2022年5月アーカイブ

欧州委員会のUrsula von der Leyen委員長は5月24日、ロシアはエネルギー供給と同様に食料供給を「武器」として利用していると 述べ、ロシア軍による海上封鎖でウクライナから輸出できなくなっている小麦の輸送を可能にするよう、ロシアとの協議を呼びかけた。

委員長は世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で「ロシア軍はクライナで穀物や機械を没収しているほか、黒海ではロシア軍の艦船が小麦やヒマワリの種を積載したウクライナの船舶の航行を阻んでいる」と指摘 、世界的な協力こそが「ロシアの脅迫に対する解毒剤」になると述べた。

委員長はその後のインタビューで、「黒海の封鎖解除が最重要」とし、ウクライナのサイロに滞留している2,000万トンの小麦の輸出を可能にし、間近に迫っている食料危機を回避するためにロシアとの協議が必要と指摘し、「ロシアのせいで世界の人々が飢餓で死んでいくことはロシアの国益にかなわない」とし、食料輸出の「回廊」を設定するなどの解決策を模索する必要があると述べた。

ウクライナ政府によると、ウクライナは2021年に小麦20百万トン、とうもろこし24.6百万トンを輸出したが、ほとんどすべてが海路であった。貨車やトラックでの輸出はこのような大量輸出には向かず、倉庫や輸出関連施設は全てオデッサ周辺の港にある。

ロシアについては経済制裁の影響で海外との取引がしにくくなり、輸出量が減る可能性が指摘されている。欧米からの経済制裁や黒海沿岸の保険コストの上昇で海上輸出が止まった状態にある。

ロシア政府は、制裁の一部を解除する見返りとして、食料を積んだ船がウクライナを出港するための人道回廊を提供する用意があると明らかにした。ルデンコ外務次官は「食料問題の解決にロシアの輸出や金融取引に科せられている制裁の解除を含め、包括的なアプローチが必要であることは繰り返し述べてきた」と語った。

プーチン大統領は5月28日、仏独首脳と電話会談し、ウクライナが黒海の港から穀物輸出を再開できる方法を議論する用意があると述べた。また、ロシアへの制裁が解除されればロシアは肥料や農産物の輸出を増やす用意があると伝えた。

ーーー

ウクライナは 「ヨーロッパの穀倉」といわれ、国土の約7割を農用地が占める。

西の国境付近を除き緩やかな丘陵地で、チェルノーゼムと呼ばれる肥沃な黒土が広がる。第2次大戦中、侵攻してきたナチスが土を貨車で運び出した。

国連のFAOは農業市場におけるロシアとウクライナの重要性について報告をまとめている。

The importance of Ukraine and the Russian Federation for global agricultural markets and the risks associated with the current conflict


1) ウクライナとロシアの生産


2) 輸出量(2021年) 万トン

ロシア ウクライナ
小麦 3,292 2,005
大麦 516 561
とうもろこし 414 2,468
ひまわり油 311 514


3) 価格上昇


4) ウクライナの農業カレンダー

ーーー

なお、農作物の肥料に使われるカリウムの世界的な供給ではロシアとベラルーシが合計で35%を占めている。

世界のカリウム生産量(2020年:万トン) source: USGS

カナダ 138 31%
ロシア 81 18%
ベラルーシ 74 17%
中国 60 14%
その他 87 20%
合計 440 100%

2021年に米国とEUがベラルーシに対する経済制裁を発動したため、ベラルーシ産のカリウム肥料の輸出が滞り、国際価格の上昇が始まった。
そこに追い打ちをかけたのがロシアのウクライナ侵攻である。

中国データでは、4月の時点で輸入カリウム肥料の港渡し価格は1年前の2倍に上昇している。

東芝は5月26日、取締役候補13名を発表した。当初、5月13日に公表を予定していたが、人選を巡って「追加の時間を要する」として急遽延期していた。

社外取締役に主要株主で米資産運用会社Farallon Capital と米Elliott Investment Management の2社から幹部を1人ずつ受け入れる。物言う株主(アクティビスト)の幹部が直接取締役を務めるのは珍しい。

