第8回 化学遺産認定

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日本化学会はこのたび、化学遺産に新たに5件を認定した。これで化学遺産認定は43件となった。

3月18日(土)に「第11回化学遺産市民公開講座」を開催し、内容を紹介する。

  実施日 318日 (土) 13時30 分 ~ 17時
  会場   慶應義塾大学・日吉キャンパス 第4校舎(B棟) 1階 J11

新たに化学遺産に認定されたのは次の5件。詳細は http://www.chemistry.or.jp/know/heritage/08.html 

認定化学遺産 第039号『日本の油脂化学生みの親―辻本満丸関連資料』

本邦産植物油・海産動物油などの高度利用を目指して性状・成分を明らかにする研究を行い、二百数十編に及ぶ論文発表と特許を取得し、我が国の油脂化学並びに工業の発展に主導的な役割を果たした。

特に、鮫肝油中に存在する高度不飽和炭化水素「スクアレン(C30H50)」の発見(1916年)は国際的にも高い評価を受け、1920年には「油脂の研究」に対して恩賜賞が授与された。
また、辻本等の特許をベースに、いわし油等を原料とする国産初の硬化油製造技術が1914年に開発された。
更に、イシナギ等の魚肝油中に大量のビタミンAが含まれていることを発見した。

☆ 認定化学遺産 第040号『日本の酸素工業の発祥と発展を示す資料』

日本の酸素製造は、エア・リキード社(仏)が1907年に大阪鉄工所(現日立造船)内にクロード‐H型空気液化装置で、また日本酸素(現大陽日酸)が1911年に東京でリンデ‐H型空気液化装置で始めた。

(1)大陽日酸(株)の日本酸素記念館(山梨県北杜市)に、創業時の工場建屋や日本理化工業(→日本酸素→現大陽日酸)製作の国産初の液体酸素製造装置とともに、創業時の装置が保存展示されている。

(2)日本エア・リキード社も、創業時と同じ型式・規模の装置(六角木製箱に酸素精留塔および熱交換器を内蔵、膨張機使用)を、テイサン記念館(兵庫県播磨町)に長く展示し、現在解体保管中である。

☆ 認定化学遺産 第041号 『日本における殺虫剤産業の発祥を示す資料』

大日本除虫菊(「金鳥」)の創業者 上山英一郎(1862~1943)は、1885年に除虫菊の種子を米国より入手し、和歌山で栽培を開始した。
これが日本における殺虫剤産業の発祥である。上山は自らの手で『除虫菊栽培書』を発刊し栽培の普及に努めた。
上山は除虫菊粉に椨粉(たぶこ)などの糊を加えて棒状に成型し、1890年に世界初の棒状蚊取り線香を商品化した。
その後、燃焼が約6時間持続可能な渦巻型が試作された。1895年に誕生したこの渦巻型は、現在でも殺虫剤の主流である蚊取り線香の原型として受け継がれている。

除虫菊に含まれる天然有効成分・ピレトリン類の化学構造を基にその後多くの合成ピレスロイドが発明され、様々な新しい殺虫剤の開発に繋がった。

参考  2006/8/21 夏休み特集 蚊取り線香物語 ピレスロイドの歴史

☆ 認定化学遺産 第042号『近代化粧品工業の発祥を示す資料』

明治前期には石鹸、化粧水の工業生産が始まり、明治中期には性能の良い歯磨きや無鉛白粉(おしろい)の生産が始まった。明治後期には大ヒット化粧品や現在も販売されているロングライフ商品(化粧水オイデルミン、美髪剤フローリン、洗顔料クラブ洗粉等)が生まれるようになり、近代化粧品工業は大きく開花した。

日本で最初の石鹸製造を行った堤石鹸関係資料(日誌(1873年)等、商標、木型)及びそこからの技術が派生して生まれた花王関係資料(分析証明書(1890年)、調合帳(1903-13年))、ライオン関係資料(製造日記(1894年))、化粧品容器及び処方等が保存されている資生堂関係資料(福原衛生歯磨石鹸(1888年)、化粧水、美髪剤)、明治後期の大ヒット化粧品のうち製造年代が明確に分かるライオン歯磨(1899年)、クラブ洗粉(1906年)は近代化粧品工業の発祥、発展を示す貴重な資料である。

