環境相、中部電力の石炭火力計画 是認せず

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環境相は8月14日、中部電力が愛知県武豊町で2022年の運転開始を目指す大型石炭火力発電所(出力107万kw)について、環境影響評価(アセスメント)法に基づき「現段階では是認できない」とする意見書を経済産業相に提出した。

環境影響評価法及び電気事業法は、出力11.25万kw以上の火力発電所の設置又は変更の工事を対象事業としており、環境相は、提出された計画段階環境配慮書について、経産相からの照会に対して意見を言うことができるとされており、この手続きに沿うもの。

電気事業連合会など電力業界が2015年7月に「電気事業における低炭素社会実行計画」で公表した二酸化炭素(CO2)削減目標は実効性が不十分なため、CO2排出量を2030年までに2013年比26%減らす政府目標達成に「支障を及ぼしかねない」と判断した。

環境相は6月12日、山口宇部パワー㈱が宇部興産の構内で石炭を燃料とする総出力120万kWの火力発電所を新設する「西沖の山発電所(仮称)」について、「現段階において是認しがたい」との意見書を経産相に提出した。

2013年4月に関係閣僚会合で承認された「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ」では、電力業界全体で二酸化炭素排出削減に取り組む枠組の存在が不可欠であるが、この時点において、枠組は構築されておらず、エネルギーミックスに基づく約束草案政府原案の達成に支障を及ぼす懸念があるとした。

2015年7月に「枠組」は発表されたが、環境省は今回、これの実効性が不十分とした。

今後、経産相から事業者である中部電力に対して、環境相意見を勘案した意見が述べられ、事業者は、意見の内容を検討した上で事業計画を決定し、事業段階の環境影響評価(環境影響評価方法書、準備書、評価書)を行うこととなる。

電力業界の目標を環境省が容認しない状況が続けば、今後の手続きでも反対意見が出て経産省が建設を許可しない可能性もある。

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東京電力による2012年度電力卸供給入札で、石炭火力の落札の可能性が出た。

石炭火力は安定供給・経済性に資するが、環境面に課題があることから、2013年4月25日、経済産業省と環境省は国の目標・計画と整合を取るため、「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ」を行い、関係閣僚会合で承認された。

・今後作成する国の温室効果ガス排出削減目標と整合的な形で電力業界全体の実効性ある取組の確保が必要。

・ 国は、下記の観点により必要かつ合理的な範囲で審査していく。
  (1) BAT(Best Available Technology)

  (2) 国の目標・計画との整合性

http://www.meti.go.jp/press/2013/04/20130426003/20130426003-3.pdf

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計画中の主な石炭火力発電所は下記のとおり。

立地 事業者 石炭火力計画 備考
愛知県武豊町 中部電力 5号機 107万kW
着工予定:2018年度
営業運転開始予定:2021年度
原油・重油燃焼の1号機は老朽化し、停止済み
同2号機~4号機(各37.5万kw)を2015年に停止、全機を撤去し、5号機を新設
山口県宇部市
西沖の山
(宇部興産所有地)
山口宇部パワー 120万kw(60万kw x 2基)
運転開始 2020年代前半
電源開発 45%、大阪ガス 45%、宇部興産 10%
 
秋田市 関西電力/丸紅 130万kW (65万x 2) 2020年代半ば
袖ケ浦市
出光の貯炭場に隣接
九州電力/出光興産/
東京ガス
均等出資
max 200万kW 2020年代半ば
千葉
(JFE製鉄所内)
中国電力/JFE/東京ガス 100万kW  


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政府は7月17日、地球温暖化対策推進本部を開き、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を「2030年までに2013年比26%削減」とする目標を正式決定した。

2015/7/18 温室効果ガス 2030年に2013年比 26%減 

政府は目標の検討にあたり、2030年時点の再生可能エネルギー比率を22〜24%、原発を20〜22%と決め、2013年比で排出量を21.9%削減できるとした。

  2010年度 2030年度
再生エネルギー(含水力) 9.6% 22~24%
原子力 28.6% 20~22%
LNG 29.3% 27%
石炭 25.0% 26%
石油 7.5% 3%
 
 
 
 
 
再生エネルギー内訳
安定 水力 8.8~9.2%
バイオマス 3.7~4.0%
地熱 1.0~1.1%
不安定 太陽光 7.0%
風力 1.7%


さらに代替フロン類削減などで1.5%減、森林整備などによるCO2吸収分2.6%を上乗せし、計26%削減を目指す。

    2015/6/4   エネルギーミックス最終案   


電気事業連合会加盟10 社、電源開発、日本原子力発電および新電力有志 23社は、2015年7月17日、低炭素社会の実現に向けた新たな自主的枠組みを構築するとともに、「電気事業における低炭素社会実行計画」を策定したと発表した。

   http://www.fepc.or.jp/news/__icsFiles/afieldfile/2015/07/17/20150717_CO2.pdf

内容は下記のとおりで、2030年度の販売電力量1kWh当たりのCO2排出量を2013年度比約35%減らすというもの。

2030年度に排出係数 0.37kg-CO2 / kWh 程度(使用端)を目指す。

 2030年度CO2排出量(3.6億トン-CO2) / 同年度の電力需要想定(9.808億kWh) = 0.37kg-CO2/kWh
 
  2013年度比 ▲35%程度相当と試算
 

火力発電所の新設等にあたり、BAT(Best Available Technology) を活用すること等により、最大削減ポテンシャルとして約1,100万トン-CO2の排出削減を見込む。

 設定根拠

参加各社はそれぞれの事業形態に応じた取り組みを結集する。

・安全確保を大前提とした原子力発電の活用

・再生エネルギーの活用

・火力発電の高効率化に努める。

・電力小売分野での省エネ・省CO2サービスの提供


参加各社はそれぞれの事業形態に応じた取り組みを結集するというだけで、具体的な「実行計画」はない。

今回、環境省は、このCO2削減目標は(1)石炭火力のCO2排出量をどう減らすか(2)CO2排出が目標通りに収まらない場合どう対応するか−−が明確でないと判断、実効性が不十分なため、CO2排出量を2030年までに2013年比26%減らす政府目標達成に「支障を及ぼしかねない」と判断した。

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オバマ米大統領は8月3日、石炭火力発電所からの二酸化炭素(CO2)排出に対する規制強化を正式に発表した。
新規制では、火力発電からのCO2排出量を2030年までに2005年比32%削減することを目指す。

米国政府はすでに、温暖化ガス排出量を2025年までに2005年比で26~28%削減する計画を提出しており、今回発表した火力発電への規制強化により目標達成を後押しする。

EPAは2013年9月20日、新設の石炭火力発電を対象にした排気ガス規制案を発表した。

それによると、新設の石炭火力発電所は1メガワット時あたりの二酸化炭素(CO2)排出量を1100ポンド(500キロ)までに制限される。
これは、近代的な石炭火力発電所の大半での排出量より700ポンドも少ない。

この基準を達成するためには、CO2が大気に放出される前に回収する二酸化炭素回収貯留(CCS) という最新技術を使うしか方法がない。

2015/8/7 オバマ政権、火力発電のCO2排出規制を強化
 

石炭火力は、最新型であってもCO2排出量が天然ガス火力の2倍以上とされ、欧米各国は事実上、新設を不可能にする規制を導入しつつある。

日本が大量の石炭火力発電の増強を進めれば、温暖化対策に逆行するとして、国際的な批判にされるのは必至である。



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