中国で販売価格を巡る2つの独禁法違反事件

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中国で販売価格を巡る2つの独禁法違反事件が明らかになった。

国家発展改革委員会(NDRC)は8月7日、粉ミルクを巡る競争阻害や卸売業者に対する最低販売価格の制限などで、6社に合計 670百万人民元(約109百万ドル)の罰金を課した。

上海市高級人民法院は8月1日、Johnson & Johnson(J&J)に対し、独禁法違反で旧代理店の北京鋭邦涌和科貿に賠償金530千人民元(約87千ドル)を支払うよう命じた。

規定価格以下で販売したことを理由に代理店契約を取り消されたとして鋭邦涌和科貿がJ&Jを訴えていた控訴審で、原判決を覆し た。


中国の独占禁止法は、以下の行為を禁止している。

水平的協定 価格協定
・供給制限
・市場分割
・新技術又は新設備の購入の制限、新技術又は新製品の開発の制限
・共同ボイコット
垂直的協定 再販価格維持行為
最低再販価格の制限
キャッチオール条項 独禁当局が別途定めるその他の独占的協定を包括的に禁止
業界団体のカルテル 業界団体が事業者に対し、上記の各行為を行わせる行為を禁止

担当は以下の通り。

国家発展改革委員会(NDRC) 価格独占行為の調査・処分
商務部 事業者集中行為
工商総局 独占協定、市場支配的地位の濫用、
行政権力を濫用した競争の排除、制限

販売価格を巡っては、既に下記の独禁法違反行為が摘発されている。

1)NDRC2011年11月独禁法違反で製薬会社2社に合計で約110万ドルの罰金を科した。

2011/11/18 中国が価格カルテルを摘発

2)NDRCは2013年1月4日、LG電子、サムスン電子など韓国、台湾の液晶メーカー6社がカルテルを結んで液晶パネルの販売価格を不当につり上げていたとして、総額353百万人民元(約49億円)の制裁金を科したと発表した。
中国当局が外国企業に価格カルテルで制裁金を科すのは初めて。

2013/1/9  中国政府、価格カルテルで外資に制裁金

3)NDRCは2013年2月22日、中国酒のトップメーカーの四川省のWuliangye (五粮液) と貴州省のKweichew Moutai (州茅台)に対し、価格カルテルで総額449百万元(71.4百万ドル)の罰金を課した。五粮液は202百万元、貴州茅台は247百万元。
発表では、両社は独占契約を結んでいる卸業者に対し、酒類の販売最低価格を決めていたという。

2013/3/2  中国、中国酒メーカーに価格カルテルで罰金

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粉ミルク事件

国家発展改革委員会(NDRC)は8月7日、乳児向け粉ミルクの価格操作と独占禁止法違反をめぐる調査の結果、米Mead Johnson Nutritionほかの計6社に合計109百万ドルの罰金支払いを命じた。中国の独禁法違反の罰金額としては過去最高額。

各社は卸売業者に対する契約で最低販売価格を制限し、違反者に罰金を課したり、リベートをカットしたり、商品供給を制限するなど行ったと発表している。

  罰金
(千人民元)
売上高比
(2012年)
Mead Johnson Nutrition(米) 203,800  4%
Dumex Baby Food(仏)Danone 子会社 172,000 3%
Biostime International (香港)
合生元国際
162,900 6%
Royal FrieslandCampina(蘭) 48,000 3%
Fonterra Co-operative Group (NZ) 4,000 3%
Abbott Laboratories (米) 77,000 3%
Wyeth Nutrition(スイス)Nestlé 子会社 免除
Zhejiang Beingmate Technology Industry and Trade
貝因美科工貿(中国)
免除
明治ホールディングス 免除
合計 667,700
109百万ドル
 
直近レートは1人民元=0.16342 米ドル
Biostimeは違反行為がひどく、是正措置を取らなかったとして最高の6%の罰金となった。Mead Johnsonは積極的に協力せず、4%となった。
Wyeth (Nestle)、貝因美、明治の3社は 「独占禁止法執行機関に対して、独占に関する取り決めの関連情報を自発的に報告し、重要な証拠を提供し、かつ自発的に改善を行った」ため、処罰の対象外とされた。


関連企業が提出した改善措置には、「違法行為の即時停止」、「実質的な行動による過去の違法行為の処理、消費者への実益の提供」が含まれた。

本年7月に価格独占行為の調査・処分を担当するNDRCの価格監督検査・反独占局が 国内メーカー数社を含む粉ミルクメーカー10数社に対し、独占価格の疑いがあるとして調査を行っていることが報じられた。

