新NAFTA協定に中国とのFTA締結制限条項、日本にも要求か

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中国商務部の報道官は10月11日、米国、メキシコ、カナダのNAFTAに代わる新たな貿易協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」の自由貿易協定(FTA)に関する条項について、「自由貿易圏の構築は開放・包摂の原則に基づくべきであり、他国の対外関係の力を制限するものであってはならないし、排外主義であってもならない」と述べた。

このほど合意に達したUSMCAには、
3ヶ国のいずれかが「非市場経済国」とFTAを結ぶ時は、3ヶ月前までに他の2ヶ国に通知しなければならず、
その場合、他の2ヶ国は6ヶ月後にUSMCAを離脱して、2国間の貿易協定を結ぶことができる
という排他的な条項があり、中国を狙い撃ちしたものとみられている。

報道官は、「中国が繰り返し強調してきたのは、WTOの多国間貿易ルールには、『非市場経済国』に関する条項はなく、加盟国の国内法の中にあるだけということだ。中国は一つの国の国内法が国際法の上に置かれることに反対し、一国の意思を人に押しつけるやり方にも反対する」と述べた。


「非市場経済国」について:

中国は2001年12月にWTOに加盟した。

中国は、WTO加盟に伴い、 アンチダンピング(AD) 措置及び相殺措置に係る規則・手続をAD協定及び補助金・相殺措置協定に整合化させることを約束している。

他方、中国以外のWTO加盟国が、中国産品についてAD 措置又は相殺措置に係る調査を行う際の価格比較及び補助金額の算定に関し、中国を「非市場経済国 (Non Market Economy)」として扱う特例が、加盟後15年間認められた。

「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。EUは中国に市場経済国待遇を適用せず、しかも中国よりコスト水準の高い国を代替国に採用するケースが多く、この結果、ダンピングと判定される確率も高くなっているといわれている。

2016年2月までにロシア、ブラジル、ニュージーランド、スイス、オーストラリアなど81国が中国の市場経済国家の地位を認めた。

WTOは中国を「非市場経済国」と認定していたが、その根拠となっている条項は15年が経過する2016年12月に失効した。

2016/2/12 中国の「市場経済国」認定問題 

米政府は2016年11月23日、中国を「市場経済国」と認定しない方針を明らかにした。

欧州委員会は11月9日、輸入製品が不当にEU域内で安く販売された場合に適用する、反ダンピング課税の算出に関する制度改正案をまとめた。

WTO上の義務に違反して中国から損害賠償を求められるおそれのある事態を回避し、同時に「市場経済国」として認定することによってもたらされると考えられる安値競争に対抗できなくなるという事態をも回避するために、EU域内での新たな通商上の救済措置を策定することを選択したこととなる。

経済産業省は12月8日、中国のWTOでの立場について、引き続き「市場経済国」と認定しないことを決めたと発表した。

2016/12/1 米、中国の「市場経済国」認定見送り

中国商務部は2016年12月12日、同国の「市場経済国」認定を見送った米国とEUをWTOに提訴したと発表した。日本に対しても近く提訴に踏み切るとみられる。

2016/12/17 中国、「市場経済国」待遇で米欧をWTO提訴 

商務部の報道官が言う通り、2016年12月以降は、「WTOの多国間貿易ルールには、『非市場経済国』に関する条項はなく、加盟国の国内法の中にあるだけ」である。

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USMCA協定の第32.10条 「非市場国とのFTA」は次の通りで、中国とFTAを締結した国は、3国協定から除外されることとなる。

1.USMCA締約国の一ヶ国が非市場国とのFTAを交渉する場合、交渉開始の3ヶ月前に、他の締約国に通知しなければならない。非市場国とは、本協定の署名日前に締約国が決定した国である。

