Dow Chemical、アスベスト裁判で敗訴、被害の従業員に595万ドルの賠償金支払の審決

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ルイジアナ州裁の陪審員は8月21日、アスベストの使用で癌(中皮腫)にかかった従業員に対し、Dowの責任を認め、595万ドルの賠償金支払いを命じた。

原告側弁護士は、Dowは数千人の従業員をアスベストの危険に晒しており、今回の従業員は数百人の癌の被害者の1人に過ぎないとしている。

提出された記録によると、ほとんどの化学会社が数十年前にアスベスト使用を止めているのに対し、Dowは、アスベストを含まない代替品と比べて約10%安いという理由で、世界中の製造設備でアスベストを使い続けている。

同社はEPAによるアスベスト禁止に対する反対のロビー活動を行った。
米国ではEPAにアスベスト使用を認めるよう運動して成功、海外でもアスベスト禁止に対して争っている。

裁判資料では、Dowは"cost per cancer" 分析を行い、全てのプラントでアスベストを使わない方法に変更した場合、12億ドル以上が必要と判断した。
1970年に従業員や契約労働者が(直接アスベストを扱わない人を含め)中皮腫などの癌になる可能性を予測しながら、アスベストの使用継続がコスト的に有利であるとした。

現在もアスベストの使用を継続している。

従業員の発癌の可能性を予測しながら、損益計算をしてアスベスト使用を継続したというのが本当なら、恐ろしい会社である。
Agent Orange、Bhopal、Dioxinなどへの対応も含め、社会的責任をどう考えているのだろうか。

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アスベストについては、1972年にILO、WHOの専門家会合で石綿の癌原生を指摘した。

日本では1975年に吹付け石綿の原則禁止、1976年に石綿代替促進通達が出された。
1987年に業界自主規制で使用禁止とし、1995年に使用禁止となった。

欧州でも1991年にオランダ、92年にイタリア、93年にドイツで全石綿の原則使用禁止となり、1999年にEUが全石綿の使用禁止を決定した。
(1997年のフランスの使用禁止に対し、最大の輸出国のカナダがWTOに提訴したが、WTOは2001年にフランスとEUを支持、貿易制限措置を容認した。)

 

米国では、WHOが使用禁止を勧告した1989年にEPAが石綿の使用禁止規定を制定した。

官報で、「1997年までに3段階にわたり、ほとんどの石綿含有製品の製造、輸入、加工および商業的流通を禁止する」とした。

しかし、1991年10月18日に米国連邦高等裁判所はこのEPA規制は無効であるとの判決を下した。

ただし、高裁は1989年7月のEPA規制公布日の時点で、製造、輸入あるいは販売などが行われていない石綿含有製品と、新しい石綿および石綿含有製品の使用については禁止することができる とした。

EPAはこれに基づき、石綿セメント管用テープ、ルーフィングフェルト、ビニル石綿タイルなど14品目と石綿の新用途を禁止する旨の通達を1992年4月に出した。

これに対して米国の業界が、これらのうちの多くが1989年時点で輸入されたり、製造されたりしていたとの書類を提出した。
その結果、EPAは1993年11月に以下の18品目を禁止品目から除外した。

石綿スレート波板、石綿スレート平板、石綿織布、パイプライン・ラップ、ルーフィング・フェルト、ビニル石綿床タイル、石綿セメント屋根板、石綿板(以上8品目は禁止14品目に含まれていたもの)
石綿セメント管、トランスミッション部品、クラッチ・フェーシング、摩擦材、ディスク・ブレーキ・パッド、ドラム・ブレーキ・ライニング、ブレーキ・ブロック、ガスケット、ノン・ルーフィング・コーティング、ルーフィング・コーティング

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Dow Chemical はHome Pageに「Issues & Challenges」というページを持ち、同社の抱える4つの問題点(Agent Orange、Asbestos、Bhopal、Dioxin)について同社の立場、観点を説明している。

Asbestoについては以下の通り。(2013年2月15日更新)

Dowと子会社の UCCはアスベスト製品の工場での使用(及び、UCCの場合はアスベスト繊維等の販売)に際して政府の規則、業界の基準に従がっている。

過度に曝露されて発症した場合は補償が必要だが、裁判は大変なため、法律などによる国としての解決が必要である。

将来の補償額が不明なため多くの企業が破産に追い込まれており、この点からも幅広い国としての解決が必要である。

注)米国ではアスベストを巡る訴訟が相次ぎ、W. R. Grace は2001年に破産法11条を申請した。

Dow(アスベスト使用者として)とUCC(生産者及び消費者として)は自社に対する訴訟には防衛してきたし、今後も防衛する。
同時に、国の問題として、法律による解決を支持する。

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今回の裁判で原告側を代表している弁護士事務所 Baron & Budd, P.C.は30年以上にわたりアスベスト被害者を対象にしてきた。
The national mesothelioma (中皮腫) law firm と称し、中皮腫ニュースというホームページで被害者に呼びかけている。

55か国でアスベストを禁止しているが、米国では2011年に1,180トンが使用され、毎年3,000人が中皮腫と診断されているとしている。

今回の実績をもとに、Dowに対する訴訟も相次ぐと思われる。しかもアスベスト使用を継続する限り、患者は増え続ける。

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参考 日本のケース

2012/12/10  建設労働者アスベスト訴訟、国に初の賠償命令


 

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