トランプ大統領、「中国を為替操作国に認定しない」 

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Trump 大統領は、大統領選挙前の2016年10月下旬に、大統領に選ばれた場合の公約 "Donald Trump's Contract With The American Voter" を発表した。「アメリカを再び偉大にする」ための100日間のアクションプランである。

そのなかで、北米自由貿易協定(NAFTA) の再交渉又は撤退の意思の発表、TPPからの撤退の宣言などとともに、中国を為替操作国に指定することを挙げている。

2016/11/11 トランプの公約

NAFTAについては1月20日の就任直後の1月22日に再交渉を始めると表明、TPPについても翌 23日に「永久に離脱する」と発表した。

中国についても、大統領は何度も「中国の為替操作」を非難しており、1月31日の製薬業界との会談では、中国と日本をやり玉に挙げた。「他国は通貨切り下げに依存している。中国がなにをやっているか、日本が何年も何をやってきたか。彼らは為替市場に介入し、通貨の切り下げをしているが、我々はボーっとしているだけだ」

2017/2/2 「トランプの公約」の現状-1 

これに対し、Jacob Lew前財務長官は本年1月の退任に当たり、「過去18カ月、中国は人民元為替レートの安定に力を入れているが、人民元安に導いて不公平な貿易政策によって優位性を得ようとはしていない。トランプ政権が中国の政策を、人民元安に導いて不公平な貿易政策によって優位性を得ようとしていると見なすなら、非常に危険」と警告していた。

今回、大統領は前言を撤回した。

トランプ大統領は4月12日のWall Street Journalとの会見で、「考えを変えた。中国は現在は為替操作をしていない」と述べた。

大統領は「北朝鮮の核の脅威を抑え込むのに中国の支援を求める」と加えており、先週の習近平・中国国家主席との首脳会談で「取引」した可能性があると報じられている。

大統領は4月16日のtwitterで、「中国が北朝鮮問題で我々に協力してくれているのに、為替操作国だと呼べるか」とつぶやいた。
Why would I call China a currency manipulator when they are working with us on the North Korean problem? We will see what happens!

大統領はまた、4月14日に財務省が公表する主要貿易相手国の為替報告書で中国を為替操作国には認定しないと明らかにした。従来通り中国を為替操作国にしないという財務省の報告を大統領が承認した。

しかし、米ドルについては、ドルが強くなり過ぎているとし、ドル高はいずれ米経済に打撃を与えるとの考えを示した。

「ドルが強くなり過ぎている。これは人々が私を信頼しているためで、私のせいでもある。だが、結果的には打撃となる。他国が通貨を切り下げる中でドルが強ければ、競争するの は非常に、非常に難しい」と述べた。

FRBのYellen議長についての話のなかで、「正直に言って低金利政策が好きだ」とも述べた。

大統領がドルの価値について直接コメントするのは異例で、中国を為替操作国とみなし輸入関税を引き上げることは止めるが、貿易赤字対策をとる必要性を考えていることは変わっていない。

ーーー

米財務省は4月14日、為替報告書( REPORT TO CONGRESS:Foreign Exchange Policies of Major Trading Partners of the United States)を発表した。

これは2016年2月に成立した2015年貿易円滑化・貿易履行強制法案に基づくものである。

この第701条は、「米国の主要貿易相手国との為替レートおよび経済政策の取り極めの促進」と題し、次のように規定している。

財務長官はこの法律制定から180日以内に、米国の主要貿易相手各国について、米国との貿易収支、直前の3年間における経常収支のGDP比、外貨準備額の短期債務額比とGDP比を含む報告書を上院財政委員会および下院歳入委員会に提出し、以後半年毎に提出する。

重大な対米貿易黒字実質的な経常黒字を有し、外為市場に対する長期かつ一方的な介入を行った米国の主要貿易相手国については、マクロ経済および為替政策に関する高度な分析を行い、財務長官はこの法律制定から90日以内に、この分析で使用した諸要因を公表する。

財務省は上記②の重大な対米貿易黒字実質的な経常黒字を有し、外為市場に対する長期かつ一方的な介入を行った貿易相手国の分析に関し、次の基準で選ぶこととした。

重大な対米貿易黒字 対米貿易黒字が200億ドル(米国GDPの約0.1%) 以上
実質的な経常黒字 経常黒字がその国のGDPの3.0%以上
外為市場に対する介入 GDPの2%以上(ネットで)の額の外貨を繰り返し購入

3つの基準全てに該当する国が701条の対象だが、財務省は、このうち2つに該当する国を「監視リスト」に入れ、監視していくこととした。1度指定されれば、次回の報告書でも自動的に指定される。

2016/5/2 米、日本や中国などを為替操作「監視リスト」に

過去2回の報告で3つの基準全てに該当する国はなく、中国、日本、韓国、台湾、ドイツ、スイスが監視リストに入った。

2016/10/19 米財務省、外国為替報告書で前回4月に続き日本を「監視対象」に指定

今回の結果は下記の通り(赤字は基準に該当)で、3つの基準全てに該当する国はなく、2つの基準に該当するのは、日本、ドイツ、韓国、スイスの4国である。以前に該当した中国と台湾もリストに残る。台湾は介入をしているが、介入額が久しぶりにGDPの2%未満にとどまった。


中国についての報告は下記の通り。

2016年のモノの対米貿易黒字は、前年の3670億ドルから3470億ドルに減少した。中国への輸出も中国からの輸入も減少したが、輸入の減少の方が多かった。サービスについては米国の黒字が増加し、モノとサービスの合計の米国の赤字は3100億ドルとなった。

中国全体の経常黒字のGDP比は、2015年の2.8%から2016年は1.8%に減少した。(1回目の報告では3.1%で基準に該当したが、前回と今回は3%未満で、該当しない)

外為市場には一方的な、大規模な介入を続けている。これは人民元の切り下げのためではなく、米国、中国およびグローバル経済にマイナスとなる人民元の急落を防ぐための介入である。
財務省では、2015年8月から2017年2月までの間に、中国が8000億ドルもの外貨資産を売却したと推定している。
財務省は今後も、監視を続ける。


日本については、過去5年間、為替介入はしていないとしたが、下のグラフの通り、実質実効為替レートは過去20年の平均より20%弱く、過大評価である証拠はほとんどないと指摘し、一段の円安・ドル高をけん制している。

    指数(2005/10=100)
   


 参考  実数

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