☆ 認定化学遺産 第043号『天然ガスかん水を原料とするヨウ素製造設備および製品木製容器』

相生工業(株)(現在の(株)合同資源)の創業者三増春次郎は、大河内正敏博士の助言を受けて房総半島で得られる天然ガスかん水からのヨウ素生産を考えた。
製造技術の開発を三増から依頼された京都帝国大学佐々木申二教授は、この地方のかん水に高濃度に含まれる炭酸水素イオンを活用した銅法の開発に成功した。
1934年に相生工業はこの製法を工業化した。1960年代に開発され現在も使われている新製法(ブローアウト法、イオン交換樹脂法)に切り替わるまでの約40年間にわたって、銅法は日本のヨウ素生産の主力技術となり、ヨウ素輸出にも貢献した。


過去の化学遺産
2010/3/18
化学遺産認定
第1号  杏雨書屋蔵 宇田川榕菴化学関係資料
第2号  上中啓三 アドレナリン実験ノート
第3号  具留多味酸(グルタミン酸) 試料
第4号  ルブラン法炭酸ソーダ製造装置塩酸吸収塔
第5号  ビスコース法レーヨン工業の発祥を示す資料
第6号  カザレー式アンモニア合成装置および関連資料
2011/3/17
化学遺産、第二回認定
第7号 日本最初の化学講義録 朋百舎密書(ポンペせいみしょ)
第8号 「化学新書」など日本学士院蔵 川本幸民化学関係資料
第9号 「日本のセルロイド工業の発祥を示す建物および資料」
第10号 日本の板硝子(ガラス)工業の発祥を示す資料
2012/3/17
化学遺産、第三回認定
第11号 眞島利行ウルシオール研究関連資料
第12号 田丸節郎資料(写真および書簡類)
第13号 鈴木梅太郎ビタミンB1発見関係資料
第14号 日本の合成染料工業発祥に関するベンゼン精製装置
第15号 日本初期の塩化ビニル樹脂成形加工品
第16号 日本のビニロン工業の発祥を示す資料
第17号 日本のセメント産業の発祥を示す資料
2013/3/21
化学遺産、第四回認定
第18号 小川正孝のニッポニウム発見:明治日本の化学の曙
第19号 女性化学者のさきがけ、黒田チカの天然色素研究関連資料
第20号 フィッシャー・トロプシュ法による人造石油に関わる資料
第21号 国産技術によるアンモニア合成(東工試法)の開発とその企業化に関する資料
第22号 日本における塩素酸カリウム電解工業の発祥を示す資料
2014/3/20  
 第5回化学遺産認定
第23号 日本の近代化学の礎を築いた櫻井錠二に関する資料
第24号 エフェドリンの発見および女子教育に貢献のあった長井長義関連資料
第25号 旧第五高等学校化学実験場および旧第四高等学校物理化学教室
第26号 化学技術者の先駆け 宇都宮三郎資料
第27号 日本のプラスチック産業の発展を支えたIsoma射出成形機及び金型
第28号 日本初のアルミニウム生産の工業化に関わる資料
2015/3/19
第6回化学遺産
第29号 早稲田大学蔵 宇田川榕菴化学関係資料 
第30号 工業用高圧油脂分解器(オートクレーブ)
第31号 日本の工業用アルコール産業の発祥を示す資料
第32号 日本の塗料工業の発祥を示す資料
第33号 日本のナイロン工業の発祥を示す資料
2016/3/12
第7回化学遺産
第34号 日本の写真化学の始祖<上野彦馬>関連資料
第35号 明治期日本の化学の先駆者・化学会初代会長 久原躬弦関係資料
第36号 野副鐵男の化学遺産 / 非ベンゼン系芳香族化合物資料と化学者サイン帳
第37号 日本の高圧法ポリエチレン工業の発祥を示す資料
第38号 日本の近代的陶磁器産業の発展に貢献したG・ワグネル関係資料

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