取締役会議長には、公認会計士で、M&A助言会社Houlihan Lokey会長の渡辺章博氏を提案する。

暫定的に取締役会議長を務めている前社長の綱川智氏と前副社長は取締役を退任する。代わりに現在の社長、副社長を取締役候補とした。

東芝は2022年3月1日、同日付での代表執行役の異動を発表した。

2人しかいない社内取締役が社長、副社長を退任し、新たに社内から3人の代表執行役(いずれも取締役ではない)を選任した。

2022/3/2 東芝、綱川社長が退任 

現在の社外取締役6名は全員留任、新たに社内2名(現社長、副社長)のほか、社外取締役5人を候補とした。

全体で本来の13名で、社内2名、社外11名となる。 事業経験者は非常に少ない。


東芝は4月7日、取締役会を開き、社外取締役で構成する特別委員会を設置し、株式非公開化を含む戦略的選択肢を検討することを決めた。買収を検討する投資家との交渉にも関与し、最良の非公開案を特定するという。

既報の通り、米投資ファンドのBain Capitalが東芝の買収を検討しており、株式の非公開化を前提にした提案の策定を進めていることが判明している。

2分割案を主導してきた戦略委員会は解散、2分割案を前提としていたエレベーター事業等の売却手続きも中断する。

2022/4/8 東芝、2分割案の検討中断、非公開化も検討 エレベーター事業等の売却を再検討

4月に非公開化を含めた再編策の公募を始め、5月30日に締め切る。KKRとBlackstoneが連合を組むとされる。ほかにBainCapitalとカナダのBrookfieldが有力視される。

産業革新投資機構が東芝の買収を検討していることが判明した。

今回、アクティビスト(物言う株主)から新たな取締役候補2名を選んだことから、非公開化に向けて大きく舵を切ったと見られている。

付記 2名の候補については、綿引万里子 取締役が反対、初めて多数決で決めた。

付記 6月28日の総会では、留任6人 と、アクティビスト(物言う株主)からの新たな取締役候補2人を含む新任7人、合計13人 全員が承認された。
しかし、綿引万里子 取締役はこれを不満とし、直後に辞表を出した。

ーーー

2021年6月25日の定時株主総会で、永山治取締役会議長と監査委員会の小林伸行委員の再任案が否決された。

当初の13人の候補のうち、2人を事前に下したが、更に2人が否決された。

また、選任された新任のジョージ・オルコットが辞任し、取締役は8人となった。

2021/6/15 東芝、異例の取締役候補者変更 

取締役 社外 新任   2022/3/1 今回
 智  

社長

社長辞任

取締役退任

永山 治 否決   元 中外製薬
太田 順司 撤回   元 新日鉄
小林 伸行 否決   CPA
山内 卓 撤回   元 三井物産
Paul J. Brought   元 KPMG 留任
Ayako Weissman   元 投資会社 留任
Jerry Black   イオン顧問 留任
George Zage Ⅲ   元  Farallon 留任
畑澤 守 代)副社長 副社長辞任 退任
綿引 万里子 元 裁判官 留任
George Olcott 〇→辞任 元 投資銀行
橋本 勝則

元 デュポン 留任
合計 13人→8人      

留任6人

新任取締役候補

社外
辺   取締役会議長 (CPI) Houlihan Lokey会長
島田 太郎 代)社長 (2022/3/1より)
柳瀬 悟郎 代)副社長 (2022/3/1より)
月  元 IHI
  (CPI)
井  Farallon Capital Japan
Nabeel Bhanji Elliott Investment Management
合計 留任6人、新任7人、合計13人

シャープは5月11日、2022年3月期の決算を発表した。

しかし、同社は5月24日にこれを修正した。

特別損失に「訴訟損失引当金繰入額」として11,747百万円を追加し、これがそのまま株主帰属損益の減額となった。

単位:百万円
売上高 営業利益 経常利益 特別損失 株主帰属損益
5/11発表 2,495,588 84,716 114,964 26,409 85,738
5/24発表 2,495,588 84,716 114,964 38,156 73,991
増減 11,747 -11,747
2021/3月期 2,425,910 83,112 63,175 53,263
修正後増減 +69,678 +1,604 +51,789 +20,728

前期比での経常利益増は、持分法損益がマイナスからプラスになったほか、投資関連利益があり、さらに為替差益が増大したことによる。

事態は下記の通り。

シャープは2013年12月19日に韓国LG Displayとの間で特許ライセンス契約 を締結しているディスプレー分野で、知的財産の利用を相互に認める「クロスライセンス契約」である。

これに関し、LG Displayはシャープ側に本契約違反があったとして、シンガポール国際仲裁センターに賠償等を請求する仲裁申立を行ない、2019年12月6日付で受理された。

