米国の入国禁止措置、複雑な情勢に

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トランプ大統領が出したイスラム圏諸国からの入国禁止令については、これを問題とする裁判所の判決が続出しており、休会明けの10月10日に最高裁が口頭弁論をする予定であった。

しかし、大統領が9月24日に新しい大統領令を出したことから、最高裁が審議を取り止める事態となった。

(経緯)

Trump大統領は1月27日、移民の入国を一時禁止する大統領令を出した。

サンフランシスコの連邦控訴裁判所は2月9日、7カ国からの入国を一時禁止する大統領令について、3人の判事の全員一致で、即時停止を命じた連邦地裁の仮処分を支持する判断を示した。

このため、3月6日、大統領令の問題個所を修正し、新たな大統領令を出した。

2017/3/14 Trump大統領の新たな入国禁止命令 

米連邦最高裁判所は6月26日、10月以降 (のち、10月10日に決定)に同大統領令の合憲性を巡る審理の最終判断を行うとし、それまでの間、イスラム圏6カ国からの入国を制限する米大統領令を巡り、一部を執行することを認める判断を下した。

2017/6/28 Trump 大統領の米入国制限令、最高裁が一部容認

ハワイ州連邦地裁は7月13日トランプ政権が 「近い親族」に祖父母やおじ・おば、甥、姪、いとこ、義理の兄弟姉妹を含めなかったことは、条件付きで施行を認めた最高裁の決定に反するとして、全米で親族の定義を広げて運用するよう命じた。また、難民については、難民の再定住を支援する団体から支援を保証されていれば入国を認めるべきとの判断を示した。

政府による控訴による裁判で、サンフランシスコの Ninth U.S. Circuit Court of Appealsは9月7日、ハワイ地裁の判断を支持した。

これについて最高裁大法廷は9月12日、難民入国制限を巡る件では、控訴裁判断の差し止めを求めた司法省の主張を認めたが、「近い親族」の範囲については認めなかった。

2017/9/11 トランプの入国制限令、また敗北


最高裁による大統領令の合憲性の審議を前にし、トランプ大統領は9月24日、テロリストや公共の安全への脅威となる者の新しい入国禁止令を発表した。

3月の大統領令が9月24日に期限切れで失効する。

大統領令は差し止められていたが、6月26日の最高裁判断で6月29日に施行された。難民受け入れ停止は120日間で、計算が合わない。
なぜ、9月24日に期限切れとなるのか、どなたかご存知なら教えてください。

今回は入国禁止令の対象国に中東・アフリカのイスラム圏諸国(今回、スーダンを除外)に北朝鮮とベネズエラ、チャドの3カ国を加えた計8カ国 とした。

これまでは、イスラム教徒の多い国々を対象にした入国制限が信教の自由などを保障した米憲法に違反しているとの主張が反対理由であったが、テロリストの入国を防ぐための「国家安全保障上の措置」とし、非イスラム国の北朝鮮とベネズエラを加えることで、この批判を避けたともみられる。

この発表を受け、最高裁は9月25日、10月10日に予定していたイスラム圏6カ国からの米国への入国を制限する大統領令の妥当性を争う裁判の口頭弁論を中止すると発表した。

発表にはないが、新しい大統領令を下級審で先ず審議させることにしたとみられる。

最高裁は、口頭弁論の中止を伝えるとともに、ハワイ州とトランプ政権の双方に対し、新たな入国制限令により、これまでの争いが意味をなくしたかどうかについて、10月5日までに書面を用意するよう求めた。

信教の自由の制限色を弱めた新しい大統領令の発表と、最高裁による入国禁止の大統領令の合憲性の判断取り止めで、新しい局面を迎える。

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9月24日に発表された新しい入国禁止令は下記の通り。

Presidential Proclamation Enhancing Vetting Capabilities and Processes for Detecting Attempted Entry Into the United States by Terrorists or Other Public-Safety Threats

