塩野義製薬にHIV治療薬JVの枠組み変更取引で400億円の申告漏れ指摘

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塩野義製薬は9月12日、大阪国税局よりHIV治療薬JVの枠組み変更取引にからみ、「法人税等更正通知書及び加算賦課決定」を受領したと発表した。
更正された所得金額は約405 億円だが、対象年度に欠損金があっため、追徴税額は地方税等を含め約 13億円となる。

同社では、この取引は事前に当局に照会し、確認を得たうえでのものであり、承服できるものではないとし、不服申し立て等あらゆる必要な措置を講じていくとしている。

今回の更正処分による追徴税額等約13億円は、今期に過年度法人税等として計上する。
また、今回の更正処分(税務所得405億円の追加)により前期繰越欠損金が消滅したため、当年度の税金費用として約134億円を計上する。
(不服申し立てをする場合でも、企業会計上は税金を計上することとなっている。)

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塩野義製薬はViiV Healthcare (GSKとPfizerのJV)との 50/50JVのShionogi-ViiV Healthcare でHIVインテグレース阻害薬ドルテグラビルの開発を行ってきたが、2012年10月29日に、HIV治療薬JVの枠組み変更を発表した。

Shionogi-ViiV Healthcare の50%持分をViiV Healthcareに譲渡し、見返りにViiV Healthcareの10%の権利を取得する。

2012/11/2  塩野義製薬、HIV治療薬JVの枠組み変更


今回の発表などを基にすると、事態は以下の通りと推定される。

1)塩野義はShionogi-ViiV Healthcare の50%持分を、先ず英国子会社のShionogi Limitedへ簿価(約130億円)で現物出資した。

2)Shionogi LimitedはこれをViiV Healthcare に譲渡し、対価としてViiV Healthcare株10%(時価約530億円)を取得した。

3)  英国ではこの取引は無税で行われたとみられる。

4) 塩野義は2013年3月連結決算で、Shionogi-ViiV Healthcareの簿価とViiV株式10%の時価との差 40,433百万円を特別利益に計上した。

5)  日本の税務申告では、組織再編税制の規定に基づき、当局の確認を得たうえで、(簿価での)現物出資として税務上の所得はゼロとして申告した。
 (英国子会社では404億円の特別利益が出たが、日本では簿価130億円の持株を同額で英国子会社に現物出資するため、所得はゼロとなる。)

6) これに対し、大阪国税局はこの特別利益を塩野義の税務上の所得と認定し、課税した。

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塩野義の当局への説明内容(取引のどこまでを説明したのか)、当局側の確認の方法(口頭か文書か)、今回の当局の処分の理由など、詳細が分からないため判断できないが、常識的に考えると、塩野義の主張には無理があると思われる。

資産を他に移転する場合には、移転資産の時価による取引として譲渡損益を計上するのが法人税法の基本的な考え方である。

但し、組織再編成により資産を移転する場合、移転の前後で経済実態に実質的な変更が無いと考えられる場合には、その時点で時価との差額を課税するのではなく、簿価での移転を認め、実質的に処分するまで、移転資産の譲渡損益の計上を繰り延べる。

今回の場合、Shionogi Limitedは現物出資を受けたJVの持株を直ちに譲渡し、対価としてViiV Healthcare株10%を受け取り、利益を得ている。
「移転の前後で経済実態に実質的な変更が無い」とは言えず、また塩野義からShionogi Limitedに持分を移す必要性も考え難い。

実質的には、塩野義がJV持株を譲渡し、対価としてViiV Healthcare株10%を受け取り、利益を得たと見るほうが素直である。

 (これが認められるなら、海外資産を売却する際に現地に子会社をつくり、そこに資産を移した上で売却すれば、日本での課税を免れることとなる。)





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