米国の税制改革法案の審議

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既報の通り、 米与党・共和党の議会指導部は11月2日、30年ぶりの税制改革に向けた詳細な法案を公表した。

2017/11/6 米共和党の税制改革案


米議会予算局は11月8日、この税制改革案を実施した場合、2018会計年度からの10年間で財政赤字が1.7兆ドルに拡大するとの試算を発表した。

上院及び下院が議決した「予算決議案」 では、税規模は 10年間で1.5兆ドル規模と しており、これを上回る。このため、法人税率引き下げを1年遅らせるなどの案も浮上した。


米下院歳入委員会は11月9日、共和党がまとめた税制改革法案について、予算決議で定められた1.5兆ドル以内に抑える内容の修正案 (Tax Cuts and Jobs Act) を可決した。

採決は賛成24、反対16で、反対は全て民主党の所属議員。

主な修正は次の通りで、向こう10年間の総コストは1.4兆ドルとなる。

修正法案は議事運営委員会での審議で修正される可能性もあり、そのプロセスを経て下院本会議に送付される。

1) パススルー事業体向け税制

 原案

個人事業主やパートナーシップなどの場合、企業そのものには課税されず、オーナーの個人所得となるため、多くは個人所得税の最高税率の39.6%が課せられることとなる。

今回、Pass-through企業の税率を25%とする。

但し、金持ちが Pass-through企業を設立して、本来の所得税率よりも低い税率とするのを避けるためのルールも入れた。この結果、法律、会計、コンサルタントなどの特定の個人サービス企業は新税率の対象外とする。

 修正案

修正案では中小企業の成功と成長を容易にするとした複数の条項が盛り込まれた。

所得が75千ドル未満の企業に対し新たに9%の税率を導入。優遇措置は課税所得が150千ドルを超えると段階的に減り225千ドルで完全になくなる。

パススルー事業体向けに新たに設ける25%の税率の適用範囲を事業体の所得の30%だけに限定し、残る70%は事業主の賃金として扱い、個人所得税対象とする。
なお別に、その事業体の設備投資額によるフォーミュラで、所得の何割をパススルー税制の対象にするかを決めるオプションもある。

2) 海外留保利益の還流時の税率(Repatriation Rates)

 原案

現金など流動資産で保有するものは一回限りの12%の課税、固定資産で保有する部分については5%の課税

 修正案

現金など流動資産で保有するものは一回限りの14%の課税、固定資産で保有する部分については7%の課税


他方、米上院共和党は11月9日、法人税の税率を現行の最高35%から20%に引き下げ、2019年に実施することを盛り込んだ減税計画を公表した。
上院財政委員会が11月13日の週に同案の審議を始める。

下院が先に発表した税制改革法案では、法人税減税の実施時期は2018年となっていたが、実施を1年遅らせる。

その他の主な変更点は次の通り。

1) 個人所得税

下院案:現在は約48万ドル以上が39.6%だが、これを100万ドル以上とする。26万ドルから100万ドルまでは35%となり、9万ドルから26万ドルまでは25%、それ以下は12%となる。

上院案:税率区分は10%、12%、22.5%、25%、32.5%、35%、38.5%の7つ。

2) 州税等の控除の廃止

下院案:固定資産税の控除は認めるが、州や地方の所得税やSales Tax の控除を認めず、控除の限度額を1万ドルとした。

上院案:州・地方税控除は廃止。

3) 住宅ローン金利の控除

下院案:現在のローンの金利は今後も控除できるが、新規分については、これまでの100万ドルの限度が50万ドルに下げられる。

上院案:住宅ローン利子の控除を適用できる借入額の上限を現行の100万ドルで維持。


今後、下院及び上院でそれぞれ審議を行い、双方の最終案を両院で調整し、調整後の法案を再度議決する必要がある。

下院で11月中、上院でも 12月中に可決し、年内に成立というトランプ米大統領の希望が通るかどうか疑問である。


付記

米下院は11月16日、連邦法人税率を2018年に35%から20%に引き下げる税制改革法案を賛成多数で可決した。

  共和党 民主党 合計
賛成 227 0 227
反対 13 192 205
棄権 2 2
合計 240 194 434

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