中国がレアアースの輸出を制限?

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中国のレアアース(希土類)の過度な開発問題について、全国人民代表大会(全人代)代表の周洪宇氏が全人代に提出した「レアアース生産・輸出の厳格な規制を求める建議」が、中国で幅広い注目を集めている。

同氏によると、中国のレアアース生産量は2005年に世界の96%を占め、輸出量で世界一となったが、乱開発されており、無秩序な開発で採掘現場での回収率も低効率の状態にある。

国家発展改革委員会の報告によると、中国は世界の需要量の2倍以上に相当する年間20万トン以上のレアアースを生産しており、価格も低水準にとどまっている。乱開発がこのまま続けば、20~30年で中国のレアアースは枯渇するとする。

中国で生産されるレアアースの60%は輸出されている。中国は毎年50%以上のレアアースを日本と韓国に輸出している。

レアアースの埋蔵量が世界第二の米国は早くから国内最大のレアアースが埋蔵するMountain Pass鉱山を封鎖、モリブデンの生産も停止し、毎年中国から大量のレアアースを輸入している。

周氏はレアアースの生産・販売・輸出入を専門に管理する国家機関を立ち上げ、統一の関連政策や法規を制定し、厳格な管理を実施しなければならないと指摘する。
生産量、輸出量・輸出先を規制する政策を厳格に実施し、レアアース資源が戦争目的に利用されるのを防ぐ必要がある。
特に核兵器やミサイル、軍用機、原子力潜水艦など軍事装備を有する国へのレアアースの輸出を制限するとしている。

周氏はまた、「レアアース業界を規範化し、中国での個人採掘に対する有力な対策を立て、閉鎖すべきところは閉鎖し、合併すべきところは合併し、無断での輸出行為を打撃しなければならない。3年以内に、レアアースの輸出量を現在の10万トン前後から2、3万トン前後に減らし、レアアース金属の高利潤と持続可能な発展維持に向け、中国は長期的なレアアースの価格決定権を確保しなければならない」と強調している。

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レアアース(希土類元素)はレアメタルの一つで、原子番号57番のランタン(La)から71番のルテチウム(Lu)までのランタノイドと、21番のスカンジウム、39番のイットリウム(Y)を加えた計17種類の元素のこと。

レアメタルは「地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出困難な金属」のうち、工業需要が現に存在する(今後見込まれる)ため、安定供給の確保が政策的に重要であるもの(鉱業審議会の定義)で、現在、31種類。

レア・アースの用途例

磁石-高効率高性能モーター用 ネオジム、サマリウム、プロセオジム、ジスプロシウム、テルビウム
研磨剤 セリウム
光学ガラス ランタン
ニッケル水素電池 ミッシュメタル、ランタン
蛍光体 イットリウム、ユウロピウム、テルビウム、ランタン、セリウム

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中国のレアアースの埋蔵量は世界の31%だが、周氏の言うとおり、世界の供給の97%を占めるという特異な状態となっている。

  埋蔵量
中国  27千トン  31%
CIS  19千トン  22%
米国  13千トン  15%
豪州   5千トン   6%
インド    1千トン   1%
 23千トン  25%
 88千トン
 
2007年
供給量(酸化物量)  
中国  120.0千トン  97%
インド    2.7   2%
その他    1.3   1%
合計  124.0
 
2007年
日本の輸入量
(酸化物量)
中国  34,312t  91%
その他   3,340t   9%
合計  37,652t
 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
  「レアアース、インジウム、ガリウム、リチウムの需給状況等」から             
   
http://www.jogmec.go.jp/mric_web/koenkai/090304/briefing_090304_3.pdf

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レアアースの国内需要の9割を依存する中国に輸出規制強化の動きがあることから、日本のメーカーは対応策を検討し始めている。

昭和電工は2008年10月、ベトナムのハーナム省に、90%出資の子会社「昭和電工レアアースベトナム」を設立した。
2010年4月から高性能ネオジム系磁石合金の原料であるジジムメタル(ネオジムとプラセオジムを主成分とする合金)ならびにジスプロシウムメタル、あわせて年800トンの生産を開始する。

ベトナム国内外のレアアース混合原料やレアアース酸化物など複数種類の原料に対応可能な分離精製工程と、ジジムメタルやジスプロシウムメタル生産のための電解工程から構成される工場を建設し稼動させることにより、高性能ネオジム系磁石合金用主原料の安定調達を図る。

すでに秩父事業所、中国モンゴル自治区、江西省の3拠点で年間8,000トンのレアアース磁石用合金設備を有しており、今般の新会社を、原料供給の拠点として新たに加える。

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トヨタ自動車グループはハイブリッド車などに不可欠なレアアース(希土類)の自力調達に乗り出す。

豊田通商は2008年12月、レアアースの専門商社である和光物産の全株式を取得し、豊通レアアースに改称した。
また、金属資源部を新たに設置し、レアアースを含む希少金属の安定供給に本格的に取り組む。

和光物産の持つインド産レアアースの商権及び販売チャンネルを譲り受け、非自動車分野への販売を含めた取引先への安定した供給体制を整える。2010年後半より年間4千トンを輸入する。

また、ベトナムにおいても、採掘権を持つベトナム国営鉱物公社とレアアース鉱山開発に関するJVを設立し(日本側49%)、2011年より年間5千トンを生産する。

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他の鉱石でも中国に依存するものが多い。

2007年の主要資源(鉱石)の産出国は以下の通り。

1位 2位 3位
レアアース 中国  97% インド  2% ブラジル 0.6%
バナジウム 南ア  39% 中国  32% ロシア  27%
タングステン 中国  86% ロシア  5% カナダ   3%
白金 南ア  80% ロシア 12% カナダ   4%
インジウム 中国  49% 韓国  17% 日本   10%
モリブデン 米国  32% 中国  25% チリ    22%
マンガン 南ア  20% 豪州  19% 中国   14%
       (Mineral commodity Summeries 2008)

 

付記

中国国土資源部は57資源保護のため、2009年のタングステン、アンチモニー、レアアースの生産量を下記の通りに制限すると発表した。

タングステン鉱  68,555トン
アンチモニー鉱 90,180トン
レアアース鉱   82,320トン

国土資源部ではまた、これら3の資源に関しては2010630までは、新しい掘削ライセンスの申請を受け付けない。


* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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