Lion Copolymer、再びSBR事業を取得

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Lion Copolymer は12月1日、テキサス州 Port NechesでSBRを生産しているAshland Elastomers, LLCの買収を完了したと発表した。
これにより、同社は一旦売却したSBR事業を再開、SBRとEPDMを揃えることとなった。

同社については、一度このブログで取り上げている。

2006/11/14 合成ゴム会社 Lion Copolymer, LLC

その後、いろいろな展開があったため、再度取り上げる。

 

2005年9月、DSMはBaton RougeでSBRを生産する子会社のDSM Copolymer Inc.を Lion Chemical Capital に売却すると発表した。
Lion Chemical Capital はこれを Lion Copolymer, LLC と改称した。

その後の同社の歴史は下記の通りで、それぞれの事業は長い歴史を持つ。

 


1.DSM Copolymer の SBR

第二次世界大戦を控え、米国政府は天然ゴムの供給が絶えるのを恐れ、合成ゴム製造計画を進めた。

Franklin D. Roosevelt 大統領の指示で、1940年にゴムの保管、速度制限によるタイヤ用ゴムの節約、スクラップゴムの回収を目的にRubber Reserve Company が設立された。

その後、東南アジアからの天然ゴムの供給が途絶え、合成ゴムの生産が求められた。

1942年にRubber Reserve Company とタイヤメーカー(Firestone、Goodrich、Goodyear、United States Rubber Company=後のUniroyal)は統一処方GR-S (Government Rubber-Styrene) を決めた。
  ブタジエン 75%、SM 25%、触媒 potassium persulfate、改質剤 dodecyl mercaptan 

1942年4月に4社が生産を始め、1945年には生産量は92万トン(うちGR-Sが85%) に達した。GR-Sのうち 70%は4社が生産している。

http://www.acs.org/content/acs/en/education/whatischemistry/landmarks/syntheticrubber.html

この動きのなかで、1943年に 中小のゴム・タイヤ企業7社が集まって設立したのがCopolymer Corporation で、Baton RougeのRubber Reserve Company のプラントでSBRの生産を始めた。

1955年に米国政府は民間への払い下げを決め、Copolymer Corporationが Copolymer Rubber and Chemical Corporation と改称し Baton Rouge工場を買い取った。

1983年に Armstrong Rubber Companyが買収、1989年3月にDSMが買収し、DSM Copolymer となった。

Lion Chemical Capitalは2005年にこのDSM Copolymer のSBR事業を買収し、Lion Copolymer を設立した。

ーーー

DSM Copolymer は以前には、SBRのほかにNBR (Nitrile Butadiene Rubber) とEPDMを持っていた。

NBRについては、Baton Rougeに年産16千トンのプラントを持っていたが、日本ゼオンは1999年1月、DSM CopolymerからNBR事業を買収した。
NBRの
商権約10千トン(年)と、同社の年産16,000トンの連続重合生産能力での生産権利を取得した。

ゼオンは1999年10月にはGood Year Tire & Rubber からNBR事業を買収した。
Good Year のNBR商権約13千トン(年)と同社のNBR関連技術の全てで、工場は停止する。

ゼオンは欧州では1989年にBP Chemicals からNBR事業を買収している。(英国 Sully に工場)

ゼオンは現在、日本に年産60千トン、米国に15千トン、英国に15千トン、合計90千トンの能力を持つ。

EPDMについてはルイジアナ州AddisでKeltanブランドで生産していたが、老朽化したため、2004年に停止した。

DSMは1989年に出光とのJVの出光DSMを設立し、千葉にEPDM 年産4万トンのプラントを建設した。
2003年にオランダに8万トン(第1期)のプラントを建設したのに伴い、2004年9月末に千葉での生産を停止し、JVを解散した。

オランダのSittard-Geleenではその後増設して年産16万トン とし、更にブラジルのTriunfoに年産4万トンのプラントを建設した。

DSMは2010年に オランダとブラジルのEPDM事業をLanxessに売却した。
Bayerから分離独立したLanxessもBayerから引き継いだBuna EPブランドのEPDM
を販売しており、ドイツのMarlと米国のOrangeで、合計能力 12万トンを持つ。

DSMのEPDM事業買収でLanxessの全世界能力は32万トンになった。

2010/12/20 LANXESS、DSM Elastomersを買収



2.
ChemturaのEPDM

Chemturaは2006年10月末に、コア事業への集中のため、ルイジアナ州に工場を持つEPDMとゴム薬事業中国のChemtura-CNCCC Danyang Chemical の持分を含む)及び、全世界のオゾン劣化防止剤事業Lion Chemical Capital に売却する覚書を締結した。

