S&P、日本国債を格下げ、韓国国債は格上げ

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米格付け会社のStandard & Poor's (S&P) は9月16日、日本の国債格付けについて、「AAマイナス」から「Aプラス」へと1段階引き下げたと発表した。

「デフレ脱却や経済成長をめざした政府の経済政策が、国債の信用力の低下傾向を今後2~3年で好転させる可能性は低い」として、安倍政権の経済政策「アベノミクス」の効果が見込めないことを理由に挙げた。

"We believe the likelihood of an economic recovery in Japan strong enough to restore economic support for sovereign creditworthiness commensurate with our previous assessment has diminished."
"Despite showing initial promise, we believe that the government's economic revival strategy - dubbed 'Abenomics'- will not be able to reverse this deterioration in the next two to three years."

経済成長率の鈍化で2011年度から2014年度の間に、日本の国民1人当たりの平均所得が減少したと指摘、日本経済がデフレから脱却できずにいることや、巨額の財政赤字を抱えていることも考慮したと説明した。

先進国で最悪の水準にある財政状況を「信用指標における重大な弱み」と強調。2014年4月に消費税率を8%に引き上げたが、高齢化で年金や医療などの社会保障費が膨らむため、さらに財政が悪化すると懸念を示した。

中期的な見通しは「安定的」とした。緩やかな経済成長と安定した物価水準で今後2年間の借金残高は「増加ペースが減速し、いずれは安定する」との見方を示したが、想定を上回って借金が膨らめば「格下げとなる可能性がある」とも指摘した。

Moody's は2014年12月1日にAAマイナスレベルから1段階下げ、Aプラスレベルにしており、今回、S&Pの引き下げでこれに並んだ。

なお、もう1社の格付会社 FitchRatings の格付けでは、韓国がAAマイナス(2012年9月にアップ)、日本と中国がAプラスであったが、2015年4月27日に日本の格付けをAプラスから更に1段階引き下げ、Aにしている。

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S&P は9月15日、韓国の国債を「Aプラス」から「AAマイナス」に1段階格上げした。Moody's 及び Fitch と同レベルとなった。

「韓国は今後 3-5年間、他の先進国より高い成長率を維持する見込み」とし、良好な財政と対外健全性も格上げの理由とした。

韓国は対外流動性資産が増え続け、対外債務との差がさらに広がると予想される。
貿易黒字が続き、外貨準備高が増え(3600億ドルを超える潤沢な状態)、危機に際し韓国から引き揚げられるドル建て短期債務資金の割合は非常に少ないとみている。

韓国の財政は先進国の中でも良好
OECD加盟国の政府債務の対GDP比は平均114%で、韓国は40.1%(日本は200%超)

先進経済圏で3%前後の成長を維持しているのは、最近景気が回復局面にある米国を除けば韓国が唯一。

この結果、S&P とMoody's では韓国・中国が並び、日本が一段階下となり、Fitchでは韓国(AAマイナス)、中国(Aプラス)、日本(A) の順で 1段階ずつ差がついた。

韓国企画財政部は「3大信用評価機関からAAマイナス以上の等級を付与されている国はG20のうちでも韓国を含む8カ国のみ(韓・米・独・加・豪・英・仏・サウジアラビア)」とし「韓中日の3カ国中でわが国の信用等級の平均が最高となった」と伝えた。

