オバマ政権、火力発電のCO2排出規制 を強化

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オバマ米大統領は8月3日、石炭火力発電所からの二酸化炭素(CO2)排出に対する規制強化を正式に発表した。
新規制では、火力発電からのCO2排出量を2030年までに2005年比32%削減することを目指す。

米EPAは2014年6月、火力発電所から出るCO2を2030年までに05年比で30%削減するとの規制案を公表していた。(下記)
オバマ大統領はこの削減幅を同 32%に拡大する。大統領権限で実施する。

規制計画では、古い石炭火力発電所を廃止することでCO2排出量の削減目標を引き上げる一方、太陽光などの再生可能エネルギーへの転換を投資促進策をてこに促す。
目標達成に向けた計画は州ごとに2016年9月までに作り、2022年から実施する。

火力発電所へのCO2回収・貯留設備の設置など、規制計画に伴う電力業界の費用は2030年まで年84億ドルと試算している。

米国政府はすでに、温暖化ガス排出量を2025年までに2005年比で26~28%削減する計画を提出しており、今回発表した火力発電への規制強化により目標達成を後押しする。

各国の目標は下記の通り。

  2030年 2025年
日本 2013年比 26%減  
中国 2005年比 GDP当たり60~65%減  
米国   2005年比 26~28%減
EU 1990年比 40%以上減  
ロシア 1990年比25~30%減  
韓国 対策とらない場合比 37%減  
カナダ 2005年比 30%減  
メキシコ 対策とらない場合比 25%減  


大統領はホワイトハウスで演説し「われわれは気候変動の影響を実感する最初の世代。そして何らかの対策をとることのできる最後の世代でもある」と主張。「地球は1つだけだ。プランBはない」と訴えた。

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米環境保護局(EPA)は2014年6月2日、発電部門における新たなCO₂排出規制案を発表した。
(新設の
石炭火力発電を対象にした排気ガス規制案については、EPAは既に下記のとおり、2013年9月20日発表し ている。)

大気浄化法(Clean Air Act)に基づき、米国内の既存の発電所におけるCO₂排出を規制するもので、EPAが各州に発電部門において達成すべきCO₂排出基準を設定し、基準を達成するための行動計画の提出および実施を義務付けるもの。

石炭よりもクリーンな天然ガスを使った火力発電の活用を明記したほか、建設中の原子力発電所を完成する方針を示すなど温暖化ガスの排出を抑える手段として原発の役割にも言及した。太陽光や風力による発電など再生可能エネルギーの重要性も認めた。

EPAはこの規制の実施により、これまでの対策と合わせて発電部門におけるCO₂排出量を2030年に2005年比で30%削減できると見込んでいる。

各州に適用される排出基準は、州の排出削減ポテンシャルに応じて設定され、かなりの幅がある。
ワシントン州では  0.10kg CO₂/kWh だが、ノースダコタ州では 0.81kg CO₂/kWh となっている。

既設の火力発電所の排出量は下記の通りで、規制案の達成は大変である。
 石炭火力平均 1.02kg CO₂/kWh
    LNG火力平均  0.51kg CO₂/kWh
    LNGコンバインドサイクル発電平均 0.37kg CO₂/kWh

ただし、需要側管理や再生可能エネルギー買取制度、排出権取引制度など幅広い施策を選択できる。

石炭火力からCO₂排出量の少ないLNGコンバインド火力へのシフトが進む他、省エネ投資、再生可能エネルギー投資が進むことなどが予想される。


今回は、火力発電所から出るCO2の削減幅を30%から更に 32%に拡大するもの。

新規制への電力業界の対策コストは年84億ドルとされる。

米の発電比率は下記の通りだが、EPAでは石炭発電比率は2030年には27%に減ると試算している。

  2000年 2013年
石炭 52% 39%
原子力 20% 20%
再生可能 9% 13%
天然ガス 16% 27%
石油など 3% 1%
合計 100% 100%

石炭産出州や業界団体などは新規制の撤回を求めて政府を訴える見通し 。
上院のマコネル共和党院内総務は、新規制は発電所の閉鎖につながり、電気料金を押し上げるとして「何としてでも阻止する」と述べた。

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EPAは2013年9月20日、新設の石炭火力発電を対象にした排気ガス規制案を発表した。

それによると、新設の石炭火力発電所は1メガワット時あたりの二酸化炭素(CO2)排出量を1100ポンド(500キロ)までに制限される。
これは、近代的な石炭火力発電所の大半での排出量より700ポンドも少ない。

