開城工業団地、事実上閉鎖

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北朝鮮は3月に始まった米韓合同軍事演習に猛反発して武力挑発の脅しをかけるとともに、4月8日に開城工業団地の稼働中断を一方的に発表、北側従業員5万3000人を撤収させた。

韓国の報道機関が「開城は北朝鮮の数少ない外貨獲得源であり、潰すことはないだろう」としたことに北朝鮮は反発、17日の声明で、「団地での北朝鮮側の労働者の賃金は基本的な生活費にもならないが南の企業の利益は計り知れない」と、韓国側が一方的に利益を得ていると主張した。

団地には韓国側関係者約200人が設備管理などのため残留しており、韓国側企業は食料や医薬品などを届けるため団地への訪問を申請したが、北朝鮮は4月17日要請を拒否した。

その後、韓国企業側は順次帰国、電力・通信施設の関係者や管理委職員ら50人が残り、施設の運転・保守や北朝鮮側との折衝にあたった。

韓国は4月25日、北朝鮮に実務協議を提案した。26日午前中の回答を迫り、「なければ重大措置をとる」とした。

これに対し、北朝鮮は、「残っている人員の生命が心配なら全員撤収させればよい。さらに事態を悪化させるなら、わが方が先に最終的かつ決定的な重大措置を講じざるを得ない」とし、対話を拒否した。

4月30日、開城工業団地に残っていた50人のうち43人が韓国へ帰還した。
韓国政府は29日中に全員を撤収させようとしたが、協議が終わらず、韓国側運営機関の5人と通信会社の職員2人の7人が残った。

北朝鮮側は、労働者の賃金や税金の支払いを求めた。北朝鮮側が要求している賃金は約720万ドルで、このほか法人税や通信料を要求している。
これに対し、韓国側は製品や原材料の搬出を求めた。

韓国側関係者7人は5月3日午後7時過ぎ、韓国に帰還した。これと前後して、北朝鮮側が要求していた北朝鮮労働者の賃金などの未払い金を積んだ現金輸送車が北朝鮮側に向かった。
北朝鮮側は韓国側が求めてきた製品の搬出については認めなかった。

進出企業が設置した生産設備や韓国側が投資した社会基盤などの取り扱いをめぐる話し合いがついておらず、韓国側では「没収される恐れがある」(進出企業関係者)と懸念する声が出ている。

開城工業団地を清算した場合、被害金額は韓国政府の試算で1兆ウォン(約900億円)にのぼるとされる。

南北経済協力保険に加入していれば最大70億ウォンが補償されるが、123社の韓国企業のうち27社は加入していないという。

朴大統領は、「出資企業と労働者が路頭に迷わないように政府が支援をする」と表明。また、「世界の誰が北朝鮮に投資しようとするだろうか」と非難した。

北朝鮮側としては、一時的に従業員を撤収させたのが誤算で、韓国の報道機関に本音を読まれ、引っ込みがつかなくなり、大事な外貨収入源を失うこととなった。

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開城工業団地は2000年8月、金正日総書記と鄭夢憲・現代グループ会長との合意で、北側が土地と労働力を、南側が技術と資本を提供して、開城に一大工業団地を作ることが決まった。
2003年8月に南北当局者間で投資保障、二重課税防止、清算決済、商社紛争合意書の4項目に関する経済協力合意書を交わした。

2007/9/8 北朝鮮開城工業団地に中国企業進出
2009/6/13  北朝鮮、開城工業団地の土地賃貸料や労務費の大幅引き上げを要求

2013年時点で、進出した韓国企業の投資総額は5,568億ウォン (482億円) で、生産額は月4,000万ドル。
これとは別に韓国側の公的企業が、造成や社会基盤整備に5.5兆ウォン (4,770億円) から6兆ウォン (5,200億円) 投資している。

一方、北朝鮮側は労働者約5万3千人分の賃金として1年間に8,700万ドルの外貨収入を得ており、北朝鮮にとってはドル箱事業である。

朝鮮日報によると、開城工業団地を北朝鮮が独自に稼働させるのは困難である。

開城で使用される電力は百パーセント韓国の発電所から送られている。
京畿道坡州のムンサン変電所から送られた電気を韓国側が建設した開城平和変電所(10万キロワット級)が受け取り、これを各工場に送電している。
電力不足の北朝鮮には開城に送る電力の余力はなく、送電設備もない。

電力供給がストップすれば、工業用水を確保するための浄配水場も稼働がストップする。

機械など工場の設備を修理する能力も低く、修理に必要な部品の確保にも限界がある。

なお、韓国の対北朝鮮経済協力のもう一つの柱であった金剛山観光事業は、2008年の韓国人旅行者射殺事件以来、中断されている。



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