今回、5月16日付で下記の仲裁判断がなされた。

シャープがLG Dsiplayに対して、損害賠償額等として95,190USD11,747百万円)を支払うこと 。

シャープも特許侵害を認めたことになる。ただ、意図的な特許侵害があったかどうかは明らかではない。

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Stellantis N.V.は2021年10月、LG Energy Solution及びSamsung SDIとの間でそれぞれ、北米で電動車用の電池生産の合弁会社を設立すると発表した。

Stellantis N.V.は、2021年1月16日付でFiat Chrysler Automobiles N.V.とPeugeot S.A.の統合により創設された。

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Stellantis N.V.は2021年10月18日、LG Energy Solutionと合弁会社を設立し、北米で電動車用の電池を生産すると発表した。

2021/10/21 Stellantis N.V.、米国でLGと合弁で電池生産

StellantisとLG Energy Solutionは2022年3月23日、本契約を締結した。

立地:カナダ オンタリオ州 Windsor (デトロイト市に隣接) 

能力:45 gigawatt hours (GWh)

投資額:41億米ドル

雇用:2,500人

予定:本年後半に建設開始、2024年第1四半期生産開始

付記

両社のこのJV名はNextStar Energyと名付けられた。

NextStar Energyは2023年7月6日、「ウィンザー市に建設しているバッテリーセルとモジュール生産の安定的な未来を保障する契約書に最終的にサインした。カナダ政府は、米国のインフレ削減法(IRA)並みの補助金の支給を約束した」と明らかにした。

米国の「先進製造業生産控除」では、米国で生産されたセル1kWh当たり35ドル、モジュールは1kWh当たり10ドルを支給する。業界では、カナダ政府がNextStar Energyに150億カナダドル規模の補助金を支給するものと見ている。


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LG Chemの電池子会社LG Energy Solution は2021年3月12日、2025年までの5年間で米国に45億ドル以上を投資すると発表した。少なくとも2工場を建設、米国での電気自動車の成長に対応し、能力を70GWh増やす。

LG単独ではミシガン州Hollandに5GWhの工場を持ち、GM、Ford Motor、Chrysler などに供給しており、米国では単独で75GWhの能力となる。

別途、GMとのJVで2工場を建設中で、合計能力は65GWh(単独分を加えると135GWh)となる。



Stellantis N.V.は2021年10月22日、韓国電池大手のSamsung SDIとも米国で合弁会社を設立し、電気自動車用の電池工場を建設する覚書を締結したと発表した。

2021/10/25 Stellantis、米国でSamsung SDI とも合弁でEV電池生産  

Stellantis N.V.とSamsung SDI2022年5月24日、本契約を締結した。

立地:Kokoma, Indiana

能力:当初 23GWh、2~3年で33GWhに増強。Stellantis車需要に合わせ更に増強も

投資額:25億ドル以上、最終31億ドル

雇用:1400人

予定:本年末に建設開始、2025年第1四半期に稼働

Samsung SDI はここで、2021年12月28日に発表した新バッテリー「PRiMX」を採用する。

PRiMXは「最高品質のバッテリーで顧客に最上の経験をプレゼントする(Prime Battery for Maximum Experience)」という意味を持つ。

PRiMXブランドには①最高の安全性を保有した品質 ②超格差高エネルギー技術 ③超高速充電と超長寿命技術の3つの核心キーワードが盛り込まれた。

「最高の安全性を保った品質」:バッテリー開発段階から製造そして出荷に至るまで、全プロセスに対する品質管理を強化した。開発段階ではバッテリー品質を高めることができる素材とデザインを選定し、製造・出荷段階ではディープラーニング基盤のAI検査を導入し、不良検出アルゴリズムを高度化した。すべての製造工程で約500種類の品質項目をチェックするなど、厳しい品質検査も行っている。

「超格差高エネルギー技術」:ハイニッケル陽極とシリコン陰極など、最新素材技術と独自の製造力量を土台に実現した高容量・高出力バッテリー技術。これらは電気自動車の走行距離や、電動工具ぼ出力などの重要な性能を決定する。

「超高速充電および超長寿命技術」:独自技術で実現したユーザー便宜機能。新しい工法で実現した超高速充電技術は、バッテリーセルの内部抵抗を減らし、リチウムイオンの移動距離と移動時間を最小化した技術。

