米国裁判所、Dow のネオニコチノイド系殺虫剤のEPA承認を取り消し

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サンフランシスコの第9巡回区控訴裁判所は9月10日、Dow AgroSciences のネオニコチノイド系殺虫剤 sulfoxaflor(原体商品名isoclast、商品名Transform とCloser)の承認過程で瑕疵があったとし、承認を取り消した。

1990年代初めから、世界各地でミツバチの大量死・大量失踪が報告されている。
働き蜂のほとんどが女王蜂や幼虫などを残したまま突然いなくなりミツバチの群れが維持できなくなってしまう現象は「蜂群崩壊症候群」(CCD:Colony Collapse Disorder)と呼ばれる。

ネオニコチノイドはこの主な原因と疑われており、 EU は 2013 年5 月、蜜蜂への危害を防止するため、ネオニコチノイド系農薬の使用の一部を暫定的に制限することを決定した。

2013年1月に、3種類のネオニコチノイド系農薬(イミダクロプリド、クロチアニジン及びチアメトキサム)について、蜜蜂に被害が出る可能性があるとし、
2014年5月に、以下を決めた。
・穀物や蜜蜂が好んで訪花する作物については、種子処理、土壌処理又は茎葉への直接噴霧による使用禁止。
・施設栽培における使用や、花が終わった後の野菜・果樹に対する使用は、農家や防除業者であれば使用可能。(家庭園芸用等では禁止)

日本では、これらの農薬は水稲のカメムシ防除に重要だが、使用時に蜜蜂の被害が報告されており、農林水産省では、農薬の使用方法の変更が必要かどうかを検討し、必要であれば変更するとしている。
     農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組(Q&A)

しかし、農薬工業会はネオニコチノイド系殺虫剤 の影響を否定している。
日本では蜂群崩壊症候群(CCD)は確認されていない。
・日本でのミツバチ被害事故の原因は農薬の「直接暴露」であり、農家と養蜂家間の連携不十分がその原因の一つ。
・1993年以降ネオニコチノイド系殺虫剤が使用されているが、その出荷量とミツバチ群数に相関は認められない。
     ミツバチ被害事故に関する農薬工業会の見解について

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Dow は2010年にsulfoxaflor を柑橘類、綿花、キャノーラ(菜種)、いちご、大豆、小麦など多くの作物用に申請を行った。

EPAはこの農薬のミツバチを含むいろいろの昆虫への影響について、Dowが提出した研究やデータを分析し、当初はデータが不十分として、承認に多くの条件を付けた。

しかしながらEPAは2013年5月、Dowが求められた追加研究を完成していないにもかかわらず、無条件承認を決めた。

この数日前に発表された米農務省の報告書では、CCDの存在を認めながらも、農薬の影響を軽視しており、批判された。
原因として、パラサイト、病気、遺伝要素、栄養不足、農薬暴露、前年の旱魃などの複合とした。

Dow AgroSciencesは2013年5月7日、EPAが新殺虫剤の有効成分sulfoxaflorを承認したと発表し 、米国で「Transform」と「Closer」というブランド名で発売した。

蜂蜜業界や養蜂業界は 2013年12月13日、sulfoxaflorを含有する農薬の承認について、ミツバチに対し毒性が極めて高いことを研究が示しているとしてEPAを第9巡回区控訴裁判所に訴えた。

原告は、Pollinator Stewardship Council、American Honey Producers Association、National Honey Bee Advisory Board、American Beekeeping Federation、及び養蜂家3人。
環境問題の法律家グループのEarthjusticeが弁護人となった。

原告は、EPAがEndangered Species Act(絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律)に違反して、ミツバチや他の絶滅危機に瀕した野生生物への農薬の影響を十分考慮しなかったとしている。

訴状 http://www.centerforfoodsafety.org/files/2013-13-13-dkt-25-2--cfs--brief-amici-curiae_18257.pdf


今回の判決で裁判所は、EPAが欠陥があり限定されたデータに基づきsulfoxaflorを無条件で承認したとし、承認は十分な証拠に基づくものではないとした。

承認取り消しについて裁判所は、ミツバチ減少の大きな危険を考えると、承認取消のリスクよりもsulfoxaflorを野放しにする環境面への悪影響の方がはるかに大きいとした。

今後の承認のためには、sulfoxaflor がミツバチに与える影響についてEPAの規則が求める更なるデータを得ることが必要であるとしている。

Dow AgroSciencesは裁判所の決定には同意しないと述べ、EPAと共同で追加の承認手続きを進めると同時に、上告することも検討している。

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オバマ大統領は2014年6月20日、昆虫による受粉は「米国の食糧安全保障に不可欠だ」とし、「ミツバチ、その他花粉媒介生物の健康を促進する連邦レベルの戦略の策定」という覚書を発表した。

覚書ではまず、花粉媒介生物に関する特別委員会(Pollinator Health Task Force)を立ち上げるよう指示している。農務長官と環境保護庁長官が共同議長を務め、その他国務省や国家安全保障会議、科学技術局など15の機関から、閣僚または指名された担当者が参加する。

EPAは、ネオニコチノイドなどの農薬がハチなど花粉媒介生物に与える影響を調査し、それらを守るための行動をとることとしている。

米政府は2015年5月19日、当初期限の5ヶ月遅れで、花粉媒介生物保護に関するタスクフォースの計画を発表した。
ネオニコチノイド系農薬などの新たな規制措置は含まれず、冬のミツバチコロニーの損失を10年かけて15%まで下げることなどを目標としている。

EPAは2015年4月に ネオニコチノイド系農薬の新たな登録を停止したが、追加の規制措置は盛り込まれず、影響調査を主導するという限定的なものにとどまった。

環境保護団体などからは「失望」の声も出ている。

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