2.非市場国とFTA交渉を行おうとする締約国は、他の締約国から請求があれば、可能な限りの情報を提供すること。

3.締約国は、他の締約国がFTA協定と潜在的な影響を調査するため、署名日の30日前に他の締約国がFTA協定の条文、附属書、サイドレターなど見直す機会を与えること。
  締約国が機密扱いを要求する場合、他国は機密保持を行うこと。

4.締約国が非市場国とFTAを締結する場合、他国は6ヶ月前の通知により、本協定(USMCA)を終了し、残りの二国間協定とする。

5.二国間協定は、上記締約国との規定を除き、本協定(USMCA)の構成を維持。

6.6ヶ月の通知期間を利用して、二国間協定を見直し、協定の修正が必要か決定する。

7.二国間協定は、それぞれの法的手続を完了したと通知してから60日後に発効する。

https://ustr.gov/sites/default/files/files/agreements/FTA/USMCA/32 Exceptions and General Provisions.pdf

この条項は、貿易相手として米国を選ぶか、中国を選ぶかの二者択一を求めるものである。米国を捨てて中国を選ぶ国はないであろう。


日米
は9月26日夕(日本時間27日朝)、「日米物品貿易協定(TAG:
Trade Agreement on Goods 」の交渉入りで合意した。

その共同声明には次の記載がある。

日米両国は,第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。

したがって我々は,WTO改革,電子商取引の議論を促進するとともに,知的財産の収奪,強制的技術移転,貿易歪曲的な産業補助金,国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため,日米,また日米欧三極の協力を通じて,緊密に作業していく。

2018/9/27 日米、物品貿易協定交渉へ、交渉中は自動車追加関税回避


今後のTAGの協議において、米国は上記のUSMCA の条項と同じものを要求してくると思われる。


日本は、
ASEAN10か国+6か国(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)の東アジア地域包括的経済連携(RCEP:Regional Comprehensive Economic Partnership)の交渉中。

10月13日の閣僚会合では年末までの実質妥結に向け、「いよいよ大詰めの段階に入った。」(世耕経済産業相)
ただ、「さらなる改善の必要性」も指摘しており、各国間に意見の隔たりもある。

日本は中国を引き続き「市場経済国」と認定しないことを決定しており、 USMCA と同じ条項が入ると、中国とは RCEP を締結できないこととなる。

USMCAも TAGも TPPも RCEPも FTAである。

トランプ大統領は自動車への追加関税で相手国を脅し、無茶な要求を通してきた。

パーデュー米農務長官は、共同声明の記述に反し、日本との農産品を巡る通商交渉で、日本がEUと結んだEPAや、TPPを上回る水準の市場開放を求める考えを示している。

日本政府は、共同声明で、「第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する」ことで既に合意している。

今後のTAG交渉で、米国の要求を拒否できるであろうか。

WTOの多国間貿易ルールには、『非市場経済国』に関する条項はなく、加盟国の国内法の中にあるだけである。
日本が今すぐ、中国を「市場経済国」と認めてしまえば、上の条項は関係ないこととなるが・・・。

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これとは別に、ムニューシン米財務長官は10月13日、日本との物品貿易協定(TAG)交渉を巡り「為替問題は同交渉の目的の一つだ」と述べ、通貨安誘導を封じる為替条項を日本にも求める考えを明らかにした。

カナダ、メキシコとのUSMCAにはMacroeconomic Policies and Exchange Rate Mattersの章があり、競争のための通貨切り下げや目標レートを決めることでの不公正な通貨政策をやめ、透明性を増やし責任あるメカニズムをとるとの high-standard のコミットをしている。

通貨政策に関する項目を貿易協定に明記するのは異例で、韓国とのFTA改正の付属書にもあるが、韓国側はFTAとは別だとしている。

2018/10/4 NAFTA、3カ国協定を維持、USMCAに改称

なお、韓国の場合は強制力はないが、USMCAでは対抗措置が取れる。現時点では問題のないカナダ・メキシコとの協定にこの規定を入れたのは、今後のFTA協定に入れるためだとされる。

日本は為替条項は絶対反対としているが、拒否できるであろうか。




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