EU、ロシアのGazpromにEU競争法違反の警告

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EUの欧州委員会は4月22日、ロシアの天然ガス会社 Gazprom にEU競争法違反の疑いがあるとし、異議告知書を送付した。
Gazpromは12週以内に反論できるが、欧州委が最終的に違反だと判定すれば、利益の最大10%の罰金を科され、数千億円規模に上る可能性がある。


欧州委員会はロシア産ガスに大きく依存する中東欧諸国のガス市場で、独占的な地位を乱用して競争を妨げたとの暫定的な判断を示した。

ブルガリア、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、スロバキアの計8カ国のガス市場で独禁法に違反したとみている。

問題としているのは下記の点で、これらにより、欧州域内の自由なガスの取引を損ねているとみている。
 

国境を越えてのガス販売禁止 輸出禁止条項
販売先条項(国内のみ)
その他(輸出承認要、販売先変更拒否など)
Bulgaria, Czech, Estonia,  Hungary, Latvia, Lithuania, Poland、Slovakia
Unfair pricing policy 価格設定が不公平
最大40%の価格差
Bulgaria, Estonia, Latvia, Lithuania、Poland.
パイプライン建設とガス購入を結びつけ South Stream pipeline projectへの参加強制 Bulgaria
Yamal pipelineへの 投資決定への関与 Poland



EUの問題意識は下記の通り。

1) 国境を越えてのガス販売禁止

Gazprom はこれにより、各国間にガスを自由に送るのを禁止し、結果として各国は安い価格のガスの入手が出来ない。

これにより市場分割が行われ、最も必要な国にガスが流れない。

国によりガス価格が大きく異なる。低価格の国は余ったガスを価格が高い国に送るのがよいが、それが出来ない。

欧州委は既に2004年のGDFとENI・ENELとの取引、2009年のEDFとE.Onとの取引で、これが違法であるとの決定を下している。

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しかし、LNGでは買主が第三者に転売することを禁止する仕向地制限などが一般的である。


2) 不公平な価格

一般的にGazpromはガス価格を一連の石油製品価格に連動させている。

これ自体は違法ではなく、ガス価格が国により異なることも、各国のエネルギーミックスでのガスの重要性が異なるため、問題視していない。

しかし、Gazpromのコスト、地域別の価格など多くの点から考慮し、Gazpromの採用する石油製品との連動フォーミュラは需要家よりもGazpromに有利であると判断した。


3) パイプライン建設との結びつけ

ブルガリアとポーランドでガス供給を特定のパイプラインについての約束を条件とし、市場を支配したと懸念する。

ブルガリアでは、コストが高く、経済見通しが不確実なSouth Stream Pipeline 計画への参加を条件とした。

ポーランドでは、Gazprom以外のガスがポーランドを通過するYamal パイプラインに関して、投資決定にGazpromが関与することを条件とした。

Yamal Pipelineは、ロシアのヤマル半島からベラルーシ及びポーランドを経由してドイツに至るパイプランで、ロシアの独立系天然ガス生産・販売会社Novatek が運営する。


競争政策を担うVestager(ベステアー)欧州委員は22日、記者会見で「欧州市場で活動する企業は欧州企業であるかどうかにかかわらず、EUのルールに基づいて行動しなければならない」と強調した。

Gazpromへの警告について「政治的ではない」と指摘、調査がウクライナ問題の前から始まっていた点などを強調した。

しかし毎日新聞によると、昨年末の会見でVestager 欧州委員はGazpromの調査を「優先」する姿勢を強調し、「競争ある市場」が「EUが目指すエネルギー同盟を達成する一助になる」と述べており、対露エネルギー依存を下げるエネルギー同盟達成のために調査を急いだと見られる。

EUの具体的な動きはウクライナ問題が始まってからであり、ウクライナ問題などを巡ってEUと対立するロシアの反発は必至だ。

Gazpromは「各国法規と国際法を厳格に順守しており、事実無根だ」と反論する声明文を発表した。同社はさらに「(今回の判断は)調査の一段階に過ぎず、違法と認定するものではない。今後も法の枠内で行動していく」とした。ラブロフ露外相は「EUの主張はロシアとの合意に反する」と批判した。

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ロシアは2014年12月1日、ウクライナを迂回してロシアから欧州南部に天然ガスを輸送するパイプライン South Stream の敷設計画を撤回した。

実際には、パイプラインの海底部分建設のための140億ユーロの調達がEUの制裁で困難になっていることがあるが、EUによる反対が口実となった。

EUは2013年12月4日、各国が締結したSouth Stream pipeline 建設契約はEUの法に違反しており、ゼロから再交渉する必要があるとした。

South Stream pipeline 建設契約が反しているとされるEUの規則は、2007年9月に採択された第三次電力・ガス自由化パッケージである。

これはエネルギーに関する消費者の選択、フェアな価格、クリーンエネルギー、供給の保証を目的とするもの。
再生可能エネルギーに投資するなどの小企業でもエネルギー市場に参入できるようにするもので、具体的には、エネルギーの生産と輸送ネットワークの所有を分離する。これにより電線やパイプラインの所有者が、利用を拒否したり、高い価格を要求したりして参入を妨害するのを防ぐことを狙うものである。

South Stream pipelineについては、天然ガスの生産者であるGazpromがパイプラインを所有することになるため、これに違反するという主張である。
Gazpromの天然ガスだけを送るパイプラインは認められないとした。

ウクライナは2013年に欧州連合との政治・貿易協定の仮調印を済ませたが、ロシア寄りの姿勢を見せるヤヌコビッチ前大統領が2013年11月、EUとの関係を強化する「連合協定」の締結を見送り、ロシアとの協力関係を密にする方針に転換した。 (これが現在のウクライナ問題につながる)

EU規則は2007年9月のものだが、2013年12月までは EUはSouth Stream 計画について何も問題視していない。

2014/12/4   ロシア、South Stream 計画を取り止め


Gazpromはガス販売とパイプライン建設の両方を独占することで強い影響力を保ってきたが、EUはガスとインフラの独占は許さない姿勢を示した。
 

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