Stellantis はこれまでもSamsungから「Fiat 500e」や「Jeep Wrangler 4xe」向けに電池供給を受けてきた。今回のJV設立で、両社の協力関係はさらに堅固になる。

Samsung SDIは現在、韓国と中国、ハンガリーで電池工場を持つが、米市場のEVシフトの潮流に乗り遅れないように米国進出を検討してきた経緯がある。(同社はミシガン州にバッテリーパックの組み立て工場は持っている。)

米国Sempraの子会社 Sempra Infrastructureは5月23日、Cameron LNGのパートナーである三菱商事、三井物産、TotalEnegiesとの間でルイジアナ州でのCO2回収・貯留事業(Hackberry Carbon Sequestration project ) に参加する契約に調印したと発表した。

Sempraの100%子会社であるHackberry Carbon Sequestration LLCが既に2001年8月に本案件の事業予定地におけるClass VI 圧入井掘削に関して米国環境保護庁宛に許認可を申請済みである。

本事業は、年間最大200万トンのCO2を Cameron LNGプラントの近接地に地下貯留するもので、Cameron LNG の既存のPhase 1と本年4月に合意したPhase 2 の操業時に排出されるCO2の削減に貢献する。

今後、4社はHackberry Carbon Sequestration project のためのJVを設立する。

ーーー

キャメロンLNGプロジェクトは、米Sempra Infrastructure、三菱商事と日本郵船の合弁会社 のJapan LNG Investment、三井物産、TotalEnergiesが参画しているLNG輸出プロジェクト。

当初はフランスガス公社(GDF)と旧Suez の合併によるGDF SUEZが参加していた。GDF SUEZは2015年4月にENGIEに改称したが、ENGIEは2018年7月にこの権益を含むLNGの上流・中流事業をフランスのTotalに売却した。



2012/4/20 三菱商事と三井物産、米国産LNGを輸入へ


Sempra Infrastructureは2022年4月、三菱商事/日本郵船のJapan LNG Investment、三井物産、TotalEnergiesとの間でCameron LNG Phase2 輸出計画についてheads of agreementを結んだ。

既存の3系列(各400万トン)のデボトルネッキングによる能力増に加え、第4系列(675万トン)を建設する。

heads of agreementでは、第4系列の製品の50.2%と、既存系列のデボトルネッキングによる増産分の25%をSempraに割り当てる。増加分の残りは既存3社が配分する。

コンプレッサーの駆動にガスタービンではなく、電動モーターを活用する「E-Drive」の採用が検討されており、LNGプラントにおけるCO2排出の低減に寄与する。

中国ラオス鉄道の国際貨物輸送列車と中国各都市から欧州や「一帯一路」沿線国を結ぶ貨物列車便「中欧班列」が試験的に開通した。

2022年5月18日、20feet換算50個のコンテナを積み込んだ国際定期貨物列車「中欧班列」が、貴州省貴陽市の国際陸上海上連携物流港を出発し、ハンガリーのブダペストに向かった。
貨物の一部はベトナムから中国ラオス鉄道を経由して貴陽に輸出され、それから「中欧班列」に積まれて欧州に直接輸出されている。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、東南アジアの航空路線は便数が減り、海上輸送費は変動が大きく、貨物を積み込むスペースが不足している。
このため、「中欧班列」の南方路線が東南アジア各国からの海上輸送の穴を効果的に埋めることになった。


2016年6月以降は中国各都市から欧州や「一帯一路」沿線国を結ぶ貨
物列車便を「中欧班列」という統一ブランドで総称し、中国各都市と欧州23カ国180都市を結んでいる。



中国ラオス鉄道の開通式典が2021年12月3日、ラオスのビエンチャン駅と中国の雲南省昆明駅で同時に開催された。

ビエンチャン~昆明間1,035キロ10時間で結ぶ。これまで両区間はトラックの貨物輸送で48時間を要していた。


式典の後、貨物列車がラオス中部の鉱山で採掘されたカリウム塩、天然ゴムなどを積載し、ラオスから中国に向けて初運行を行った。昆明駅からも、飼料用添加物などを載せた貨物列車がラオスに向けて出発した。

