太陽電池素材事業、苦境に

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太陽電池バブルの崩壊で、欧米や中国で倒産が相次いでいる。

2012/4/6 太陽電池大手 Q-Cells 破綻

米国とEUは中国品について反ダンピング調査を行っている。中国もこれらに対抗している。
(EUは中国製の太陽光パネルの反ダンピング調査に加え、2月28日に太陽光発電用ガラスの反ダンピング調査も開始した。)

2012/11/14 太陽光パネルを巡る貿易戦争 


このなかで、日本の太陽電池素材事業も苦境に陥っている。

1)新日本ソーラーシステム

JNC(チッソの事業継承会社)、JX日鉱日石金属、東邦チタニウムの3社は2月28日、太陽光発電用途ポリシリコン事業から撤退すると発表した。

3社は共同で開発した独自の亜鉛還元法(JSS法)による太陽光発電用途ポリシリコンの製造のため2008年6月に「新日本ソーラーシリコン」を設立し、鹿島工場で品質及び量産技術の確立に取り組んできた。

この技術は、3社がそれぞれ有する固有技術を融合させたもので、次の利点を持つ。

太陽光発電用途ポリシリコン市場で主流のシーメンス法と同じ塩化法によるもので、太陽光発電用途に十分な性能である8N~9N(99.999999~99.999999%)の高純度ポリシリコンを生産することができる。

シーメンス法に比べ、四塩化珪素(SiCl4)を原料とするため、反応効率がよく、加えて未反応の四塩化珪素の再利用が容易であることから、低コストである。

新日本ソーラーシリコンの概要は以下の通り。
 出資:JNC(チッソ) 50%、
JX日鉱日石金属
30%、東邦チタニウム 20%
 工場:鹿島コンビナート奥野谷浜工場団地内
 生産計画:
   第一期 年産400トン(1系列) 2010年上期予定
   第二期 年産3,000トン 
   総投資額(第1期、第2期合計) 約240億円

同社では、太陽電池の原料となるポリシリコンの需要は引き続き大幅な伸張が予想されるとし、高品質・低コストの太陽光発電用途ポリシリコンを安定的に供給していくとし、将来的には、年産1万トン規模の生産体制の構築を視野に入れていた。

しかし、その後の市場環境の悪化を受け、稼働開始時期を決めかねていたが、ポリシリコンが世界的に供給過剰が続く見通しから、撤退を決めた。

東邦チタニウムでは28億円の特別損失を見込んでいる。

2)トクヤマ

トクヤマは2月27日、295億円の減損損失を計上すると発表した。

多結晶シリコンは2012年3月期以降、市況が急激に悪化し、厳しい状況が続いており、将来のキャッシュフローが見込めないため、徳山製造所の多結晶シリコンと併産品の乾式シリカ設備を全額減損処理(275億円)し、合わせて、多結晶シリコン用原材料について20億円の減損処理を行う。

同社によると、半導体用も含めたシリコンの需給は下記の通りで、主要メーカーの供給能力が需要を上回っている上に、その他メーカーの大きな供給能力が上乗せされ、合計能力は需要の2倍にも及ぶ状況である。

同社の営業損益の推移は下記の通り。
2010年3月以降、セグメントの組み換えがあり、その前後で直接は対応しないが、特殊品の損益の大半はシリコン関係である。

2008年3月期には特殊品の営業損益は300億円程度もあったのが、2013年3月期予想では20億円の赤字となる。

トクヤマは2009年8月に、マレーシアのサラワク州のサマラジュ工業団地に総工費約800億円をかけてに太陽電池向け多結晶シリコンの年産6000トンの大型プラント建設を決めたと発表した。

同社は徳山製造所で半導体用途を中心に多結晶シリコンの製造をしているが、太陽電池用途の増産対応とリスク分担の面からの第二拠点として進出を決めた。2011年初めに着工し、2013年9月の営業運転開始を目指すとした。

2008/12/5 トクヤマ、マレーシアに多結晶シリコン第二製造拠点

更に、2011年には第二期として太陽電池向けに年産13,800トンの建設を決めた。(投資額 1,000億円、累計 1,800億円)
2012年2月に建設を開始、その後、当初の2015年1月営業運転開始予定を9か月前倒しした。

合わせて徳山製造所の能力を2013年春完成で1,800トンアップし、11,000トンとした。

全て完成後は、日本11,000トン、マレーシア20,000トンで合計31,000トンとなるが、同社はこれにより、半導体用途は世界シェア20%を維持し、太陽電池用途では5%程度のシェアを10%程度に引き上げるとしていた。

 

上記の通り、現状は大幅な供給過剰となっているが、同社では、中長期的には需要拡大と競争力のないメーカーの生産停止等で、需給ギャップは徐々に縮小し、2015年頃には需要と主要メーカー供給能力はバランスすると予測している。

そのため、マレーシアの第一期(半導体向け主体)は2013年6月に営業運転開始とし、第二期(太陽電池向け)については2015年4月に営業運転を開始して、早期にフル生産を目指す。
徳山製造所はマレーシアの半導体向けの認定取得に応じ、生産量を徐々に縮小する。

この予測が当たるかどうかは分からないが、仮に当たっても、潜在的な供給能力は大きいため値上げは難しく、採算的には苦しい状況が続くと思われる。

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シリコンがこのように状況になることは、数年前までは考えられなかった。

2011年9月に倒産した米国の太陽電池メーカーのSolyndra は、高価なシリコンの代わりに、光吸収層の材料として銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)などを用いたCIGS型太陽電池を事業化した。

米国のエネルギー革新のモデル企業とされ、
2009年にオバマ大統領の「Green New Deal」政策の一環として535百万ドルの融資保証を受け、2011年5月にはObama大統領も訪問した。

しかし、たった4年で、新しいポリシリコン製造工場への投資が増え、シリコン価格はkg当たり400ドルから20ドルにまで下がり、その恩恵を受けられずに同社は倒産した。

2012/10/19 倒産した米太陽電池メーカーSolyndra、中国の太陽電池企業を独禁法違反で訴え

 

液晶関連事業もあっという間に状況が激変した。

世界中のいろんな分野の企業が新規成長分野に競って参入することとなったため、今後もこのような事態は発生すると思われる。






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