
代理人の弁護士は、「判決の論理に従えば、添付文書は警告だらけになり、本当に注意すべき情報が埋没する」「治験数を何倍にも増やさなければならず、ドラッグ・ラグにつながる」と主張した。


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