メルケル首相への公開書簡

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トマ・ピケティなどギリシャへのEUの財政緊縮政策に批判的な経済学者ら5人が、ドイツのメルケル首相にギリシャの債務減免を求める公開書簡を出した。
書簡はブリュッセルでギリシャへの金融支援を協議するユーロ圏首脳会議が開かれた7月7日、ドイツ国内のメディアに公開された。

書簡に署名したのは次の5名:

Thomas Piketty:Professor of Economics at the Paris School of Economics
Jeffrey Sachs:Professor and Director of the Earth Institute at Columbia University
Heiner Flassbeck:former State Secretary in the German Federal Ministry of Finance
Dani Rodrik:Ford Foundation Professor of International Political Economy, Harvard Kennedy School
Simon Wren-Lewis:Professor of Economic Policy, Blavatnik School of Government, University of Oxford Piketty
 

書簡は次の通り。

欧州がギリシャに課している緊縮策は機能しない。ギリシャはもう沢山だと声高に叫んだ。

世界の多くが予想した通り、欧州の要求はギリシャ経済を押しつぶし、大量失業、銀行制度の破綻につながり、債務危機を悪化させ、債務はGDPの175%にもなった。税収は激減、生産と雇用は抑えられ、企業は資金不足となり、経済は破綻している。

人道的影響も巨大である。子供の40%は貧困生活を送り、幼児の死亡率は急増、若者の失業率は50%近くになった。

不正や脱税や以前のギリシャ政府による粉飾会計が債務問題を生んだ。ギリシャ人はAngela Merkelの、賃下げ、政府支出のカット、年金引き下げ、民営化、規制緩和、増税などの緊縮策に応じてきた。

しかし、ギリシャなどに課せられた調整計画は欧州では1929-33年以来起こっていない大不況を生んだだけである。ドイツ財務省やEUの処方箋は病気を治さず、患者を出血させている。

我々は共に、更なる被害を避け、ギリシャがユーロゾーンに留まれるよう、Merkel首相とトロイカに方針変更を求める。
現在、ギリシャ政府は銃を頭に向け、引き金を引くことを求められている。銃弾は欧州におけるギリシャの将来を潰すだけではない。これに付随して、希望と民主主義と繁栄のビーコンとしてのユーロゾーンも殺すこととなる。

1950年代に欧州は過去の負債、特にドイツの負債を免除して基礎をつくった。これが戦後の経済成長と平和に大きく貢献した。
今日、我々はギリシャの負債を再編、縮減し、経済回復の余地を与え、ギリシャが軽減された負債を長期にわたって返済できるようにする必要がある。
今こそ、この数年の懲罰的で失敗した緊縮策を人道的に再考し、もっと必要なギリシャの改革との関連でギリシャ債務の大幅削減に応じる時だ。

Merkel首相への我々のメッセージは明白だ。ギリシャとドイツのため、更に世界のため、行動のリーダーシップをとることだ。今週の首相の行動を歴史は記憶するだろう。ギリシャに対し、大胆で思いやりある行動をとって欲しい。それが将来の欧州に寄与することとなる。

ーーー

Thomas Pikettyは 独週刊紙 Die Zeit とのインタビューで、ドイツは第1次世界大戦後の対外債務も、第2次世界大戦後の債務も返済しなかったと指摘、「他の国に説教できるような立場にはない」と述べた。

「ドイツは歴史を通じて対外債務を返済していない唯一の例だ。第一次大戦でも、第二次大戦でも。
そのくせ、他の国にはしばしば支払をさせている。1870年のFranco-Prussian Warではフランスに多額の支払を要求、実際に支払を受けている。フランスはこれで何十年も苦しんだ。公共負債の歴史は皮肉に満ちている。規律と正義という考えには合わない」

また、戦後のドイツ経済の奇跡的復活は少なくとも過去に債務免除を受けたことが一助になったとの見方を示し、ギリシャに対しても同様の措置が取られるべきだと主張した。

「1945年の終戦時にドイツの負債はGDPの200%を超えた。10年後、ほとんど残っていない。公共負債はGDPの20%に過ぎない。ーーー
1953年のLondon Debt Agreementでドイツの対外債務の60%は免除された。
未来のことを考えてのことだ。これを忘れてはならない

ドイツはギリシャに寛大だとは思いませんかとの質問に対し、

「何の話? 寛大? 現在ドイツは高い利率でギリシャに融資し、利益を得ているではないか」

ーーー

Thomas Pikettyがフランスの新聞に連載したコラムをまとめた『トマ・ピケティの新・資本論』では、ギリシャ問題も取り上げている。

2010年3月時点で、ギリシャ人が生産する以上に消費する怠け者であったために財政危機が生まれたという論調に対して批判しており、ギリシャを倫理的に非難し国民に耐乏生活を強いるよりは、ユーロ共同債を実現し、ギリシャもドイツも含む欧州の納税者が負担を分かち合うべきであると主張した。

2011年11月の時点で、フランスとドイツを初めとする欧州の主要国が、公的債務の共同管理を行うための協定を結び、財政上の決定を単一の政治主体に委ねることを提言している。
欧州の各国首脳が互いに自国の利害を主張し、小幅の譲歩や妥協を重ねるやり方は打ち止めにすべきと主張した。

林秀毅の欧州経済・金融リポート2.0  ピケティがみたユーロ危機 ―始まり・深刻化と処方箋―


付記

IMF のラガルド専務理事は7月8日、ワシントン市内で講演し、財政危機で金融支援を受けたポルトガルやアイルランドなどが改革に取り組んだことを踏まえ、ギリシャについても「財政健全化と重要な改革が必要だ」と強調する一方、EUに対しては「ギリシャのケースでは、財政持続のために債務の再編が必要だ」と述べ、借金の減免や返済期限の延期を促した。

IMFについては、「ルールを曲げるわけにはいかない」と述べ、返済されるまでは新たな金融支援を行わない考えを改めて示した。

 




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