ホンダ、ブラジル子会社との取引の移転価格税制の訴訟で勝訴

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東京地裁は8月28日、ホンダがブラジル子会社との取引をめぐって国から受けた課税処分の取り消しを求めた訴訟 で、国の課税は誤りと認め、約75億6700万円の法人税の課税を全額取り消した。

本件概要は以下の通り。

東京国税局は2004年6月29日、ホンダとブラジルの二輪事業の現地法人モトホンダ・ダ・アマゾニアの1997年から2002年の6年間の収益に関して、日本側の収益が低く配分されているとの判断から、税額の更正通知を 行った。

更正された所得金額は254億円で、それに対する追徴税額は、法人税、事業税、地方税を含め合計約130億円と試算される。

関連企業との取引を利用した海外への利益移転を防ぐ「移転価格税制」によるもので、国税局はブラジルの同種の企業とホンダ子会社の利益を比較し、ホンダ子会社が6年間に得た利益のうち約254億円は、親会社のホンダから部品を格安で購入したことなどで得られたと判断し、課税した。

これに対し、ホンダは、ブラジルの諸法規なども踏まえ、ホンダとモトホンダ・ダ・アマゾニアとの間の取引条件を定め、この事業から得た収益に対しては、日本及びブラジルにおいて適正な納税を行っているとし、長年の現地努力の成果に対し、「現地の利益の多くが日本に帰属する」との国税局の判断は納得できない 」とした。

ホンダは2007年に国税不服審判所に異議を申し立てたが、認められなかったため提訴した。

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ホンダは、1975年にモトホンダ・ダ・アマゾニアを ブラジルの産業振興指定地域であるアマゾナス州マナウス市に設立し、翌年より現地生産をスタートした。

ブラジルの国策に沿って、現地が主体となり約90%まで国産化を進め、品質・生産性の向上や大幅なコストダウンを実現してきた。

販売面ではブラジル独自の割賦販売システムを国内最大規模に育てあげ、強力な販売網を築いてきた。

経済環境の大きな変化を乗り越え、得た利益を現地で積極的に再投資し、この10年間で10倍以上の販売台数に急成長してきている。

2003年度には、モトホンダ・ダ・アマゾニアは約82万台を現地生産し、ブラジル国内で約73万台を販売、約9万台を北米、欧州、オセアニア、中南米諸国など計68ヵ国に輸出し た。

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裁判長は判決理由で、現地子会社のある地域がブラジル国内で税制上の優遇を受けている「マナウス ・フリーゾーン」内にあることを重視し「営業利益の 59%が税優遇によるもので、影響が大きい」と指摘した。


そのうえでブラジル国内の別の地域で税優遇を受けていない同種企業と比較 しており、「両社は類似しているといえず比較できない。両社の差を調整せずに利益を算定したのは誤り」と述べた。

マナウスはアマゾン川の河口から約1700キロメートルに位置する。

1960年代にブラジル軍事政権が高インフレと外貨準備高の不足を是正するため、輸入の制限を強化し、マナウスに工場を誘致した。

しかし、マナウス市とブラジル中央の市場とは3,000kmからの距離があり、工業製品の搬出には大きなハンディキャップとなる ため、政府はそれをカバーするため、下記の税制恩典を発令した。

(1) 輸入税の免除
認可プロジェクトの場合、製造に使われる消費財や製造設備、再輸出のために保管される製品などは、連邦税である輸入税は免除される。
プロジェクト認可を受けているマナウスの中間財メーカーから、完成品製造のために輸入部品を購入した場合も輸入税は免除となる。
ただし、フリーゾーンから製品を出荷する場合は、輸入原材料、部品等の輸入税に対して88%免除。

(2) 工業製品税の免除
認可プロジェクトの場合、フリーゾーン地域内での消費、製造のために輸入される製品、または国内で購入される製品や製造設備、再輸出のために保管される製品は連邦税である工業製品税が免除される。 

(3) 法人税の減免(最大75%、収益率と業界分類による)
   当初は
利益を計上した年度より10年間100%減免。

(4) 社会統合計画・社会保険融資負担金の減免措置
部品や生産設備の輸入時は免税(一時保留)となり、再度出荷する時点で負担することになるが、当該の輸入部品等が製造過程を経て完成品として出荷される場合には、輸入時の措置が継続され免税となる。

