三井化学、岩国大竹工場の事故のその後

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4月22日午前2時15分ごろ、三井化学・岩国大竹工場のレゾルシンプラントで爆発事故が発生した。

2012/4/24 三井化学大竹工場で爆発事故

この事故で隣接するサイメン工場も延焼、損傷した。

事故発生で全工場が停止したが、安全を確認して順次稼働した。

現在の停止プラントは以下の通り。
  レゾルシン(損傷)
  サイメン (損傷)
  メタパラクレゾール (原料サイメンの損傷)
  ハイドロキノン

メタパラクレゾールとハイドロキノンは無傷だが、レゾルシノールの類似施設であるため、再開には地元自治体や消防の承認が必要。

付記

三井化学は9月28日、メタパラクレゾールプラントが稼働を再開したと発表した。(下記)

三井化学は12月25日、岩国大竹工場でのレゾルシン・プラントの再建を断念し、12月末で事業撤退することを決定したと発表した。

「ハイドロキノン」は、発災したレゾルシン・プラントと類似施設のため、事故調査委員会で承認されたレゾルシン・プラントへの再発防止策と同様の改善対策を実施し、当局に改善完了報告書を提出していたが、12月21日に承認を得た。
このため2012年1月をめどに稼働を再開する。

ーーー

1) 事故報告

三井化学では4月24日に事故調査委員会を設置し、原因調査と対策検討を行った。

これに基づき、同社は事故報告書を8月16日に山口県等に提出し、8月20日に受理された。

三井化学は8月29日に事故報告書を発表した。
  
http://jp.mitsuichem.com/release/2012/pdf/120829.pdf


事故の起こったレゾルシンの製造プロセスは以下の通りで、事故は酸化工程で起こった。

事故の原因は以下の通りと推定された。

工場内蒸気系トラブルでレゾルシンプラントを緊急停止した。
インターロック作動で空気の供給が停止され、窒素が投入された。

循環水への切り替えのため、インターロックを解除したが、その結果、攪拌用の窒素が停止し、
液相流動が低下、液相上部の温度が上昇、温度・圧力が急上昇し、爆発した。

これで見ると、これまででも、もしバッチ酸化反応中に緊急停止処置を取れば、同じ事故が発生していたこととなる。

ーーー

レゾルシンの世界のメーカーは以下の通り。
 

能力

 
住友化学  30,000トン 千葉2万トン、大分1万トン(2010/4 新設)
INDSPEC Chemical 20,000トン Occidental Petroleum子会社
Petrolia, Pennsylvaniaに工場
三井化学 7,600トン 岩国大竹
その他 約2千トン インド、中国など
(ロシアメーカーは操業中止)
合計 約6万トン  

住友化学と三井化学はプロピレン、ベンゼンを原料とし、m-DIPBから製造している。
これに対し、INDSPECは1,3-benzenedisulfonic acid から製造する。
 

付記

浙江鴻盛化工Zhejiang Hongsheng Chemical が2万トンの設備を完成させていることが分かった。既に稼働している模様。

同社は染料等のメーカーの浙江龙盛集团Zhejiang Longsheng Groupが75%、香港の万津集団が25%を出資する合弁会社で、浙江省上虞市Shangyu)に自社技術で建設した。

2012/11/30 中国企業がレゾルシン製造 

付記

三井化学は12月25日、岩国大竹工場でのレゾルシン・プラントの再建を断念し、12月末で事業撤退することを決定したと発表した。

ーーー

2) メタパラクレゾールの再開

メタパラクレゾールは、 半導体の製造工程に不可欠なレジスト材料の原料として用いられているほか、液晶パネルの製造工程向け、汎用向け(石けん、ビタミンE)と用途は幅広い。三井化学の半導体用途 の世界シェアは7~8割を占める。

これまで在庫の取り崩しで需要に対応してきたが、10月にも在庫払底の可能性があった。

今回の事故でメタパラクレゾールの生産設備そのものは火災の直接の影響がなく無傷であったが、レゾルシノールの類似施設であるため、再開には地元自治体や消防の承認が必要となる。

三井化学では8月20日にメタパラクレゾール施設の改善計画書を県などに提出、これに基づき8月22日に立ち入り検査が行われた。

これに基づき、三井化学では改善工事を実施し、実質的な再稼働の承認を得た。9月下旬に生産を再開する。
(同じく類似施設のハイドロキノンについても同様の手続きが取られる予定
で、現在、改善計画を策定中)

原料のサイメンについてはプラントが損壊しているため、市原工場でサイメンを生産し、岩国大竹工場に輸送する。

付記

三井化学は9月28日、メタパラクレゾールプラントが稼働を再開したと発表した。


メタパラクレゾールの生産プロセスは以下の通り。

プロピレン     トルエン     para-Cymen
(イソプロピルトルエン)
  メタパラクレゾール
(混合クレゾール)
  副産アセトン
C3H6  

→(酸化)→ 60%

 

40%

   
         

火災でプラント損壊
 千葉で代替生産し
 輸送

 

改善工事を実施 
実質的な再稼働の承認

















日本ではメタパラクレゾールを住化メリゾール(10,000トン)と三井化学(30,000トン)が同じ製法で生産している。
 (他の製法ではメタとパラの比率が異なる)


住化メリゾールは旧称が住化メリケムで、住友化学の大分工場のメタパラクレゾールプラントを住友化学と米国のクレゾールメーカーのMerichemとの50/50 JVとした。
その後、1997年にMerichem と南アのSasol がクレゾール部門を統合してMerisol を設立したため、住化メリケムも住化メリゾールに改称した。
製品は両社が別々に販売している。
(住友化学はメタクレゾールを原料に農薬のスミチオンを生産している。)

オルソクレゾールは旭化成と新日鉄化学のJVの日本クレノールが旭化成の川崎工場で、2,6キシレノールの併産で生産していた(12,000トン)が、旭化成のPPE事業のシンガポール 移転で、日本クレノールを解散した。
(日本クレノールは旭化成70%、新日鐵化学30%で、2,6キシレノールを旭化成が、オルソクレゾールを新日鐵化学が引き取っていた。)

シンガポール計画は以下の通り。

  
  新日鐵化学は旭化成にオルソクレゾール(12,000トン)の製造委託を行っている。

このほかに2社が、コールタール蒸留によりクレゾールを生産している。

シーケム:新日鐵化学とエア・ウォーターケミカル(旧称 住金エア・ウォーター)のタール事業を統合
JFEケミカル:川崎製鉄化学事業部とNKKの化学事業のアドケムコが合併


 

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