米国の鉄鋼・アルミ関税問題のその後

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1) 経済産業省

経済産業省は6月18日、2018年版の不公正貿易報告書を発表した。

http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004532/2018/houkoku01.html

米国については、鉄鋼・アルミニウムの輸入制限をはじめ、保護主義的な通商政策を強めるトランプ米政権を名指しで批判。「対抗措置の応酬を通じて負の影響がグローバルに拡散しかねない」と懸念を示した。
日本は世界貿易機関(WTO)協定を柱とする国際ルールに基づき、貿易問題を解決していくとする対応方針も打ち出した。

最近の動き>
米国は、2017年4月、輸入鉄鋼および輸入アルミについて、232条調査を開始した。調査開始の背景として、外国政府による補助金、その他不公正な措置による過剰供給構造が生じた結果、米国市場および世界市場が歪曲し、米国国内産業が損害を受けている旨が指摘された。また、アンチ・ダンピング税や相殺関税措置では、かかる不公正な輸入品に対抗できず、過剰供給構造問題も解決に至っていないとし、232条調査に踏み切ったともされた。
(中略)
WTO協定上、輸出自主規制をとろうとすることも、とることも禁止されている(セーフガード協定11条)。上記割当がどのように運用されるのか、注視が必要である。
EU、中国、インド、ロシア、トルコは、米国の措置は実質的にはセーフガード措置に該当するとして、セーフガード協定に基づく対抗措置(リバランス措置)を見据え、補償協議を要請するなどしている。これに 対し、米国は、232条措置は安全保障に基づく措置であり、セーフガード措置ではない、と反論している。

我が国からの鉄鋼やアルミの輸入は、米国の安全保障に悪影響を与えることはないとして、我が国は、米国に対し、累次にわたり懸念を伝え、除外を求めて働きかけを行っている。
また、米国の232条に基づく措置は、単に米国の市場を閉ざすのみならず、世界の鉄鋼及びアルミニウム市場を混乱させ、多角的貿易システム全体に大きな悪影響を及ぼしかねない。我が国は、産業への影響を極力回避するよう多様なレベルで働きかけを行っている。
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004532/2018/pdf/01_02.pdf


2) WTO

世界貿易機関(WTO) は6月19日、ノルウェーが、鉄鋼とアルミニウムを対象とする米国の輸入制限は国際的な貿易ルールに違反しているとしてWTOへの提訴手続きを始めたと発表した。
ノルウェーのNorsk Hydro はアルミニウムメーカーで、米国にも輸出している。

これまでに、中国、インド、欧州連合(EU)、カナダ、メキシコが既に提訴手続きに入っており、 これで6カ国・地域となった。

付記 ロシア、スイスも手続きに入り、8か国・地域となった。


日本政府は5月18日までに、対抗措置を取る権利を有すると世界貿易機関(WTO)に通知した

WTOは6月22日、日本が検討している対抗措置が年4億4000万ドルに上ると明らかにした。日本のほか、ロシアとトルコも米国による追加関税額を通知、それによると、ロシアは5億3800万ドル、トルコが2億6700万ドルと推計しているという。

このほか、中国は6億1200万ドル、EUは16億ドル、インドは1億6500万ドルとしており、対抗措置による総計は35億ドルに上る。

3) EU

欧州委員会は6月20日、報復措置の第1段階を発動すると発表した。

http://europa.eu/rapid/press-release_IP-18-4220_en.htm

米国からの輸入品28億ユーロ相当に25%の関税賦課を最終承認した。対象品目はハーレーダビッドソンの二輪車やリーバイストラウスのジーンズなど。米国製のトランプカードにも10%の関税をかける。

残りの36億ユーロ(38億ドル)相当の製品には、3年後又はWTOでの裁定のあった時のいずれか早い時期に課税する。

これを受け、トランプ大統領は6月22日、「EUが関税や障壁をすぐに取り除かないなら、輸入自動車全てに20%の関税をかける。米国で生産せよ!」と呟いた。

Based on the Tariffs and Trade Barriers long placed on the U.S. and it great companies and workers by the European Union, if these Tariffs and Barriers are not soon broken down and removed, we will be placing a 20% Tariff on all of their cars coming into the U.S.  Build them here!


欧州委員会は6月6日、対抗措置として、米国からの輸入品に報復関税を課す方針を正式決定した。

2018/6/7 EU、米国の鉄鋼・アルミニウム輸入制限への報復関税、7月発動へ

付記 3)-2 カナダ

カナダ政府は6月29日、米国が課した鉄鋼とアルミニウムの関税に対し、7月1日に報復関税を発動すると発表した。
鉄鋼やアルミ、食品など166億カナダドル相当の製品を対象に10~25%の追加関税を課す。

米国から輸入する鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を課す。
ウイスキーやイチゴジャム、トマトケチャップなどの食品のほか、食洗機やトランプ札などにも10%を上乗せする。
米産地に打撃を与えつつ、カナダ経済への打撃を抑えるため、国内で代替品が用意できるものを選んだ。

あわせて国内の鉄鋼・アルミ産業の雇用維持などのために20億カナダドルの支援策を実施する。

また、だぶついた鉄鋼がカナダに流入しているのに対応するため、数週間以内にセーフガード(緊急輸入制限)を含む対策も検討する。


4) ロシア

ロシアのオレシキン経済発展相は6月19日、米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入関税に対抗し、一部米製品に対し輸入関税をかけると発表した。

具体的な対象品目は向こう数日以内に公表する。

米商務省は6月20日、日本など5カ国から輸入する鉄鋼製品42品目について追加関税の適用を除外すると発表した。

鉄鋼やアルミニウムの輸入制限は米東部時間3月23日午前0時1分に発動された。

ある国を輸入制限の対象外とするかどうかについては大統領が最終決定するが、米国内で調達しにくい特定製品について関税の適用除外するかどうかは商務省が決定する。

商務省は米国企業からの申請に基づき、製品ごとに、①満足できる水準の品質と②十分な利用可能の量で、米国内で製造されているかどうかを審査する。

3月19日から受け付け、最長90日で判断する。

2018/3/26 米国、鉄鋼とアルミの輸入制限を発動

今回が適用除外の第1弾となる。

対象は、日本、スウェーデン、ベルギー、ドイツ、中国からの輸入品42品目で、下記の各社が認められた。

Schick Manufacturing, Inc. of Shelton, Connecticut カミソリ・髭剃のシック
Nachi America Inc. of Greenwood, Indiana  不二越アメリカ
Hankev International of Buena Park, California
Zapp Precision Wire of Summerville, South Carolina
U.S. Leakless, Inc. of Athens, Alabama  日本リークレス工業(自動車・工業製品向けガスケット・パッキン)
Woodings Industrial Corporation of Mars, Pennsylvania
PolyVision Corporation of Atlanta, Georgia

他方、11社からの申請 56件は拒否された。

ロス商務長官によると、鉄鋼・アルミで計2万件以上の除外申請が出ている。商務省は今後も審査の進展に応じて除外の是非を決める方針で、今回、承認されたのはそのごく一部になる が、審査に時間がかかっている。

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