この基準を達成するためには、CO2が大気に放出される前に回収する二酸化炭素回収貯留(CCS) という最新技術を使うしか方法がない。

商業的に稼働している発電所で導入している所は1カ所もない。

建設中の発電所でCCS施設が導入されているのは、2箇所のみ。巨額の追加投資は不可欠で、負担の転嫁で消費者や企業などが払う電気料金は大幅に上がりかねない。

JX日鉱日石開発は2014年7月15日、米国のJX Nippon Oil Exploration (EOR) Limitedを通じて、米国で石炭火力発電所の燃焼排ガスから二酸化炭素(CO2)を回収するプラントを建設し、回収したCO2の油田への圧入により原油の増産を図るプロジェクトを開始したと発表した。

CO2回収事業は、三菱重工業と米国の大手建設会社The Industrial Company(TIC)によるコンソーシアムが建設する。

CO2を年間約160万トン削減する。

 2014/7/18 JX日鉱日石開発、米国で石炭火力発電所の排ガス活用による原油増産プロジェクトを開始 
 

もう一つはSouthern Energyがミシシッピー州 Kemper County のMississippi Powerで建設中のもので、発電規模は582 MWで65%のCO2 (年間350 万トン)を捕捉する。
莫大な予算超過が、同社の収益を大幅に圧迫しているとされる。

しかも、このケースは特殊要因があり、多くの火力発電に適用可能とはいえない。
 ・ 発電所はSouthern Energy が所有する炭鉱に隣接し石炭の輸送コストがかからない。
 ・ 回収したCO2を近隣の2社の油田のEOR(石油増進回収法)の材料として販売でき、年5000万ドル程度の収入が期待できるという。

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同様にEPAが石炭発電所などに義務づけた水銀などの有害汚染物質の排出規制では、米連邦最高裁が6月に規制を無効とする判断を下した。

問題となったのは、水銀その他大気有害物基準(Mercury and Air Toxic Standards:MATS)で、EPAは2012年2月、火力発電所が排出する水銀や二酸化硫黄(SO2)といった大気汚染物質は呼吸器疾患などを引き起こし、国民の健康に悪影響を及ぼすとして、厳しい排出規制を課した。

EPAでは、汚染制御機器を備える石炭・石油火力の56%はこの基準を達成でき、残りの44%は水銀及び酸性ガスの排出を90%減少させる技術の設置が必要になるとした。

EPAはそのコストが年間96億ドルとする一方、恩益を年間370~900億ドルと見積もり、毎年11千人までの早期死亡を回避できるとした。

約1100の石炭火力と300の石油火力設備が対象となる。
石炭火力では水銀、粒子状物質、塩酸、フッ化水素酸の排出量が制限され、水銀排出量の90%が削減される。
石油火力では粒子状物質、塩酸、フッ化水素酸の排出量が制限される。
適用まで3年間の猶予期間(州は更に1年の猶予許可可能)

石炭産出州など20州と電力会社などは、発電所の廃止や追加対策による費用が膨らんだとして規制の撤廃を求めた。

米連邦控訴巡回裁判所は2014年4月、排出量の制限が実質的にも手続き的にも有効とした。

これに対し、最高裁は2015年6月29日、EPAがこの規制を実施する前にコストを十分に考慮していなかったとし、5対4で規則を無効と判断し、差し戻した。

多数派意見を執筆したスカリア判事は「EPAは環境規制が適切で必要なものと判断する前に、まずその実施や順守のためのコストを考慮しなければならない」とした。
反対派少数意見は、EPAの政策決定過程は妥当なもので、政策策定の後半の過程ではEPAはコストについて繰り返し計算していたと指摘した。

EPAでは、今回の最高裁の決定は規制自体を取り消すものではなく、またEPAの大気汚染を規制する権限に疑問を投げかけるものでもなく、単に規則制定にあたりもう少し早い段 階でコストを考慮すべきであったと指摘しているだけであるとしている。

今回の差し戻しにも関わらずMATSはなお有効であり、電力会社は引き続き対策をとっていく必要があるとしている。
MATSへの対策が必要な発電所の多くはすでに必要な投資をはじめており、また多くの石炭火力がすでに閉鎖され、再稼働される見込みはない。

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Steve Coll の「石油の帝国:エクソンモービルとアメリカのスーパーパワー」によると、ExxonMobilはずっと地球温暖化を疑問視してきたが、オバマ政権の誕生を契機に、気候変動が社会に深刻なリスクをもたらそうとしている認識に変換、環境税の導入支持へと軌道修正した。

石炭が最大のCO2排出源であり、天然ガスが石炭にとって代わることが出来るため、同社にとって有利となるとの判断からである。

 

 

 

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