大塚製薬の「減酒薬」

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大塚製薬とデンマークのH. Lundbeck A/Sは6月8日、飲酒量を低減する治療薬「ナルメフェン」(nalmefene)の国内フェーズ3試験において主要評価項目と副次的評価項目を達成したと発表した。

大塚製薬は年内にアルコール依存症治療薬の製造販売承認を申請する。厚生労働省の承認を得られれば2018年度中にも発売する見通し。 (10/16 日経夕刊)

断酒ではなく欧米で普及する「減酒」治療を目的とした日本初の新薬となる。

ナルメフェンは、飲酒要求時に服用することで、中枢神経系に広く存在するオピオイド受容体を拮抗し、飲酒欲求を抑制 する初めての頓用薬としてH. Lundbeck が開発を進めてきた。

2013年4月からSelincroの製品名で販売を開始している欧州では、多量飲酒リスク高値(男性では1日60g、女性では1日40g以上の飲酒量)の成人のアルコール摂取量を低減させるという適応をもつ 。

オピオイド(opioid)とは、麻薬性鎮痛薬やその関連合成鎮痛薬などのアルカロイドおよびモルヒネ様活性を有する内因性または合成ペプチド類の総称 。

アヘン(opium)は昔から鎮痛薬として用いられ、19世紀初頭には、その主成分としてモルヒネが単離された 。

1970年代には、オピオイドの作用点として受容体 (ホルモン等と結合し、細胞内に反応を起こす細胞中のタンパク質)が存在することが証明された。

オピオイド受容体は、中枢神経系に広く分布し、脳内報酬系や情動制御、痛みのコントロールなどを司り、これまでに3つのサブタイプ(μ、κ、δ)が知られてい る。

ナルメフェンは、μ受容体に働きかけて報酬効果を調整し、κ受容体を介して嫌悪感を抑制することによって、飲酒誘因刺激への過度な反応を抑え、減酒に伴うストレスを緩和させることが可能と考えられ る。また受容体親和性が高く、半減期も長いことから、飲酒欲求を抑制することに繋がる。


大塚製薬は2013年10月31日、H. Lundbeck A/Sとの間で、ナルメフェンを日本で共同開発・商業化することについて合意した と発表した。

大塚製薬は、H. Lundbeck に契約一時金として50百万ユーロを支払い、この一時金に開発・承認ならびに売上達成金を加えると最大で約100百万ユーロを支払 う。

H. Lundbeck は、日本での開発費を負担し、共同販促の権利を有する。日本向けの錠剤バルク生産を担当 する。

大塚製薬とH. Lundbeck は2011年11月に、グローバル中枢薬事業で、大塚製薬創製の アリピプラゾール持効性注射剤(エビリファイ メンテナ)、OPC‐34712(ブレクスピプラゾール)とH. Lundbeck の「Lu AE58054」を含む3つの化合物を共同開発、共同販売する契約を締結した。

アリピプラゾール持効性注射剤については、H. Lundbeckは開発費用を米国で20%、欧州主要5カ国・北欧4カ国・カナダで50%負担し、大塚製薬から売り上げのそれぞれ20%、50%を分配金として 受け取る。
日本を含むアジア9カ国・地域、トルコ、エジプトでは、大塚製薬が権利を保有する。
その他の国は、H. Lundbeckが単独販売を行う。

OPC‐34712については、大塚製薬はH. Lundbeckに対し、米国で売上の45%、欧州主要5カ国・北欧4カ国・カナダでは売上の50%を支払う。開発費用は、一定金額まで大塚が費用を負担し、それ以上は両社で均等に折半する。

ナルメフェンの日本での共同開発・商業化で、両社の協力体制はますます強固なものとなるとした。
両社は今後も世界の中枢神経領域の治療発展を重視していくとした。

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日本では下記の「断酒」治療薬が使われている。

1) 抗酒剤  

田辺三菱製薬のシアナマイド(一般名:シアナマイド)

アセトアルデヒドを分解する酵素ALDHの働きをブロックする薬で、体内でアルコールが最後まで分解されず、少量のお酒で酔っ払 う。

田辺三菱製薬のジスルフィラム(一般名:ノックビン)

ALHDと結合してアセトアルデヒドの分解効率を低下させる。ノックビンの場合服用中に生成されるALHDと結合するのに時間を要 するが、新たなALHDが生成されるまでその効果が持続する。

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アルコールは体内にはいると「アセトアルデヒド」になり、これが顔を赤くしたり、頭痛や吐き気を起こしたりする。

アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH) がこれを分解して酢酸とし、その後、炭酸ガスと水に変える。 抗酒剤は、この働きをブロックし、飲めなくするもの。  

http://www.meiji.ac.jp/campus/hoken_ei/alcohol.html


2) アルコール依存症治療薬 アカンプロセート(日本新薬が商標名 レグテクトで販売)

中枢神経系に作用して、飲酒欲求を抑える作用を持つ。アルコール依存症で乱された脳の化学的なバランスを安定化させる薬物であると考えられている。

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話のタネ

ALDHの一種であるALDH2をつくる遺伝子には、元々の人類が持つ分解能力が高いとされるN型(ALDH2*1)と、中国南部で突然変異で分解能力が低下したD型(ALDH2*2 )がある。

両親からいずれか一つずつを受け継ぐので、人間にはNN型、ND型、DD型の3パターンある。
NN型は酒豪タイプ、ND型はそこそこ飲めるタイプ、DD型は下戸タイプ。

日本人 白人
NN型 50%強 99%以上
ND型 40%弱 1%未満
DD型 5%前後
白人は悪酔いしない代わりに、飲み過ぎてアル中になる可能性がある。

北海道、東北、九州、沖縄地方に酒豪遺伝子であるN型遺伝子の割合が多い。

日本民族が、列島先住民の縄文人(N型)と、中国南部で突然変異で発生したD型を持つ弥生時代以降に大陸からきた渡来人の「二重構造」を持つことを示すものとされる。

都道府県別に見たN型遺伝子(ALDH2*1)の頻度
https://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000000176_all.html

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