S&P Moody's- Fitch
AAA
ドイツ
ルクセンブルグ
豪州
スイス
デンマーク
スウェーデン
ノルウェー
カナダ
シンガポール

香港
英国
Aaa
ドイツ
ルクセンブルグ
豪州
スイス
デンマーク
スウェーデン
ノルウェー
カナダ
シンガポール

オランダ
米国

フィンランド
オーストリア
NZ
AAA
ドイツ
ルクセンブルグ
豪州
スイス
デンマーク
スウェーデン
ノルウェー
カナダ
シンガポール

オランダ
米国

フィンランド
AA+
オランダ
米国

オーストリア
フィンランド
Aa1
香港
英国

(フランス↓2015/9/18)
AA+
香港
英国

オーストリア
AA
フランス
NZ
ベルギー
Aa2 フランス AA
フランス
NZ 
ベルギー
サウジ
AA-
(日本 2015/9/16)
韓国
中国
サウジ
エストニア
チェコ
Aa3
(日本 2014/12/1)
韓国
中国
サウジ
ベルギー
AA-
韓国
A+
日本
(韓国2015/9/15)
スロバキア
アイルランド
A1
日本
エストニア
チェコ
A+
(日本2015/4/27)
中国
エストニア
チェコ
スロバキア
A A2 スロバキア A 日本

(中略)

CCC+ ギリシャ Caa1 アルゼンチン CCC ギリシャ
CCC Caa2 CC
CCC- Caa3 ギリシャ C
CC
SD アルゼンチン Ca RD アルゼンチン
D C D
SD:選択的デフォルト       
D : デフォルト
Ca:一部デフォルト
C:デフォルト
RD:一部デフォルト
D:デフォルト

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S&Pは韓国の国債格付けを引き上げたが、同時に「韓国企業の格付けはジャンク(紙クズ)寸前」と警告した。

韓国メディアによると、ソウルで開かれたセミナーで、S&Pアジア太平洋地域の幹部が「韓国企業の信用格付けは2段階下落した」と明かした。「中国リスクが現実化するなかで、韓国企業は四面楚歌 に陥っている」と分析したという。

S&Pによると、韓国主要企業38社の格付けの平均値は2009年時点で最上位から8番目の「BBBプラス」だったが、今年6月には最上位から10番目で、投資適格級として最も低いBBBマイナスまで下落 しており、あと1段階下がれば、「ジャンク」と呼ばれる投資不適格級入りするが、S&Pは「今後の改善の見通しも不透明」と先行きについても厳しい見方をした。

また、日本企業が円安に支えられて収益を回復させ、中国企業も継続的に成長する一方、韓国企業の売上高と利益、投資額は減少しているとした。

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2月12日に行われた経済財政諮問会議で、安倍首相と日銀の黒田総裁の間でやりとりがあったとされる。

黒田総裁は、2014年12月にMoody'sが日本国債の格付けを引き下げ、中国や韓国よりも低くしたことから日本国債暴落のリスクが高まるとして、財政再建に本腰で取り組むべきだと訴えた。

これまで銀行が保有する国債はリスクゼロ資産とされていたが、バーゼル銀行監督委員会では、国債をリスク資産と見なし、格付けに応じて査定するように銀行の審査基準を変更する議論が始まった。

黒田総裁は「基準が見直されれば大量の国債を保有する日本の金融機関の経営が悪化し、国債が売れなくなって金利急騰につながりかねない」と指摘した。

これに対し、安倍首相は、「格付け会社にしっかりと働きかけることが重要ではないか。グロス(政府の1000兆円以上の債務総額)で見ると確かに大きいのだが、ネット(政府の債務から資産を差し引いた純債務)で見ると他国とあまり変わらないという説明などをしなければならない」と応じたという。

バーゼル銀行監督委員会は2015年6月8日、銀行が持つ国債や住宅ローン債権などの金利リスクに対する新たな国際規制案を発表した。
金利の上昇リスクを銀行経営の健全性評価に盛り込む案と、各国の金融当局の権限を強めて対応する案の2案がある。

2016年にも最終案をまとめ、適用は2019年以降になるもよう。日本では3メガバンクなど、国際的に事業展開する大手銀行が対象になる。

黒田総裁が懸念する方向に動いているようだ。

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麻生財務相は9月18日の閣議後会見で、S&Pが日本の国債格付けを1段階引き下げたことについて、「格下げで長期金利がどれだけ上がったか。市場は反応していない。格付け会社の影響力がなくなった」と述べた。

実際には、日本銀行が大規模な金融緩和の一環で大量の国債を買い入れ、長期金利を低く抑え込んでいるためである。

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