中国では2008年に石家荘三鹿集団のメラミン混入粉ミルクを飲んだ乳幼児が腎臓結石となるケースが相次ぎ、5人が死亡、多数が入院した。
調査の結果、他の22社の69品目からメラミンが検出された。

2008/9/29 中国粉ミルク汚染事件のその後

この結果、海外ブランドは価格が国内産の2倍もするが、国産品よりも安全として需要が増大していた。

2008年以降、海外ブランドは価格を30%引き上げたが、海外ブランドのシェアは2008年以前の30%から60%にまで上がっている。

大手チェーンでは1人当たり購入を2~4缶に制限しており、香港では本年3月、2缶以上を本土へ持ち帰るのを犯罪とした。

中国の粉ミルク市場は2012年が127億ドルで、2014年には184億ドル、2017年までに250億ドル規模にまで拡大すると見られている。

調査を受け、Mead Johnson、Dumex、Nestlé などは相次いで20%程度の値下げを行っ ている。

なお、NZのFonterraは、これ以外に、大きな問題を起こした。

ニュージーランド一次産業省は8月3日、同国の乳業最大手のFonterraの一部商品にボツリヌス菌が含まれる可能性があると発表した。

中国はFonterraが調整粉乳に利用している乳製品原料粉末と乳清タンパク(ホエイプロテイン)の輸入を停止した。

乳製品はニュージーランドの輸出全体の約4分の1を占め、Fonterraはニュージーランドで生産されるミルクの89%を扱っている。
今回の輸入制限は中国への輸出に頼るニュージーランド経済にとって打撃である。

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Johnson & Johnson事件

上海市高級人民法院は8月1日、規定価格以下で販売したことを理由に代理店契約を取り消されたとして北京鋭邦涌和科貿がJohnson & Johnson(J&J)を訴えていた控訴審で、原判決を覆してこの行為を独禁法違反とみなし、J&Jに対し、鋭邦に賠償金53万元(87千ドル)を支払うよう命じた。

J&J は鋭邦との間で15年間にわたり、J&Jの子会社のEthicon Endo-Surgeryの医療用縫糸や吻合器などの代理店契約を結んでおり、契約は毎年更新されていた。
その契約では、「鋭邦はJ&Jが指定する地域で Ethicon Endo-Surgeryの商品を販売する。鋭邦はJ&Jの規定を下回る価格で商品を販売してはならない」と取り決めていた。

Ethicon Endo-Surgeryは、体内で吸収される抗菌性縫合糸や心臓血管外科手術などで用いられる縫合糸、合成皮膚用接着剤等々を扱う。
J&Jは創業1年後の1887年に消毒済み縫合糸を発売した。

鋭邦公司は2008年3月に北京大学人民病院で実施された入札で最低落札価格で落札、J&Jは低価格の入札行為に対して警告を発した。
その後、J&Jは縫糸および吻合器の供給を停止し、翌年、鋭邦との代理販売契約を更新しなかった。

これに対し鋭邦は2010年8月、J&Jを相手取った訴訟を起こした。
これは中国の独占禁止法の施行以来、法廷が審理した初の垂直的独占の民事訴訟となり、「中国初の垂直的独占」と呼ばれた。
(本件では独禁当局=NDRCは関与していない。)

鋭邦の主張:
J&Jは競争の直接的な制限を目的とし、代理販売契約の中の契約条項により、鋭邦が第3者に最低価格で転売することを制限し、鋭邦に警告を発し、契約を中止・終了するなどの手段をとり、鋭邦が最低転売価格を維持することを脅かした。

J&Jの行為は、独禁法が禁止する最低転売価格を制限する行為に当たり、鋭邦に損害をもたらしたため、法に基づきJ&Jに1400万元余りの賠償命令を出すよう求める。

上海市第一中級人民法院は2012年5月に下した一審判決で、鋭邦側の証拠が不十分だとして訴訟請求を退けた。

これに対し上海市高級人民法院は 今回、本件には独占禁止法が適用され、J&Jが代理商に自社の規定を下回らない価格での商品販売を求める行為は、独占行為に当たると判断した。
賠償金については、鋭邦の2008年に販売できなかったことによる利益だけとし、それ以降に契約を更新できなかったことによる損害については認めなかった。

1年ごとの契約であるという形式を重視したと見られるが、過去15年継続してきたことから考えるとおかしい。



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