フランスの2019年の財政赤字、GDP比3.2%に

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フランスのフィリップ首相は12月16日、仏メディアのインタビューで、2019年の財政赤字の対GDP比率がEUの定める上限の3%を突破し、約3.2%になるとの見通しを示した。

EUがイタリアに対し、GDP比2.4%の赤字を引き下げるよう、制裁金の可能性まで示して強く求めているなかで、フランスに対してどのような対応をするか注目され た。
欧州委員会は12月19日、イタリアが再提出した修正予算案(赤字幅を縮小)を承認した。制裁を見送り、監視を継続する。


フランスの財政赤字はリーマン・ショックがあった2008年から2016年まで、9年度連続でEU基準(上限3%)を上回っていた。2017年就任のマクロン大統領は公約の一つに財政再建を掲げ、2017~19年と3年連続でGDP比3%以内を守る見通しだった。2017年は2.6%の赤字であった。

フランス財務省は本年4月10日、経済成長率が従来予想を上回る中、財政赤字削減が計画より早いペースで進むとの見通しを示した。

欧州委員会に提出する長期財政計画の中で、2018年の成長率を従来見通しの1.7%から2017年から横ばいの2.0%と予想し、2018年の財政赤字は 予算案のGDP比2.6%を下回る2.3%と予想した。

フランスでは11月から「温暖化防止策としてガソリンなど燃料税を2019年1月1日から引き上げる」とする政府の方針への抗議デモ(「黄色いベスト」運動)が全国的に広がった。

これに対し、フランス政府は12月4日、予定していたガソリンと軽油の増税を6カ月延期すると発表した。 更にその直後の12月5日に、2019年は増税しないと方針を変えた。
この時点では、財政赤字は2.8%にアップするとしていた。

しかし、デモは収まらなかった。

要求の一つは富裕税である。

フランスでは、不動産、金融商品、現金、動産、貴金属などに富裕税が課税されている。

政府はこれを改め、130万ユーロを超える不動産を所有する世帯にのみ課税するよう変更した。現金等への課税が海外への逃避を生むため、 それらへの課税を廃止し、国内への投資に向けさせようというものである。

しかし、変更により、35万世帯からの41億ユーロの税収が15万世帯の8億5千万ユーロに減る。

批判派は、マクロン政権は年金生活者などへの税金を引き上げた一方で、富裕層を優遇していると非難した。

「黄色いベスト」運動は当初、燃料税の引き上げに反対して始まったが、生活費の上昇に対する抗議や、地方の小都市が直面している問題をマクロン大統領が無視しているといった不満にまで膨れ上がった。

マクロン大統領は12月10日、「黄色いベスト」の抗議デモが激化したことを受け、2019年2月に実施する最低賃金の月額100ユーロへの引き上げや 、残業手当に課税しないこと、月額2000ユーロ以下の年金生活者への増税の中止を約束した。予算局はこうした措置の総額が100億ユーロになるとの見方を示した。

歳出を削ったり、法人減税の対象を限ったりすることなどで40億ユーロ程度を確保するが、それでも財政赤字はGDP比3.2%に達するという。

フランスのルメール経済・財務相は12月17日、グーグルなどIT大手への「デジタル課税」を2019年1月から始めると発表した。年間の税収は5億ユーロ(約640億円)を見込んでいる。
IT大手によるネット広告、個人情報の売買などに課税する。課税対象は大手に限定するとみられる。
これが上記の40億ユーロに含まれているのか、追加なのかは不明。

この結果、2008~2016年に続き、EUのルールである「3%以内」を破ることになる。

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各年度の財政赤字をGDPの3%未満とする EUの財政安定化・成長協定は1997年に採択された 。

しかし、ドイツとフランスは、2002年以降3年連続で違反を続け、罰金の適用も停止させた。

フランスとドイツの圧力を受け、2005年3月の欧州理事会で見直しが行われ、財政赤字規律の条件を超えても、「小幅かつ一時的」な場合、経済成長がマイナスであれば過剰財政赤字とはみなされないことになった。

その後、2010年にギリシャ危機が起こった。

EUのユーロ圏16カ国は2010年5月7日夜の緊急首脳会議で、巨額の財政赤字を抱えるギリシャ向けの支援策を正式に承認するとともに、包括的な金融危機対策で合意した。
ギリシャ向け協調融資の正式承認、欧州安定化メカニズム(ユーロ防衛基金)の創設等々に加え、EUの財政協定を強化、違反国に効果的な制裁の用意を決めた。

2010/5/10 統一通貨ユーロの危機  

EU加盟国の財政規律を強化する「新財政協定」('Fiscal Compact')が2013年1月1日付で発効した。

各年の一般政府の構造的財政収支赤字(景気循環・一時的要因の影響を除いたもの)がGDP比0.5%を超えない。
但し、公的債務残高の対GDP比が60%を大幅に下回り、長期的な財政の持続可能性リスクが低いと判断される場合、対GDP比で1%までの構造的財政赤字が認められる。

2012/12/26 EUの新財政協定、2013年1月1日発効

EU財務相会議は2013年、フランスが財政赤字の対GDP比率を3%以内とする期限を2015年まで2年延期することで合意した。
フランス政府は、これを3年先延ばしにし、2018年とするよう要請した。

これを受け、EU財務相は2015年の理事会で、財政再建の達成期限の2年延長(2017年まで)を承認した。


フランス及びドイツの財政赤字の推移は下記の通りで、ドイツはレーマン危機の期間を除き、EU基準を守っているのに対し、フランスは2017年と2018年(予想)を除き、違反を続けている。

2015 2016 2017 2018予 2019予
ドイツ 0.9 0.6 1.3
フランス -3.8 -3.4 -2.6 -2.3 -3.2

2019年のフランスの財政赤字がEUルール違反となる見通しであることについて、欧州委員会のモスコビシ委員(経済・財務・税制担当)は12月13日、一時的であれば容認する姿勢を示した。

しかし、フランスの赤字は上記の通り、一時的なものではない。しかも財政再建の達成期限を2015年まで延長し、更に2017年まで2年延長している。 その期限は切れている。

ドイツとフランスが2002年以降、違反を続けたことから、ギリシャ危機が起こったもので、その反省から2013年に新財政協定を結んだ。

イタリアに対しては、非常に厳しい態度をとってイタリア政府と対立しているが、大国のフランスについて容認するなら、EUの秩序は乱れると思われる。

イタリアは2019年の単年度財政赤字目標をGDP比2.4%に引き上げた。(前政権は 0.8%を約束していた。)

イタリアの場合、財政赤字はGDP比で3%未満で基準を満たすが、公的債務は130%超で、債務の持続可能性を確保するため、構造的財政収支の中期目標(MTO)をGDP比率でゼロ%に設定、毎年の構造収支の改善を求めていた。

欧州委員会は10月23日、イタリアに対し、2019年予算案を3週間以内に再提出するよう求めた。

拒めば、欧州委はイタリア財政を監視下に置き、改善努力が乏しければ最大でGDPの0.5%相当の制裁金が必要となる。

しかし、イタリア政府はこれを拒否した。

コンテ首相は12月12日、ユンケル欧州委員長と会談。財政赤字の見通しを実質GDP比で2.4%から2.04%に引き下げると説明した。年金受給開始年齢の引き下げや、最低所得保障などの大枠は維持するが、実行時期を遅らせたり、規模を縮小する。

2018/10/29 イタリア、来年度予算案で欧州委と対決

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