独エネルギー大手 Uniper ドイツ政府に金融支援を要請

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ロシアからの天然ガス輸送量減少により、経営難に陥っている独エネルギー大手でロシア産ガスの最大輸入業者の1つのUniperは7月8日、ドイツ政府に資本注入などの救済措置を求める申請書を提出した。

2016年にドイツ最大のエネルギー企業E.ONが化石燃料、原子力、火力、水力、電力取引部門を「Uniper」として分離し上場した。E.ONには送配電、小売り、再生可能エネルギ一部門が残った。

同社の事業


ドイツは2020年に石油34%、天然ガス55%、石炭45%がロシアからの輸入だった。 特に、天然ガスは国内需要の9割以上を輸入に頼り、加えて輸入の半分以上をロシアに依存していることになる。

ロシア国営 Gazprom は6月14日、天然ガスパイプラインNordstream 1 の供給量を40%減らすと発表した。従来の日量最大1億6700万立方メートルから1億立方メートルになる。

Gazpromは翌15日、さらに33%削減すると発表した。合計60%のカットとなる。モスクワ時間の16日午前1時半をもって供給量は最大6700万立方メートルになる。

ドイツ重電大手Siemens Energyなどによると、パイプライン内のガス圧力を高めるために使われるガスタービン(aeroderivative gas turbine) 1基をカナダで修理したが、カナダ政府の制裁措置によってGazpromに提供できなくなったという。Siemens Energyではドイツとカナダ政府に事態を連絡し、解決策を協議していると発表した。

カナダ政府は7月9日、修理したタービンをドイツに返却すると発表した。

連邦ネットワーク庁によると、ガスの貯蔵率は7月7日時点で最大貯蔵量の63%と平年より2%少ない水準で推移する。暖房などの需要が少ない夏場に確保を進め、貯蔵率を11月までに90%まで引き上げる計画だがロシアから供給が細り、貯蔵量の積み上げは難航している。

Gazpromは7月11日から2週間ほどの「定期検査」を実施するとしており、その間はガス供給が完全に止まる見通しだが (7月11日停止)、検査終了後もガス供給が再開されない可能性もある。
ロシアはウクライナに重火器を供与するドイツに反発を強めている。

ロシアからのガス供給が完全に止まった場合などには、2023年2月頃に貯蔵率がゼロになる最悪のシナリオも想定される。

2022/6/17 Gazprom、ドイツ向けの天然ガス供給を削減

付記

Gazpromが出資するパイプラインの運営会社は点検の期限である7月21日、天然ガスの供給を再開したことを明らかにした。

ただ、ドイツのエネルギー規制当局によると、21日の供給量は点検前と同じ、通常時よりおよそ60%削減された状況で、全面的な再開にはならないとの見通しを明らかにした。

付記

Gazpromは7月25日、Nordstreamについて、新たに送ガス用タービン1台の修理を始めると発表。27日から供給量を6月中旬までの約2割に減らす。


Uniperとドイツ政権は7月に入り、ロシアのガス供給の制限に関係し、90億ユーロ規模の金融支援についての交渉を始めた。

Uniperの損失額は、2月のウクライナにおけるロシアの特殊軍事作戦の後、ロシアのエネルギー供給への依存を縮小するという独政権の決定の影響を被り、増え続けている。他のより高額な代用品で補填を強いられているためである。現在、LNGの市況は暴騰している。

ロシアが天然ガスの供給を絞るなか、ドイツ政府は冬場にガス不足の危機を回避しようと政策を総動員している。独議会は7月8日、経営不安に陥るエネルギー企業への公的救済に向けた関連法(Energy Security Act 改正案)を承認した。

これによると、政府は財政危機に瀕したエネルギー企業の救済のため必要な措置をとることができる。これにより消費者への影響を緩和する。

また、ガス価格の上昇を全ての消費者の間で均等に負担するようなメカニズムも導入する。天然ガスの輸入に大きな問題が生じた際には、価格調整条項を発動する可能性も含めた。

Uniperは即日、ドイツ政府に救済措置を求める申請書を提出した。

1)コスト上昇分の価格転嫁 Fair cost allocation

2)独政府系復興金融公庫(KfW)の融資枠拡大による追加融資

3)連邦政府によるUniper への出資

年末までに100億ユーロのコスト増になると試算、販売価格への転嫁を求めるとともに、20億ユーロ分の信用枠の拡大も政府系金融機関に要請した。ドイツ政府が今後、Uniperに資本注入し、株主になる可能性がある。(政府は資本注入を含め、90億ユーロ規模の公的支援を視野にいれている。)

付記 

ドイツ政府は7月22日、Uniper救済策として、株式30%を取得すると発表した。政府が経営に一定の影響力を持つことで、ガスの安定供給を目指す。
ドイツ政府は2億6700万ユーロ(約370億円)の増資によるUniper株取得で、56%所有の親会社であるフィンランドのFortum、同国政府などと基本合意した。

合わせて政府系金融機関であるドイツ復興金融公庫(KfW)の融資枠を現在の20億ユーロから90億ユーロに拡大する。

10月からガス買い取り価格の高騰分を料金に転嫁し、消費者の負担が増えることも明らかにした。

ドイツ政府はガス消費の抑制も強化する。緊急調達計画では警戒レベル別の政策対応を3段階に分けており、ドイツ政府は6月23日、2段階目の「非常警報」を発令し、3月末に公表した初期段階の「早期警報」から警戒レベルを1段階引き上げた。ガスの代替として石炭火力発電の稼働を一時的に増やす関連法も承認された。

