フランスと中国の企業による英国Hinkley Point C 原発計画に黄信号

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フランス電力公社(EDF)がイングランド南西部サマセット州Hinkley Pointで進める新規原子力発電所Hinkley Point Cの建設プロジェクトに黄信号がついた。

中国広核集団(CGN) が33.5%を出資、残りをEDFが出資し、英国南西部サマセット州で160万kW級の欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設するもの。

建設を主導するフランス電力(EDF)は7月28日、同原発の建設計画を決定した。

ところが、英政府は7月29日、中国広核集団、フランス電力、英政府による包括的原子力協力協定の調印式の数時間前というタイミングで、同計画の決定を「秋の初め」に遅らせると発表した。

中国政府は、「この事業は中英仏三者が互恵互利、協力・ウィンウィンの精神に基づき、英側と仏側の大きな支持を得てきたということを強調したい。英側が速やかに決定をし、事業の順調な実施を確保することを希望する」と述べた。

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英国政府は2009年11月に原発拡大策を発表した。
10か所に原発を新設し、2025年までに全電力の25%を原発で賄う計画(当時は全電力の13%)。

  稼働中 廃止 政府案
Berkeley    2基   
Bradwell    2基 
Calder Hall    4基   
Chapelcross    4基   
Dounreay DFR   2基   
Dungeness  2基   2基   
Hartlepool  2基   
Heysham  4基   
Hinkley Point  2基   2基 
Hunterston  2基   2基   
Oldbury  2基   
Sizewell  1基   2基 
Torness  2基     
Trawsfynydo    2基   
Windscale    1基   
Winfrith SGHWR    1基   
Wylfa  2基   
Braystones    
Sellafield    
Kirksanton    
合計  19基   26基   
 

しかし、福島事故による新しい安全対策などのさまざまな理由でコストが跳ね上がり、2012年以降、ドイツ、英国の企業が原発計画から撤退した。

英国政府は2013年、原発推進のため自然エネルギーの普及に使われている「固定価格買取制度」を原発に導入した。

フランスのEDF と英国政府は2013年10月、2基の原発リアクターの建設で合意した。
英国での原発新設は1995年完成したSizewell B 原発以来となる。2023年の運転開始を目指す。

総額160億英ポンド(うち建設費は140億英ポンド)を投じて、Hinkley Pointに欧州加圧水型原子炉(EPR) 2基(総出力320万kW)を建設する。
これに続いて、Sizewell に2基のEPRの建設を進める。
同型のものを建設することで、設計、購入、建設における経費節減を図る。("series benefit")

英国政府とEDFは今回、原子力発電での電力の固定価格買取価格(35年間)について、下記の通り合意した。

Sizewell での建設を決める場合 £89.50/MWh(約14.1円/kWh)
Hinkley Point単独の場合    £92.50/MWh(約14.6円/kWh)

2013/12/27 英国が原発建設再開、固定価格買取制度導入

2015年10月21日、英国を訪問していた中国の習近平国家主席は、フランス電力公社が進めるHinkley Point Cの建設プロジェクトに33.5%を出資することで正式に合意した。

中国広核集団(CGN) が33.5%を出資、残りはEDFが出資する。

同原発の運転開始は当初の計画より2年遅い2025年になるが、総投資額が180億ポンドと見込まれ、25千人の雇用を生み、約60年間にわたり、約600万世帯に電力を供給することになる。

当時のオズボーン財務相は9月に中国を訪問した際、同国の投資を促すため、英政府も自らHinkley Point Cに20億ポンドを投入することを確約していた。

中国はまた、EDFがイングランド東部のサフォーク州 Sizewell とエセックス州 Bradwellで予定する新規原発建設計画にも参画することで合意した。

Sizewellの新原発は中国から20%の出資を受け入れる。一方、Bradwell新原発は資金の2/3 を中国から受け入れるとともに、欧米で初めて中国製の原子炉を採用する。

2015/10/28 中国、英国の原発に出資、中国製原発も導入  

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これまで本計画については、英国の前のキャメロン政権が建設に積極的で、EDF側は建設負担でEDFの経営に影響が及ぶとの懸念がくすぶっており、今春にはCFOが辞任し、同社の複数の労働組合からも懸念が示されてきた。

英国の環境保護派や消費者団体などは、安全性の問題と、電力コスト大幅上昇などへの反対活動を続けている。

EDFは7月28日に取締役会で同原発の最終投資決定(FID)を票決した。2025年の運転開始を目指すとした。

取締役会に参加した17人の取締役のうち10人が賛成、7人が反対というかなりきわどいものだった。
また直前に、取締役の一人がCEOに宛てて「同事業は非常に危険で、EDFを破たんに導くリスクがある」との書面を送付し、辞任した。

EDFに85%出資するフランス政府は本計画に賛成していた。
報道によると、EDFのCEOは英語で書かれた2500ページの契約書をたった2日前に取締役会に提出し、議決を急いだという。賛成を強いられたとする取締役もいる。

BBCは、原子力当局による最終許可が28日中に降りる見込みとなったと報道した。

ところが、英国のメイ新首相は7月28日にフランスのオランド大統領と電話会談し、本プロジェクトについて決断を先送りする計画を説明した。
フランスと中国が出資するこのプロジェクトが英国の利益にかなうかどうか結論を出すまでに、時間が必要だと述べたという。


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今回のメイ首相の決断については、メイ内閣の一部の同僚も蚊帳の外に置かれたとされる。

報道では、事業に参画する中国の扱いや、英国のEU離脱決定後のEUとの交渉との関係などが取りざたされている。

メイ政権は現在、あらゆる政策見直し作業を行っており、本件もその一環である。

キャメロン前首相は、採算面での懸念を緩和するため、英中首脳交渉で、中国広核集団から33.5%の出資を確約させたほか、エセックス州のブラッドウェルに中国製原発の誘致を決めるなど、中国シフトを明瞭に打ち出した。

これに対し、メイ政権の支援者の一人は、 「原発での英中合意は、英国の安全保障を中国に売り渡すとともに、中国の資本を受け入れることで、中国の人権問題に英国が口をつむぐという"取引"をした」と批判してきた。
中国が建設した原発のコンピューターシステムに、何らかの細工を施し、彼らの意のままに原発をシャットダウンされるリスクが残るという指摘まである。

英国はEU離脱を決めたが、欧州の原子力商業利用の基本枠組みである欧州原子力共同体条約(ユーラトム)には残る。ドイツが原発全廃を打ち出しており、原発利用の主要国は事実上、英仏両国に絞られる。

これらの点から、中国とフランスに対する政策を確定するまで、本計画の最終決定を延ばしたと見られる。

今回は、英国では、政権党の党首=首相が交代しただけだが、まるで政権が交代したような印象を与える。

しかし、EU離脱という大変革を迎えるなか、今後の対中、対仏関係の検討の一環として本計画をどうするか再検討するのも当然であろう。

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