開城工業団地の閉鎖

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韓国政府は2月10日、北朝鮮の事実上の長距離弾道ミサイルの発射を踏まえ、北朝鮮南西部にある開城工業団地の操業を全面中断すると発表した。

開城工業団地について「北朝鮮の核兵器と長距離弾道ミサイルの高度化に悪用される結果になった」と指摘し、開城工業団地の資金がこれ以上、核・ミサイル開発に利用されるのを防ぐため、全面中断を決め、北朝鮮当局に通告した。

これまで開城工業団地を通じて北朝鮮に総額 6160億ウォン(約590億円)の現金が入り、昨年だけでもその額は1320億ウォン(約130億円)に上る。

2003年の開城工業団地の着工以来、政府がこれまで敷地造成や道路、電力施設の建設などに投資した金額は4,577億ウォン。
入居企業が建物や生産設備に支払った5,613億ウォンを加えると、開城工業団地に投資した総額は1兆0190億ウォンに達する。
さらに現代峨山は、開城工業団地事業権の対価として北側に5億ドル、約6,000億ウォンを提供した。

韓国の統一相は2月14日、開城工業団地で働く北朝鮮労働者の賃金の7割が朝鮮労働党に上納されていると明らかにした。上納金は核やミサイル開発のほか、金正恩第1書記の私的資金を管理する党39号室に流れ、ぜいたく品の購入などに充てられていると指摘した。
朝鮮日報は労働者には本来の賃金の30~40%に相当する物品交換券などが渡されていたと伝えている。

韓国政府は、再開するには北朝鮮が核・ミサイル開発に関する韓国や国際社会の懸念を解消する必要があるとしており、中断が長期化する可能性がある。

現在入居している韓国企業は 124社で、北朝鮮労働者は2015年8月時点で 5万4702人。
操業中断は、北朝鮮の貴重な外貨収入源の一つを断ち切る効果がある半面、韓国企業にも大きな影響を与える。

米国のケリー国務長官は2月12日、韓国の外相と会見、「非常に勇気があり、重要な措置だ。北朝鮮に、核・ミサイルの放棄を決断することだけが生きる道だという強力なメッセージを与えた」と支持を表明した。


北朝鮮の対韓国窓口機関の「祖国平和統一委員会」は2月11日、声明を発表した。

「開城工業地区事業を全面中断した傀儡どもの挑発的妄動は絶対に容認できない」

南側企業・関係機関の設備・物資・製品をはじめ全ての資産を全面凍結する。
40分の時限を切って「全員追放」、私物のほか一切物を持っていくことはできず、凍結された設備・物資・製品は開城市人民委員会が管理する。

開城団地と隣接した軍事境界線を全面封鎖し、南北管理区域の陸路を遮断する。
開城団地は閉鎖し、軍事統制区域にする。

工業団地に残っていた入居企業関係者など280人は、最終的に午後10時ごろ全員が軍事境界線を通って帰還した。

韓国政府は、帰還者の入国完了を受け、開城工業団地への給電を止める措置を取った。

開城工業団地を北朝鮮が独自に稼働させるのは困難とされる。

開城で使用される電力は100% 韓国の発電所から送られている。
電力不足の北朝鮮には開城に送る電力の余力はなく、送電設備もない。
電力供給がストップすれば、工業用水を確保するための浄配水場も稼働がストップする。

機械など工場の設備を修理する能力も低く、修理に必要な部品の確保にも限界がある。

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韓国政府は2月12日、開城工業団地から撤収を余儀なくされた企業に対し、第1次の緊急支援策を発表した。

南北経済協力保険に加入している110社に対しては、投資損失額の90%、1社あたり70億ウォン(約6億6000万円)を上限とする補償金を支払う。
総支払額は2850億ウォンに上る見通し。

金融機関への返済期限を延長し、新たに特別金利を適用する。
法人税、付加価値税など国税の申告と納付の期限を最大で9カ月延長し、徴収や滞納に伴う処分を猶予する。
電気料金など光熱費についても納付の猶予期間を設ける。

雇用労働部は企業に雇用維持支援金を支払い、社会保険料の納付期限を延長すると同時に、労働者の生活を安定させるための融資も行う。
代替地の確保、必要な人員の補充、海外進出など追加の支援策についてもとりまとめ作業を進めている。

ただ企業側が最も関心を持つ凍結あるいは没収された資産については、「当分は北朝鮮との協議は難しいだろう」との見方を示した。
「不可抗力とも言える安全保障上の問題でもたらされた企業の損失について、その全額を国民の税金で補償することはできない」としている。

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現代財閥の創始者・鄭周永は1989年に韓国の財界人として初めて北朝鮮を訪問し、金日成と会談するなど、対北朝鮮事業に関心を持っていた。

1998年に「太陽政策」を提唱する金大中が大統領になると、鄭周永は金正日と直接面談して金剛山観光開始の約束を取り付けた。

2000年6月に平壌で南北首脳会談が行われ、開城工業地区の計画が合意された。

現代財閥は南北首脳会談の直前に北朝鮮に対して総額5億ドルの秘密支援を行った。これは公式的には現代財閥が対北朝鮮事業の独占権確保のために支払った対価とされるが、実は南北首脳会談の対価ではないかと噂された。

2000年8月、金正日総書記と鄭周永の間で金剛山観光開発の推進と開城工業地区の開発開始で合意した。
開城については、北側が土地と労働力を、南側が技術と資本を提供して、開城に一大工業団地を作ることが決まった。

2003/6 開城工業団地の着工
2003/8 投資保障、二重課税防止、清算決済、商社紛争合意書の4項目に関する経済協力合意書
2004/12 生産開始
2006/11 北朝鮮労働者1万人突破
2007/1 累計生産額1億ドル達成
2007/8 開城工業団地に中国企業進出 日系企業2社も
2009/9 5%の賃金引き上げで合意
2012/1 北朝鮮労働者5万人突破
2013/1 累計生産額20億ドル突破
2013/4 北朝鮮、米韓合同軍事演習に猛反発し稼働中断を一方的に発表
2013/9 操業再開
2015/8 北朝鮮の要求を受け、北朝鮮労働者の最低賃金を5%引き上げることで合意



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