ドイツ政府はガスを安定確保するため、不測の事態に備えた調達計画をすでに策定済み。警戒レベルは①早期警報②非常警報③緊急警報の3段階で、重大な問題が生じる場合に宣言する。

ロシアに代わる調達先をノルウェーなどで模索する。ただ現状ではガスの供給を大きく増やすのは難しい。インフラ面でも制約があり、ドイツで液化天然ガス(LNG)の受け入れ拠点の一部が完成する年末以降にならないと、ノルウェーからのガス調達量を増やすのは難しい。

ドイツはこれまでロシアからパイプで天然ガスを輸入してきた。LNGに切り替える場合、受け入れ設備と再ガス化設備が必要である。

ドイツは3月5日、国内初の液化天然ガス(LNG)輸入ターミナル建設を発表した。
ドイツ復興金融公庫(KfW)と大手エネルギー会社RWE、オランダ政府100%出資のガス大手Gasunieが、ドイツ北部のBrunsbüttel市でLNG輸入ターミナルの建設に関する覚書(MoU)を締結した。
出資比率はKfWが50%、Gasunieが40%、RWEが10%でターミナルの運営はGasunieが担当する。

同ターミナルの年間再ガス化能力は80億立方メートルで、ドイツの年間ガス需要約950億立方メートルの8.4%に相当する。 (この完成はかなり先になる)

ドイツ政府は5月5日、LNGの輸入拠点となるターミナル建設を北部Wilhelmshavenで始めた。

既存の桟橋を改良し、LNGが貯蔵できる設備を備えた船4隻をリースして洋上に停泊させる。浮体式LNG貯蔵再ガス化設備と呼ばれる大型設備で、海外から到着するタンカーからLNGを船の設備に受け入れ、船上で液体からガスに戻し、陸上のパイプラインを通じて消費地に送る。80億立方メートル程度を供給できるという。

10年契約で、秋までに完成し、RWEが運営する。陸上受け入れ基地機能の代替となる、ドイツ政府は29億4千万ユーロの予算を付ける。

これらが完成しても、現在パイプラインで受け入れている量には程遠い。価格だけの問題でない。

2022/6/17 Gazprom、ドイツ向けの天然ガス供給を削減

ガスの調達不安が高まれば、一段と厳しい措置が導入される見通しで、緊急調達計画の警戒レベル3段階で最も厳しい「緊急事態」になれば、ガスの配給制や価格決定などで政府が直接介入できるようになる。

一般家庭へのガス供給を優先させる方針で、企業を中心に工場の操業停止を迫られる恐れがある。割安なロシア産ガスから価格の高いLNGに切り替えれば家計負担も大幅に増える。ドイツ経済研究所のクラウディア・ケムファート氏は独メディアのインタビューで、ガス価格が「最大400%上がる可能性がある」と指摘した。

ロシアからのガス購入を続ければ経済制裁の効果を弱めかねない。一方、早期に供給が止まれば今冬のガス不足が現実味を帯びる。エネルギー不足による景気悪化の懸念は強まっている。


Frankfurter Allgemeine 紙とのインタビューでBASF CEO のMartin Brudermuller は、ロシアからのエネルギー途絶はドイツ経済を過去75年以上のうちで最悪の不況に陥らすと警告した。

4~5年経てばロシアのガスから独立することも可能かも分からないが、それまでについてはLNG輸入での代替は不十分である。ロシアの天然ガスはドイツの消費の55%を占めており、これが一夜にして切られると、被害は取り返しのつかないものとなる。ドイツ経済は第二次大戦以来最悪の危機に陥り、特に中小企業の多くにとって終わりを意味する。

BASFの場合、ガスの供給が最大需要量の50%以下になった場合、Ludwigshafen コンビナートで生産を大幅に落とすか、完全にシャットダウンせねばならない。

ドイツ人は事態の重要性を認識していない。天然ガスを切られると職を失うことを意味する。

アンモニアを例にとると、BASFは既にアンモニアや肥料の生産を落とさざるを得なくなっているが、肥料の生産国のロシアに頼れないため、2023年には肥料不足から食糧が不足し、価格が急騰、アフリカなどの貧困国では主食の購入が難しくなるだろうとしている。

2022/4/4 ロシア、天然ガス代のルーブル払い義務化

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公的支援の動きは欧州各国に広がる。

フランス政府は7月6日、ロシアのウクライナ侵攻が欧州のエネルギー市場を不安定にしていることを受け、国内最大の電力会社であるフランス電力(EDF)を完全に国営化する計画を発表した。

フランス政府はすでに同社の株式の84%を保有しているが、ボルヌ首相が同日、政府が「EDFの資本を100%保有する」計画を議会で表明。これにより政府が同社を完全に支配し、利益が減少する中での投資家への還元を回避できる。

イタリア政府は6月30日、国営エネルギー会社GSE(Gestore dei Servizi Energetici GSE S.p.A.)のガス備蓄を支援するために、40億ユーロの政府融資を行うことを決めた。

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