中東・アフリカのイスラム圏諸国(今回、スーダンを除外)からの入国禁止令の対象国に北朝鮮とベネズエラ、チャドの3カ国を加えた 計8カ国が対象となる。

当初リストに入っていたイラクは、対IS共闘、ビザ申請者の情報提供などを理由に3月6日の改定で除外した。
スーダンについては今回、公共の安全と情報交換での米国政府との協力関係をみて、リストから除外したとしている。

テロリストの入国を防ぐための「国家安全保障上の措置」で、トランプ大統領が「ならず者国家」と非難する北朝鮮やベネズエラに対しては、制裁の意味合いもあるとみられる。

北朝鮮について「渡航者に関し一切の情報提供がない」ことを理由に、北朝鮮国籍を持つ人物の渡航を全面的に禁止するとしている。
(北朝鮮からの渡航は少なく、実際の影響はほとんどないとみられる。)

一方、ベネズエラは、政府がその国民が危険人物かどうかを通知するのに非協力であるとして、入出国審査機関の職員とその家族を渡航制限の対象とした。

トランプ大統領は9月19日の国連総会一般討論演説で、北朝鮮やベネズエラ、イランなど「テロリストを支援し、国際社会を脅かすならず者国家」と強く非難していた。

(北朝鮮やイランを念頭に)いくつかの「ならず者国家」はテロリストを支援し、最も破壊力のある兵器で他国を脅している。

(反米左翼マドゥロ政権が独裁化を進める)ベネズエラの状況は受け入れ難い。

大統領はツイッターに、今回の大統領令の副題(テロリストや公共の安全への脅威となる者の入国を見破るための検査能力を高める)を引用し、「米国の安全の追求が最優先課題だ。適切な審査をできない人物は入国させるわけにはいかない」と訴えた。

( Enhancing vetting capabilities and processes for detecting attempted entry into the United States by terrorists or ---)

Making America Safe is my number one priority. We will not admit those into our country we cannot safely vet.

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付記

ハワイ州連邦地裁は10月17日、翌 18日から発効する予定だった最新の入国制限令を暫定的に差し止める命令を出した。差し止めを命じたのはソマリアやシリアなどイスラム圏からの入国制限のみで、北朝鮮とベネズエラからの入国は制限を認めた。

判事は新たな入国制限令も「明らかに国籍による差別にあたる」と指摘した。


メリーランド州連保地裁は10月18日、宗教に基づく差別の疑いがあるとして、執行を一時差し止める仮処分命令を出した。

政権は上訴する方針。

付記

ハワイ州連邦地裁の判決に対する控訴審で、サンフランシスコの控訴裁判所は11月13日、大統領令の一部を認めた。

Iran、Syria、Libya、Yemen、Somalia、Chad の国民で、米国にコネクションのないものの入国禁止を認めるもの。
コネクションとは、家族関係や、大学や定住委員会のような米国組織との正式で書類のととのった関係を意味し、家族とは祖父母、孫、義理の兄弟姉妹、叔父叔母、甥、いとこを含む。

米連邦最高裁判所が6月26日に、入国制限の大統領令の一部の執行を認めたのと同じ趣旨。

2017/6/28 Trump 大統領の米入国制限令、最高裁が一部容認


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前回と今回の対比は次の通りで、今回は国ごとに扱いが異なる。

1/27 3/6 9/24 今回の入国禁止対象
イラン 下記以外全て
 学生ビザ(F and M) 、交流訪問者ビザ(J)
シリア 全て
リビア 商用ビザ(B-1)、 観光ビザ(B-2)、商用/観光ビザ(B-1/B-2)
イエメン 商用ビザ(B-1)、 観光ビザ(B-2)、商用/観光ビザ(B-1/B-2)
ソマリア 全て
スーダン
イラク
チャド 商用ビザ(B-1)、観光ビザ(B-2)、商用/観光ビザ(B-1/B-2)
北朝鮮 全て
ベネズエラ 入出国審査機関の職員とその家族の
商用ビザ(B-1)、観光ビザ(B-2)、商用/観光ビザ(B-1/B-2)
7か国 6か国 8カ国


難民受入停止については今回は触れていない。

新しい入国禁止は10月18日に発効する。但しこれまで禁止対象となっていた国の国民については9月24日から適用される。

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