旅客列車については、運行時に乗務員の交代は不要となり、越境後もそのまま相手国内の運行が可能となる。貨物列車については越境後に機関車と乗務員を相手国側と交代する。

韓国の現代自動車は5月21日、米ジョージア州に電気自動車(EV)の専用工場を新設すると発表した。

投資額は55億ドルで、2025年の稼働を目指す。生産能力は年産30万台規模で、車載電池工場も併設する。

鄭義宣会長は訪韓中のバイデン米大統領と5月22日に単独で会談したが、その後の記者会見で、上記に加え、ロボティクス、Urban Air Mobility (UAM:人や物を空を使って輸送する都市交通システム)、自動運転技術など未来新事業で米国と協力するため2025年までに50億ドルを追加投資すると明らかにした。今後3年で合計105億ドルを米国に投資する。

鄭会長は「米国で高品質の電気自動車を生産し、現代自動車グループが米国の自動車産業のリーダーとして跳躍できると自信を持っている。ロボティクスや自動運転などへの投資を通じても米国の顧客に高い便宜と安全を提供したい」と発言した。

バイデン大統領は会見で「ジョージア州の電気自動車工場を通じて8000人以上の雇用が生まれる。これは米国国民にとって、より多くの経済的恩恵を意味する」と述べた。

現代自動車グループは5月20日、ジョージア州政府と電気自動車・バッテリーセル工場など電気自動車生産拠点を構築する内容の投資協約を締結した。

ジョージア州Bryan Countyに来年着工し、2025年上半期から稼動する。生産量を次第に増やし2030年に年産30万台とする。
ジョージア州政府は税制優遇などインセンティブを提供し、持続的な諸般の支援を約束した。

電気自動車工場の近くにバッテリーセル工場も建設する予定で、「バッテリーセル工場は合弁形態で設立するだろう。合弁対象は確定しておらず検討中」と説明した。SKオン、LGエネルギーソリューション、サムスンSDIの韓国企業3社のうち1社が有力という。

SKイノベーションは2021年10月1日、電池事業を分社し、全額出資の「SKオン」(SK on)を設立した。EVの世界的な普及による需要急増に対応するため、電池事業を上場させて増産資金を確保する狙いがある。

SKは現在、米国や欧州、中国の3大市場で合計5つの新工場建設を進めている。足元で年間40ギガワット時の電池生産能力を2025年には200ギガワット時まで拡大する。

なお、同じ10月1日にSKイノベーションから石油開発事業の「SKアースオン」(SK earthon) が分社した。

現代自動車グループが米国に生産工場を作るのはヒョンデ(現代自動車)のアラバマ工場、起亜のジョージア工場に続き14年ぶり。既存の工場はエンジン車だけ生産してきた。

現代自グループの2021年の世界小売販売台数710万台のうち北米地域は23%を占める。

同グループは起亜と合わせて2030年にEVの世界販売目標を323万台に設定、2021年実績の約25万台から13倍に引き上げる方針で、韓国や米国、欧州の既存工場でのEV増産を進める。このうち米国では2030年まで84万台の販売が目標。

5月18日には、21兆ウォン(165億4千万ドル)を投資し、韓国でのEV生産台数を今年の35万台から2030年には144万台へと4倍以上増やすと発表している。

化学メーカーの3月期決算がほぼ出揃った。

各社の決算状況は https://www.knak.jp/kessan/ 

下記3社は詳細を既報

  信越化学三菱ケミカルホールディングス住友化学 


売上高

石油化学製品の値上げによる増収が目立つ。

JSRの売上高減少は、 合成ゴム事業を202241日付でENEOSに譲渡したため。合成ゴム事業を
2021/3月期と2022/3月期の損益は
非継続事業損益に含めたため、売上高からは除外された。


営業損益(IFRS方式の企業はコア営業損益を表示)

ほとんどの企業が増益だが、損益が急増している企業もある。 信越化学の増益額は驚異的である。


信越化学はShintechの増益(増設による数量増、売価アップなど)が大きい。ブログ記事参照

三井化学は基盤素材(石油化学等)の増益(+555億円、うち交易条件が+444億円)が大きい。

東ソーはクロルアルカリ(+280億円)、機能商品(+200億円)が増益。


株主帰属損益

前期の日本触媒の赤字は欧米関係の減損(-212億円)、
JSRは(-552億円)エラストマー事業売却に備えての減損(-772億円)や構造改革費用(-102億円)による。

ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官は、5月22日からのバイデン大統領の日本訪問中に、岸田首相も同席して中国への対抗を念頭にしたIPEF(インド太平洋経済枠組み)の立ち上げを表明すると明らかにした。

