未来技術遺産

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国立科学博物館は9月5日、科学技術の歴史上重要な成果として保存する重要科学技術史資料(未来技術遺産)に、トリニトロンテレビ、人間型ロボット「HRP-2プロメテ」や日露戦争で使われた「三六式無線電信機」など15件を登録すると発表した。

化学関係では、京都大学化学研究所の「高圧法低密度ポリエチレンのパイロット試験資料」が入っている。

京都大学化学研究所で,1951~1953年に行われた高圧法低密度ポリエチレン連続工業化パイロット試験の設計図及び関連資料である。
実験ノート、設備写真とガラス乾板、1954年と推定される内部報告書などが残されている。

その後、規模を拡大した工業化試験設備を通産省の助成を受けた住友化学の新居浜に設置した。住友化学はこの技術開発の実績により、英国ICI社からの技術供与先となった。

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京都大学でポリエチレンの研究を進めたのは児玉信次郎教授である。

児玉信次郎教授は、いったん住友化学に入り、研究課長になった直後に京都帝大に戻って工学部教授となり、研究本部に児玉研究室を組織した。軍の要請を受けて住友化学の技術者と協力しながら高圧法ポリエチレンの国産化に取り組んだ。

戦後、児玉教授は再び住友化学に入り、1951年から同社の高圧法ポリエチレンの技術開発を本格的に指導することになった。

住友化学はこの年、通産省工業技術院から技術研究補助金70万円の交付を受け、さらに翌年には工業化の見通しをつけるため、改めて通産省から工業化試験研究補助金120万円の交付を受けるなど技術開発のスピード化をはかった。

この結果を踏まえて1953年6月、新居浜製造所の一角にアルコールの分解で得られるエチレンを原料とした高圧法ポリエチレン日産100kgの中間試験工場を建設。2年近くも運転した末にようやく待望の高圧法ポリエチレンを、完全とはいえないまでも、ある程度連続的に生産できるノウハウの開発に見通しをつけた。

1954年に英国ICIからステッドマン博士を団長とする「技術調査団」が来日した。日本向け高圧ポリエチレンのレジン輸出が増大するとともに、その製造技術を買いたいという日本の化学企業からのオファーも相次いでいたことからそれらに対する結論を出すためのものであった。

ステッドマン博士が新居浜の中間試験設備を見て住友の高ポリ製造技術が一応の水準にあると見て取った。当時、本格的な試験設備を建設していたところは住友化学以外にはなかったこともステッドマン一行に強烈な印象を与えた。 

住友化学の首脳陣はICI との間で技術導入交渉を行う方針を決め、1955年春、交渉団がロンドンへ立った。正式契約書に調印するまでには3ヶ月前後かかった。

栂野棟彦氏の「昭和を彩った日本の石油化学」から

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過去の未来技術遺産のうち、化学関連は下記の通り。

  登録番号 名称                                   所在地 製作年
2008 00009号 国産初期の硬質塩化ビニル管サンプル アロン化成
名古屋工場
1951
2009 00026号 池田菊苗博士抽出の第一号具留多味酸
― 日本最古のグルタミン酸 ―
東大大学院 1908
00029号 【 アンモニア合成装置 】 輸入機器
(1) アンモニア合成塔
(2) 混合ガス圧縮機
(3) 清浄塔
― わが国初の本格的なアンモニア合成プラント ―
旭化成
(延岡市)
1923
00039号 界面活性剤製造設備(TO リアクター)
― 世界で初めてα オレフィン・スルフォン酸塩の工業化に成功 ―
ライオン
大阪工場
1976
2010 00051号 合成ガス循環機
― 日本初の国産アンモニア合成装置 ―
昭和電工
川崎事業所
1930
00056号 ビニロン(ポリビニルアルコール繊維)
― 国産初の合成繊維 ―
クラレ
岡山事業所
1950
00057号 塩化ビニル被覆電線・ケーブル見本
― 現存最古級の塩化ビニル被覆電線 ―
古河電工
(市原市)
1950~
1955頃
00072号 上中啓三 アドレナリン実験ノート
― 高峰譲吉によるアドレナリン発見を決定づけた実験ノート ―
教行寺
(西宮市)
1900
2011 00080号 硬質塩化ビニル板製造用プレス機
― 日本最古の硬質塩ビ板成形プレス ―
三菱樹脂
長浜工場
1954
00082号 "テトロン"糸生産第一号機
― 日本初のポリエステル繊維製造装置 ―
東レ
(三島市)
1958
2012 00095号 クロード法によるアンモニア国産化史料
  アンモニア合成管用台盤、運転日誌、分離器
下関三井化学 1923~
 1930
00097号 国産初のPVC製LPレコード 日本コロンビア 1951
00106号 世界初の木材用非ホルマリン系接着剤
 イソシアネート系PVA系接着剤量産工場
光洋産業
 富士工場
1972年
2013 00117号  量産初期のPVC樹脂製造装置 カネカ大阪工場 1950年
00133号  セメダインC セメダイン 1938年
00135号 世界初の除虫菊を含む蚊取り線香 大日本除虫菊  
2014 00154号 航空機製造用プリプレグ  

ボーイングの要求を満たして国産材料として初めて認定
繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸させたシートを重ね合わせて所定の形状にし、熱硬化させて繊維強化プラスチックに
横浜ゴム 1978年
2015 00188号 海軍航空機用塗料 色別標準(色見本帳) 日本特殊塗料 1942年
00193号 カラーネガフィルム「フジカラー F-Ⅱ400」
 世界初の高感度(ASA400)カラーネガフィルム
フジフィルム 1976年
00207号 日本初のイオン交換樹脂の工業生産に係わる諸資料 山田化学工業 1939~
00208号 タカヂアスターゼ 第一三共 1909
00209号 スタチンおよびその発見に関する月報と実験ノート 東京農工大学
科学博物館
1971~
2016 00213 号 ペイント製造用手廻しロールミル(日本初の洋式塗料を製造) 日本ペイント歴史館 1884年頃
00216号 日本初の合成インジゴ関連資料 三井化学
00225 号 ピッチ系炭素繊維 ダイアリード DIALEAD 三菱レイヨン 1999年


2011/10/8 「未来技術遺産」

2013/9/12 未来技術遺産ー2013年 

2015/9/5 AIBOなど25件 未来技術遺産登録へ

 

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