(州税)商品流通サービス税の減免措置
フリーゾーンにおける生産のための部品や生産設備等の輸入や州内での購入時は、州税である商品流通サービス税は課税されない。
完成品を出荷する際には、通常の税率が55〜100%減免される。

この結果、日本企業もホンダ、ヤマハ、パナソニック、ソニー、サンヨー、フジフィルム、東京海上、TDK、村田製作所等の約30社が進出している。

現行の法律では税制恩典は2023年に終了することになっているが、2013年10 月に延長が認められた。正式には憲法の修正手続きが必要だが、税制恩典は2073年まで更に50年延長されるものとみられている。 

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移転価格税制では独立企業間価格はまず、「伝統的な取引基準法」で検討され、それが適用できない場合には「その他の方法」で検討する。日本から米国子会社への取引価格の例では方法と問題点は以下の通りとなる。

① 伝統的な取引基準法

 ・独立価格比準法(CUP法)
   同種製品の独立企業間(日本→米国)の取引価格を検討
   (比較可能性の高い取引の選定が困難)

 ・再販売価格基準法(RP法)
   米国の比較可能な同業の財務データに基づいて販売会社がどの程度の売上利益率を計上しているかを検討
   (取扱製品の類似性が厳格に要求され、比較可能な同業の財務データの取得は困難) 

 ・原価基準法(CP法)
    日本の比較可能な同業の財務データに基づいて製造原価に対してどの程度利益の上乗せをしているかを検討
    (比較可能な同業の売上総利益データの取得は困難)

② その他の方法
 ・利益分割法(PS法)
    連結ベースでの営業利益がどのような割合で日本本社ならびに米国販売子会社で分けられるかを検討

 ・取引単位営業利益法(TNMM法 平成16年度税制改正により導入)
    再販売価格基準法が売上総利益を見るため製品の類似性が要求されるが、こちらは営業利益率を検討
    (類似した子会社機能で類似した業界であれば、同種製品でなくとも営業利益率はほぼ一定という経済仮説)

今回の例では、国税局は最後の取引単位営業利益法により、ブラジルの同種の企業とホンダ子会社の利益を比較したが、条件の異なる企業との比較をしたのが間違いとされた。

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国税局の移転価格税制の判断には、明らかにおかしいと思われる例があり、本ブログでも指摘している。

武田薬品

米国アボットとの50:50の合弁会社(当時)のTAPファーマシューティカル・プロダクツ(TAP)との間の製品供給取引等に関して、米国市場から得られる利益が武田に過少に配分されているとして、移転価格税制に基づき、大阪国税局より所得金額で6年間で1,223億円の所得の更正を受け、約570億円の追徴税額を課せられた。

武田薬品は、TAPとの取引価格はアボットの合意なしには決められず、独立企業間価格であり、移転価格税制が適用されるべきものではないとした。
本ブログも、通常は50/50JVとの取引価格は独立企業間価格とみられ、移転価格税制は適用されず、武田側の主張は当然であるとした。

最終的に全額取り消しとなった。

2013/3/27 武田薬品の移転価格税制での更生処分、全額取り消し

信越化学

信越化学は2008年2月に米国子会社シンテック社からの収益(5事業年度)に関して、東京国税局より移転価格課税に基づく更正通知書(国外移転所得金額は約233億円)を受領したと発表した。

本ブログはこう述べた。
そもそも、国税局からは「信越化学が提供した技術でシンテックは高収益を得ているのに、見合うだけの対価を受け取っていない」と指摘されたというが、シンテックの高収益が信越が提供した技術のためであるという認識に間違いがある。もしそうなら、日本の信越化学は他の塩ビメーカーよりも高収益であるはずだが、決してそうではない。

シンテックの高収益の理由は、一つは原料のVCM(塩素とエチレンから製造)をクロルアルカリとエチレンのトップメーカーのダウから供給を受けていることで、塩ビの損益が悪化したときには、損失を一部ダウが負担するという契約条項もあるといわれている。もう一つが常にフル操業をするという経営方式である。

最終的に全額取り消しとなった。

2010/6/11 信越化学の移転価格課税、119億円還付へ 


なお、
ホンダは2008年に中国の四輪事業でも総額1,400億円を超える巨額の申告漏れを指摘された。
国税局は技術移転や設備、部品の販売、日中間の利益配分など事業全面にわたり、問題を指摘した。

現在も係争中だが、これについても本ブログは問題を指摘している。

2008/5/1 ホンダの中国四輪車事業の移転価格税制問題
 

 

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