東南アジアなどの国の首脳もオンラインで出席する。米国としては各国との連携をアピールする場にしたい考えとみられる。

「デジタル経済のルール作りや強固で強じんなサプライチェーンの確保、エネルギーの転換など、新たな経済の課題に立ち向かうためにデザインされた21世紀の新たな枠組みだ」と説明した。


IPEFは、(1)公平で強靭性のある貿易、(2)サプライチェーンの強靭性、(3)インフラ、脱炭素化、クリーンエネルギー、(4)税、反腐敗の4つの柱から構成される通商枠組み 。米国の輸入拡大につながる関税の引き下げは交渉しない、としている点が、TPPとは大きく異なる。通常の多国間協定とは違い、議会の承認は得ず、緩やかな連携を目指す。

米国は、各国が枠組みのすべてに賛同しなくても、参加したい分野だけを選んで参加できる珍しい仕組みも検討している 。

林外相は5月17日の会見で次のように述べた。

日本は、このインド太平洋経済枠組み(IPEF)を、米国のインド太平洋地域への積極的なコミットメントを示すものとして、歓迎をして いる。
同時に、米国によるインド太平洋地域の国際秩序への関与という戦略的な観点からは、米国のTPP復帰が「より望ましい」という我が国の立場、これは変わらない。

日本としては、自由で開かれたインド太平洋の実現という戦略的観点から、引き続き、この米国のTPP復帰を求めていくとともに、IPEFを通じても協力を推進し、米国を含む形での、地域の望ましい経済秩序の構築に向けて、日米で緊密に連携して取り組んでいきたい 。

インド太平洋地域にはTPPのほか、1月に発効した日中韓など15カ国による地域的な包括的経済連携(RCEP)といった大型自由貿易協定(FTA)が複数存在するが、いずれも「米国抜き」の枠組みで、中国はTPPへの加入を申請し、域内貿易の主導権を握るため先手を打っている。

政府関係者によると、IPEFへの参加がほぼ確定しているのは、米国のほか、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、マレーシア、フィリピンの8か国とされる。

関税の引き下げは交渉しないため、米国の市場開放を通じて輸出を拡大したい東南アジア諸国の一部は、「参加をしてもあまりメリットがない上、アメリカの関与を嫌がる中国との関係が悪化するかもしれない」と懸念の声もあり、参加に慎重である。インドとインドネシアは条件が折り合わず参加に難色を示している。


付記 

バイデン米大統領は5月23日、新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を表明した。日米と韓国、インドなど計13カ国を創設メンバーとし、中国に対抗してサプライチェーン(供給網)の再構築やデジタル貿易のルールづくりなどで連携する。

赤字がIPEFに参加する国:当初13カ国、青字が追加参加

ASEAN 東アジア 南アジア ANZ 旧NAFTA Mercosur その他 参加申請
RCEP TPP マレーシア 日本 豪州 カナダ ペルー 英国、
中国、台湾、
エクアドル
シンガポール NZ メキシコ チリ
ベトナム
ブルネイ
フィリッピン 韓国 米国 フィジー(5/26)
インドネシア 中国
タイ
ミャンマー
ラオス
カンボジャ
インド

付記

米国連邦上院議員52人が5月18日、バイデン大統領宛にインド太平洋経済枠組み(IPEF)の参加メンバーに台湾を含めることを要請する書簡を送付した。

しかし、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は5月22日、IPEF発足時に台湾は参加しないと明らかにした。バイデン政権も「一つの中国」政策を堅持しており、中国を除外して台湾の参加を認めれば、中国を過度に刺激しかねないと判断したとみられる。

補佐官は、「しかし、われわれは台湾と経済パートナーシップを深化させる考えだ。これにはハイテク、半導体、サプライチェーン(供給網)が含まれる」と述べた。


付記 インドも参加する。

Indo-Pacificという名前にもかかわらず、インドが参加しないのは米国にとって残念なことであろう。

インドは米国の対中包囲網のコアの一つである日米豪印のQuadのメンバーであるが、ロシアと中国との関係も深い。

中国、ロシア、中央アジア4カ国でつくる上海協力機構に2017年6月にパキスタンとともに正式に加盟した。中国とは国境紛争はあるが、両国首脳の関係は良好である。

2月25日に、ウクライナ問題でロシア軍の即時撤退を求める国連安保理事会の決議が当事者のロシアの拒否権で否決されたが、ロシアの拒否権に加え、中国、インド、UAEが棄権した。

