米連邦地裁の陪審、武田薬品に60億ドルの懲罰的賠償支払の評決

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武田薬品工業は、米ルイジアナ州の連邦地裁の陪審が4月7日に糖尿病治療薬「アクトス」に関して、武田に60億ドルの懲罰的損害賠償の支払いを命じる評決を出したと発表した。

2014年2月3日から続いていたルイジアナ州西部連邦裁判所で行われた2型糖尿病治療剤「アクトス®」に起因する膀胱癌を主張する製造物責任訴訟において、原告の主張を認める陪審評決があった。
原告はTerrence Allenで、被告は武田薬品及び米国でアクトスを共同で販売しているEli Lilly である。

  総額 武田薬品 Eli Lilly
補償的損害賠償   1475千米ドル 75% 25%
懲罰的損害賠償 90億米ドル 60億米ドル 30億米ドル

武田薬品は、原告の膀胱癌はアクトスによるものではなく、また、この医薬品のリスクについては適切に注意書きをしているとし、「このたびの評決は大変遺憾であり、到底承服できない」としている。

Eli Lilly も、アクトスは2型糖尿病には重要な治療薬であり、アクトスが原告の膀胱癌を起こしたとの証拠は無く、徹底的に争うとしている。


最終的には90億ドルの懲罰的賠償は大幅に引き下げられると見られている。

これまでの高額懲罰的賠償の10例では全てが破棄または大幅減額となっており、陪審の決定どうりのものはない。
米国の最高裁は、懲罰的賠償は補償的損害賠償や実際の被害額に見合ったものでないといけないとしており、いくつかのケースでは補償的損害賠償額の10倍なら認められるとした。

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アクトスは糖尿病治療剤で、糖質の消化・吸収を遅らせる作用があり、2型糖尿病において、食事療法・運動療法を行っていても十分な効果が得られない場合の食後の過血糖を改善する薬。

糖尿病には2種類ある。
1型糖尿病はインスリン欠乏による糖尿病で、すい臓がインスリンをほとんど、またはまったく作ることができないため、インスリンの注射が必要。

2型糖尿病はすい臓がインスリンを作り出すが、量が十分ではない(インスリン分泌不全)か、インスリンが十分作用しない(インスリン抵抗性)場合で、10人に9人以上はこのタイプ。

2型糖尿病の薬は武田が開発したアクトスのみで、ピークの2007年度には世界で3962億円を売り上げた。2011年に特許が切れるまで収益の屋台骨であった。

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フランスの医薬品規制当局は2011年6月、 武田薬品の糖尿病治療薬アクトスとコンペタクト(アクトスとメトホルミンの配合剤)の新規患者への投与を禁止したと発表した。
当局が独自に行った疫学調査で、アクトス投与群は非投与群に比べ膀胱がんリスクが有意に高いことが確認されたためで、投与中の患者については、医師が個別に判断する。

2011年6月の厚労省の発表は以下の通り。

フランスの疫学研究の結果では、膀胱癌発生リスクは、非使用者と比較して約1.2倍増で、総投与量・期間の増加によるリスクが増加する傾向が認められた。

米国の疫学研究の結果では、膀胱癌発生リスクは、非使用者と比較して約1.2倍増で、全体解析では統計学的な差が認められなかったが、治療期間が長い場合にリスクが上昇する傾向が認められた。

一方、膀胱癌のリスクを上げないとする疫学研究等も複数報告されている。

以上の通り、わずかであるが、アクトス使用者において、投与期間に依存して膀胱癌の発生リスクが上昇する可能性があるため、当面の対応として、以下の内容の使用上の注意の改訂を指示する。

 ・ 膀胱癌治療中の患者等には使用を控える。
 ・ 膀胱癌のリスクについて患者への説明を行う。
 ・ 血尿等の兆候について定期的に検査する。

米国FDAは、「膀胱癌の患者にアクトスを使用しないこと」等の勧告を行った。

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米国では、アクトスの長期服用が原因で膀胱癌が発症したり、悪化したとの訴訟が約6000件起きている。
原告男性の弁護側は、アクトスと膀胱癌との関連性を示す研究結果について、武田が7年以上も具体的な警告を発するのを怠ったのは偶然や過失ではないと述べた。

これまで3件の州裁判所で判断が出ているが、カリフォルニア州とメリーランド州の州裁判所では陪審員が合計820万ドルの支払いを命じたが、裁判長がこれを却下、ラスベガスの州裁では本年、陪審員が原告の訴えを却下している。

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この裁判では武田薬品が関連書類を意図的に破棄したとする原告側の主張 が取り上げられた。

判事によると、武田の関係者は、アクトスの開発とマーケティング、販売に関わった現職および元従業員46人がまとめたファイルが見つからないことを認めた。
幹部がアクトス関連資料を保持するよう従業員に指示したにもかわらず、一部のファイルは同社のコンピューターから削除されたという。

判事はファイルの削除・破棄は憂慮すべきことだと述べ、原告の弁護士が書類破棄について陪審の前で陳述することを認めた。

 

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