Trump 大統領の米入国制限令、最高裁が一部容認

| コメント(0)


米連邦最高裁判所は6月26日、イスラム圏6カ国からの入国を制限する米大統領令を巡り、一部を執行することを認める判断を下した。

10月以降に同大統領令の合憲性を巡る審理の最終判断を下すまで、条件付きで執行を認める。

但し、実際の執行に当たっては多くのトラブルが予想される。

Trump大統領は「国家安全保障にとって明確な勝利だ」とし、「私の最大の責任は国民の安全確保。今日の決定により、国土を守るための重要な手段を使える」と強調した。

大統領はこれに先立ち、最高裁の承認を得られれば72時間以内に執行すると表明している。

ーーー

Trump大統領は1月27日、イスラム圏7か国へのビザ発給の90日間停止、シリア難民受け入れ無期限停止などの大統領令を出した。

ワシントン州が大統領令の緊急停止を求めて連邦地裁に提訴したのに対し、シアトルの連邦地裁のJames L. Robart 判事は2月3日、一時差し止めを命じる仮処分の決定を出し、サンフランシスコの連邦控訴裁判所は2月9日、3人の判事の全員一致で、即時停止を命じた連邦地裁の仮処分を支持する判断を示した。

2017/2/5 米連邦地裁、移民の入国一時禁止の大統領令の即時差し止め仮処分 

政府は最高裁への上告も考えたが、Scalia 判事が亡くなり、残る 8人の判事はリベラル派が4人、保守派が3人、保守寄りの中間派が1人で拮抗しており、最高裁で覆るのは確実ではない。

このため、Trump大統領は3月6日、前回の大統領令の問題個所を修正し、イラクを対象から除外した新たな大統領令を出した。


これに対し、各州が憲法違反として訴追した。

メリーランド州地裁は3月16日、一時差し止めの仮処分を命じた。

米司法省は3月17日、リッチモンド連邦高裁にこの仮処分の取り消しを求めて上訴の手続きを取った。

リッチモンド連邦高裁は事案の重大性を考慮し、判事3人による通常の合議とは異なり、十数人の大法廷で審理し、5月25日、10対3で地方裁判所の決定を支持した。

「この大統領令がイスラム教徒に対する入国禁止ではなく、国家の安全保障のためだとするトランプ政権の主張には、依然として疑問が残っている」と指摘し、「大統領は外国人の入国を禁止する広範囲の権限は与えられているが、それは絶対のものではない。地方裁判所の決定を支持する」とした。

司法省は6月1日、最高裁に上告した。

2017/3/14 Trump大統領の新たな入国禁止命令 

なお、亡くなったScalia 判事の後任として、トランプ大統領は1月31日に保守的な信条で知られる Neil Gorsuch 判事を指名した。

しかし、上院本会議では野党・民主党の抵抗は強く、承認に必要な60議席には達しない見通しとなった。

このため、米上院本会議は4月7日、「核オプション」(nuclear option)と呼ばれる禁じ手を使って、Neil Gorsuch 連邦控訴裁判事を 54 対 45 の賛成多数で承認した。

この結果、最高裁判事は下記の通りとなった。(最高裁判事には任期はなく、終身制である。)

最高裁判事年齢指名した大統領判断傾向
Anthony Kennedy 80歳 Ronald Reagan 中間
Clarence Thomas 69歳 George H. W. Bush 保守
Ruth Bader Ginsburg 84歳 Bill Clinton リベラル
Stephen Breyer 78歳 リベラル
John Roberts (長官) 62歳 George W. Bush 保守
Samuel Alito 67歳 保守
Sonia Sotomayor 63歳 Barack Obama リベラル
Elena Kagan 57歳 リベラル
Neil Gorsuch 49歳 Donald Trump 保守



2017/4/8 米上院、異例の手続きで最高裁判事を承認 

ーーー

最高裁の判断の概要は下記の通り。

10月以降に同大統領令の合憲性を巡る審理の最終判断を行う。

米国の最高裁は10月から4月までの間に審議を行う。

それまでの間、条件付きで入国禁止措置の執行を認める。

条件として、米国人や米国内の団体と真正の関係を有すると正当に主張できる外国人(foreign nationals who have a credible claim of a bona fide relationship with a person or entity in the United States )は禁止措置の対象外とする。それ以外の全ての外国人は大統領令の対象となる。

米国内の人物・団体と「真正の関係」を持つ外国人には、(1)米国内にいる家族と共に暮らしたい、あるいは家族と会いたい外国人、(2)米国の大学の学生、(3)米国企業の従業員、(4)米国の聴衆のために招かれた講師――などが含まれると説明した。

「単に大統領令の適用を避けるために、関係を結ぶ者」はこれに含まれないとし、「たとえば、移民問題に取り組む非営利団体は、特定6カ国の人物に連絡し、顧客リストに加えることで、入国禁止による権利侵害を主張し、入国を確保しようとしてはならない」とした。

しかし、最高裁の判断は玉虫色で、解釈を巡って混乱が起きる可能性もある。 (例えば家族とは何親等までか不明)

付記

政府の決定は次の通り。

対象: 親(義理の親を含む)、配偶者、婚約者、子供、成人した息子や娘、義理の息子と娘、兄弟姉妹、血縁がない兄弟姉妹、異父母の兄弟姉妹

対象外:祖父母、孫、おじ、おば、めい、おい、いとこ、義理の兄弟姉妹

「米国内の人物や団体と真正の関係があると正当に主張できる」者以外の難民申請については、120日間の受け入れ禁止を容認した。

この最高裁の判断に対し、Clarence Thomas判事が部分的に異議を提示し、Samuel A. Alito判事とNeil M. Gorsuch 判事(いずれも保守系)が賛成した。
入国禁止の完全執行を支持するとし、この案では、世界中の公使館でビザ支給で機能不全となり、また、ビザを拒否された人から訴訟の洪水が起こるとしている。

この3人は10月からの審議で政権側につくとみられている。

一方、リベラル系のRuth Bader Ginsburg、Stephen Breyer、Sonia Sotomayor、Elena Kagan の4判事は反対するとみられている。

残るは、中間派のAnthony Kennedy判事と、保守系のJohn Roberts 長官の二人。

「核オプション」と呼ばれる禁じ手を使って、Neil Gorsuch判事を承認したのが効いてくるかも分からない。


付記

ハワイ州の連邦地裁は7月13日、トランプ政権が「近い親族」に祖父母やおじ・おばを含めなかったことは、条件付きで施行を認めた最高裁の決定に反するとして、全米で親族の定義を広げて運用するよう命じた。

これに対し、トランプ米政権は7月14日、これを不服として、高裁を通さずに連邦最高裁に直接上訴する方針を発表した。

最高裁は7月19日、祖父母や孫を「近い親族」に含める判断を下した。


 

コメントする

月別 アーカイブ