森口尚史氏が
iPS細胞から作った心筋細胞の移植手術を行ったと虚偽発表した件で、Harvard
大学のMassachusetts General Hospital は10月19日、森口氏と同病院のRaymond
T. Chung医師を共同発明者とするiPS細胞作製技術の特許を米当局に出願していたが、17日にこれを取り下げ
たことを明らかにした。
病院の広報担当者は「正式な出願は2011年7月7日で、森口氏が医師や知的財産部門に強く働き掛けたと聞いている。結果的に虚偽の研究に基づくものと判明したため取り下げた」と説明している。
共同発明者にChung准教授が名を連ねているため、内容などに問題はないと判断し、「2人の共著論文もあったため、研究内容を信用した」としている。
同病院の知的財産管理部門が米国で暫定特許を出願、今年1月に一般公示された。
・特許内容 RNA-145 inhibitor とTGF-β activator の2種類の化合物によるiPS細胞の作製技術など
・発明者は森口氏とRaymond T. Chung氏。
Chung氏はMassachusetts General Hospitalの胃腸科のVice Chief で、肝移植計画のMedical Director。
東大病院形成外科・美容外科の三原誠助教、東京医科歯科大学の佐藤千史教授との共著で、RNA-145 inhibitor とTGF-β activator の2種類の化合物によるiPS細胞の作製について記載した "Embryonic Stem Cells -- Recent Advances in Pluripotent Stem Cell-Based Regenerative Medicine
・Assignee(譲受人=特許取得後の特許権者)はMassachusetts General Hospital
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米Harvard 大学とMassachusetts General Hospital は10月11日、以下の発表を行った。「1999〜2000年にかけてマサチューセッツ総合病院の客員研究員だったが、それ以来、同病院やハーバード大とは関係がない。森口氏の職務に関わる臨床試験は、同大学あるいは総合病院の審査委員会により承認されたものではない」
しかし、Massachusetts General Hospital のRaymond
T.
Chung氏が最近、森口氏などとの共著を出し、両氏を発明者とする特許を同病院が申請、その特許のassigneeが同病院となっていることから、「(2000年)以来、同病院やハーバード大とは関係がない」とは言えないのではないか。
同病院の知的財産管理部門が、 共同発明者にChung准教授が名を連ねているため、内容などに問題はないと判断し、「2人の共著論文もあったため、研究内容を信用し」 、特許を出願したというのも驚きである。
今回の問題を受けて、Chung氏は森口氏との共著論文から名前を削除することを同病院を通じて表明 したという。
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東京医科歯科大の佐藤千史教授 について、同大の調査委員会は事情聴取し、佐藤氏が「論理的に間違っていないかアドバイスをしただけ」と証言したため、「研究の中身について検証せず、共著となることはありえない」と判断し、処分の対象とする見通し。
産経新聞が読売新聞の記事を受けて佐藤氏に電話取材した際に、「(読売新聞報道の)事実関係はあっている」との説明を受けたという。(産経新聞)
東京大学医学部付属病院は、「最先端・次世代研究開発支援プログラム」の一つとして、臓器凍結保存やiPS細胞保存などの技術研究で内閣府から助成金を受けているが、プロジェクトの代表の東大病院形成外科・美容外科の三原誠助教は実施状況の報告書で、「iPS細胞保存研究に関しては、特任研究員 森口尚史を中心として進めている」と記載している。
三原医師は10月15日、読売新聞の取材に対し、「森口氏から『ハーバード大の特許の問題があるので、先生にも話せないことがある』と言われた」とし、森口氏が担当する研究論文の内容をチェックしていなかったことを認めた。(読売新聞)
内容をチェックもせずに共著者になるというのは考え難いが、日米の学者3人が名前を連ねていたということになると、学会の状況が心配になってくる。
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東京大学は10月19日、同大病院の森口尚史・特任研究員について、懲戒解雇処分にしたと発表した。
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