ギリシャ国民投票、EUの財政緊縮策に反対

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ギリシャの国民投票が7月5日午前7時(日本時間午後1時)に始まり、午後7時(同6日午前1時)に終わった。
投票権者は18歳以上の約985万人で、投票率が40%を超えなければ、結果は無効になる。

日本時間午前6時現在、開票率90%で緊縮策に反対が61.45%で、賛成 38.55%を大きく上回り、チプラス首相は 「ギリシャは歴史的なページを開いた」と述べ、反対派の勝利を宣言した。 
   
付記 最終的に、投票率 62.5%で、反対が61.31%、賛成が38.69%だった。

ギリシャ側は民意を背景に緊縮策の修正をEU側に迫りながら金融支援の実行を求めるものと見られるが、EU側がこれに応じ追加支援を行う可能性は低いとみられる。


EUは7月6日朝にトゥスク大統領、ユンケル委員長、ヨーロッパ中央銀行のドラギ総裁、ユーロ圏財務相会議のダイセルブルーム議長が電話による会議を開き、対応を協議する。


IMF債務は既に「延滞」(実質デフォルト)しており、最大の債権者の欧州金融安定ファシリティー(EFSF)は 、下記のとおり、ギリシャがデフォルト状態にあると認定し、即時支払要求の権利を留保した。

S&Pは公的機関であるIMFへの返済が滞ってもデフォルトにはあたらないとの見方を示しているが、7月14日にはギリシャ政府が抱える債務返済案件のうち、1995年に発行した20年物のサムライ債の約117億円(約8300万ユーロ)償還がある。
また7月17日は、2014年7月発行の3年もの国債の利払い(7100万ユーロ)がある。

これらの支払が滞った場合、格付会社はギリシャ国債をデフォルトと判断するとみられる。

IMFの報告書では、2018年末までにギリシャは500億ユーロが必要であるとしている。

ヨーロッパ中央銀行も、ギリシャの中央銀行を通じて行ってきた ギリシャの銀行への緊急流動性支援(ELA)を打ち切る可能性が高く、ギリシャの銀行は破綻が相次ぐ恐れがある。

付記

ヨーロッパ中央銀行は7月6日、ギリシャ銀行向け緊急流動性支援(ELA)を現行水準に据え置くと同時に、銀行が差し出す担保のヘアカット(割引率)を調整したと明らかにした。

これにより、資金繰りに余裕のないギリシャ国内行は休業を続ける。

そうなれば、ユーロ圏離脱がいよいよ現実味を帯びてくる 。

ギリシャにはロシアや中国が接近している。地中海の要衝でNATO加盟国のギリシャの混乱は安全保障問題に直結しており、米国は懸念している。

ーーー

ギリシャの債務状況は非常に厳しい。

1)ギリシャの対EFSF債務をデフォルトと認定

ギリシャが6月末にIMF債務を返済しなかったことを受け、ギリシャの最大の債権者である欧州金融安定ファシリティー(EFSF)は7月3日、ギリシャの対EFSF債務がデフォルト(債務不履行)状態にあると認定した。

ギリシャとEFSFとの取り決めで、IMFへの返済の延滞により、「ギリシャのデフォルト事由発生に至った」との認識を示した。

IMFはデフォルトという言葉を使わずに「延滞」と表現した。

デフォルトの場合の処理としては、
 
① 債権の即時支払い要求
 ② 債権放棄
  ③ 即時支払い要求の権利留保

があるが、EFSAは今回は権利留保を選択した。

EFSFによると、現在の対象債権は合計 1446億ユーロとなる。 (これまで1310億ユーロ程度とされていた)

Master Financial Assistance Facility Agreement  1091億ユーロ
Bond Interest Facility Agreement                                  55億ユーロ
Private Sector Involvement Facility Agreement          300億ユーロ

EFSFは「全ての債権者に対する財政上の義務を履行するというギリシャの約束を破るもので、ギリシャ経済や国民に深刻な影響が及ぶ可能性が生じている」としている。


2009年10月にギリシャの財政赤字粉飾が表面化し、支援が必要になったため、ユーロ圏16カ国は2010年5月、緊急支援の基金で3年間の時限措置の欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の設立と、これを引き継ぐ恒久的支援組織の欧州金融安定化メカニズム (ESM)の2013年7月設立を決めた。

EFSFは各国政府による保証を基に市場から資金を調達し、支援を必要とする国に融資を行うもので、当初の保証負担額は合計4400億ユーロであった。
2011年6月にEFSFの拡充を決定、現在は7798億ユーロとなっている。

各国が負担する保証負担額は以下のとおり。(百万ユーロ)

  保証負担額 拡大後
オーストリア 12,241    21,639
フィンランド 7,905 13,974
フランス 89,657 158,488
ドイツ 119,390 211,046
ルクセンブルグ 1,101 1,947
オランダ 25,144 44,446
AAA格付 6か国合計 255,439 451,540
その他 184,561 328,243
合計 440,000 779,783

EFSFは、今回のギリシャのデフォルトについて、「強固な保証の枠組みに支えられており、EFSF債の保有者への返済能力に影響しない」と説明した。


2)IMFによるギリシャ分析

IMFは6月26日付けで、IMF Country Report "Greece : Preliminary draft  Debt Sustainability Analysis" を発表した。 (国民投票が決まる前のものである)

それによると、前回の2014年5月の分析時には、計画通りにいけば、更なる救済は不要と思われたが、本年初め以降 、緊縮策や構造改革の取り組みが遅れて状況が変わった。 

2018年末までの間で、総額500億ユーロの資金が必要となる。

  億ユーロ
借入金返済 298
金利支払 172
支払遅延分 70
民営化 -20
基礎財政収支 -94
その他 93
差引 519


うち、借入金返済は下記の通り、EFSFが143億ユーロ、IMFが99億ユーロとなっている。

ギリシャが市場からこのような多額の資金を調達することは不可能である。

このため、ユーロ圏諸国が少なくとも360億ユーロを追加で、しかも超有利な条件(AAA向けの利率、長期融資、利子猶予期間つき)で融資する必要がある。

しかし、このような融資が2018年まで維持され、最も楽観的なIMFの現在の見通しに基づいたとしても、ギリシャの債務のGDP比率は2020年は150%、2022年でも140%になると予想される。

 

 

付記

この報告書をめぐり、ユーロ圏諸国が公表をやめるよう働き掛けていたことが、関係筋の話で分かった。IMFで大きな影響を持つ米国は公表を支持していたという。

ある外交筋はIMFの報告書公表について、欧州諸国が債務軽減を盛り込まない限り、今後のギリシャ追加支援にIMFは関わらないという意思表示だと語った。

チプラス首相は7月3日に行った国民向けのテレビ演説で、債権団の支援条件受け入れ拒否を国民に勧めている自身の判断の正当性が、IMFの報告書により裏付けられたと主張した。


IMFのラガルド専務理事は7月8日、ワシントン市内で講演し、財政危機で金融支援を受けたポルトガルやアイルランドなどが改革に取り組んだことを踏まえ、ギリシャについても「財政健全化と重要な改革が必要だ」と強調する一方、EUに対しては「ギリシャのケースでは、財政持続のために債務の再編が必要だ」と述べ、借金の減免や返済期限の延期を促した。

IMFについては、「ルールを曲げるわけにはいかない」と述べ、返済されるまでは新たな金融支援を行わない考えを改めて示した。

  


 

 

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