Lion Chemical Capitalは2007年に契約を変更し、中国JV持分とオゾン劣化防止剤事業はChemturaに返却した。
EPDM事業は
Lion Copolymer に移した。
ゴム薬
事業Lion Chemical Capital とACI Capital が2004年にPolyOneから北米のゴムコンパウンド事業を買収して設立したExcel Polymersに移した。

Lion Chemical Capitalは2010年11月30日に、スウェーデンに本拠を置くゴムコンパウンドメーカーのHEXPOLにExcel Polymersを売却した。

  2010/12/11 ゴムコンパウンドメーカーHEXPOL、同業のExcel Polymersを買収


Chemtura はCrompton と 水処理剤、家庭用クリーナー、難燃剤、安定剤等のメーカーGreat Lakes Chemical が2005年に合併して設立された会社で、樹脂添加剤では世界最大のメーカー。ほかに農薬、石油添加剤、ウレタンポリマー等を生産している。

Lion Chemical Capital が買収したEPDMとゴム薬事業は、元はCrompton & Knowlesが買収したUniroyal Chemical の事業で、EPDMについては、Royalene® EPDM とTrilene® Liquid EPDMを生産している。

Uniroyal Chemical の元は、1892年に9社が統合してコネチカット州Naugatuckに設立されたタイヤ会社United States Rubber Companyである。
United States Rubber Companyは1961年にUniroyal, Inc.に改称した。

1985年にCarl Icahnによる敵対的買収を避けるためLBOを行ったが、債務の返済のため、化学部門 Uniroyal Chemical をAvery Inc.に760百万ドルで売却した。

Uniroyal Chemical は1996年にCrompton & Knowlesに統合された。

なお、Uniroyal, Inc そのものは1986年にB.F. Goodrichのタイヤ部門と統合してUniroyal Goodrich Tire Company となったが、1990年にフランスのMichelinに買収された。

ーーー

住友化学はUniroyalからEPDM技術を導入した。
韓国のSK(旧称は油公)のEPDM事業は、元は油公と住友化学のJVの
Yukong Elastomer であるが、これは住友化学とUniroyalが共同で技術供与した。

また住友化学はABSとSBRラテックス技術をUniroyalから導入し、UniroyalとのJVの住友ノーがタックを設立した。(Uniroyal発祥の地のNaugatuckから取った。)

住友ノーがタックは1980年に住友化学100%となった。
1988年にDowが35%出資し、ポリカーボネート事業を開始、1992年に50/50として住友ダウと改称した。

1995年に住友ダウはABSとラテックス事業を分離し、住友化学100%の住化ABS・ラテックスとしたが、1999年に三井化学のABS事業と統合し、日本A&Lと改称した。

Dowは2010年にPCやスチレン系事業を投資会社Bain Capital Partnersに売却し、Styronが誕生した。
この結果、住友ダウは
住化スタイロン ポリカーボネート と改称した。

 


3.Lion CopolymerのSBR事業(続き)

Lion Copolymerは2010年10月、Acrylonitrile-styrene-butadiene terpolymer (NSBR)の導入を発表した。

しかし同社は2014年2月SBRプラントを停止 した。Economic conditions によるとした。
その後、プラントを同社の元CEOが設立したEast West Copolymer LLC に売却した。

そして今回、Ashland Elastomers, LLCを買収し、SBR事業を再開した。



4.Ashland Elastomers, LLCのSBR

Ashland ElastomersのSBRは元はB. F. Goodrichの事業である。

B. F. Goodrich は1940年にブタジエンとMMAのコポリマー をタイヤ用ゴムとして開発し た。
これを使ったタイヤは"Ameripol" という名前で売られた。輸入天然ゴムではなく、"polymer of American materials" を使っているということで名付けられた。

上述の通り、1942年に統一処方でのSBRの生産を開始した。

1986年にUniroyal, Inc とB.F. Goodrichのタイヤ部門が統合してUniroyal Goodrich Tire Company となり、1990年にフランスのMichelinに買収されたが、Michelinは 1992年にSBR事業をAmeripol Synpol Corp (買収したSBRの商標を社名にした)に売却した。

同社はOdessa, TexasとPort Neches, Texasにプラントを持っていたが、2002年にOdessa工場を停止し、廃棄した。(設備の一部はPort Nechesに移した。)

同社は2002年12月にChapter 11 を申請、裁判所の許可を得て、Port NechesのSBR事業をInternational Specialty Products Inc. に売却した。

米国最大の化学品のディストリビューターのAshlandは2011年6月3日、特殊化学品とパーソナルケア製品などのメーカーのInternational Specialty Products を買収すると発表した。
AshlandはこのうちのSBR事業を
Ashland Elastomers, LLCとした。

2011/6/7 Ashland、特殊化学品メーカーのInternational Specialty Products を買収 


Lion CopolymerはこのAshland Elastomers, LLCを取得した。


 

 

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