インドはRCEPからも最終段階で離脱した。

増収、増益、増配となった。

単位:億円 売上高

営業損益

税引前
損益
株主帰属
損益
配当(円)
コア うち
持分法
非コア 合計 中間 期末
2020/3 22,258 1,327 92 49 1,375 1,305 309 11 6
2021/3 22,870 1,476 -125 -105 1,371 1,378 460 6 9
2022/3 27,653 2,348 422 -198 2,150 2,511 1,621 10 14
増減 4,783 872 546 -93 779 1,133 1,161 4 5
2023/3予 31,200 2,000 -200 1,800 1,250 12 12

コア損益

19/3 20/3 21/3 22/3 増減 23/3
エッセンシャルケミカルズ 616 145 -120 535 655 410
エネルギー・機能材料 230 203 203 201 -2 180
情報電子化学 262 251 397 578 181 610
健康・農業関連 197 21 315 423 108 475
医薬品 808 753 717 617 -100 330
その他 94 88 128 158 30 155
全社 -164 -134 -164 -164 0 -160
合計 2,043 1,327 1,476 2,348 872 2,000

石油化学をエッセンシャルケミカルズに改称

コア損益のうち、持分損益は下記の通りで、石油化学部門のコア営業損益の推移と相似している。

サウジのPetroRabigh(37.5%出資)は2020年は定期修理で長期停止したため、大きな赤字を計上したが、2021年は大幅な黒字となった。


情報電子化学は好調が続く。


健康・農業関連は2020年3月期には飼料用メチオニンの価格低下で採算が悪化していたが、その後、市況が上昇、海外農薬の出荷増もあり、採算向上した。

医薬品は下記、住友ファーマ(旧称:大日本住友製薬)を参照。


非コア項目 

合計 住友ファーマ
2020/3 2021/3 2022/3 2020/3 2021/3 2022/3
減損損失 -373 -408 -81 -352 -357 -16
条件付対価 公正価値変動 485 225 33 485 225 33
事業構造改善費用 -78 -63 -106
固定資産売却益 9 187 7 167
その他 6 -45 -51 -20 -19
合計 49 -105 -198 113 16 17


条件付対価 公正価値変動 (2020/3 & 2021/3):

事業買収に当たり、買収額と純資産との差は「のれん」となるが、一定条件を満たした場合に追加支払いをする契約がある。
IFRS基準ではこの場合、買収時点で将来の追加予想支払額を「のれん」と負債に計上する。
その後、追加支払い契約分が確定した時点で、買収時に計上した「のれん」は修正せず、損益処理する。
さらに追加支払いの場合はその分を費用計上、支払い不要の場合は負債を消し、利益を計上する。別途、過大であった「のれん」を減損処理する。

大日本製薬の場合、いくつかの買収で追加支払いが不要となり、買収時に計上した負債を消し、利益に計上した。合わせて、「のれん」を評価しなおし、減損損失を計上した。
大日本製薬の売却益は既に休止している茨木工場跡地の売却益である。

ーーー

住友ファーマ(旧称 大日本住友製薬)
2005年10月1日に住友製薬と大日本製薬が合併し、大日本住友製薬となったが、2022年4月1日付で住友ファーマに改称した。

Sumitovant関連(下記)で減益となったが、2023年3月期はさらに大幅減益となる。

単位:億円 売上高

営業損益

税引前
損益
株主帰属
損益
配当(円)
コア うち
Sumitovant
非コア 合計 中間 期末
2020/3 4,827 720 -156 113 832 839 408 14.0 14.0
2021/3 5,160 696 -636 16 712 779 562 14.0 14.0
2022/3 5,600 585 -869 17 602 830 564 14.0 14.0
増減 441 -111 -233 1 -110 51 2  0 0 
2023/3予 5,500 300 -60 240 220 14.0 14.0

大日本住友製薬は2019年10月31日、米国のRoivant Sciencesとの間で、戦略的提携に関する正式契約を締結し、米国に運営会社Sumitovant Biopharmaを設立した。

2019/11/4 大日本住友製薬、Roivant Sciences と戦略的提携、30億ドルを投資 

仕掛研究開発費として2,659億円を資産計上した。Sumitovant販売活動の本格化で、同社の販管費、研究費は増加している。

全社損益のうち、Sumitovantの 部分は下記の通り。既存製品の収益でSumitovantの費用を賄っている。

単位:億円 売上高 販間費 研究費

営業損益

株主帰属
損益
コア 非コア 合計
2020/3 0 65 90 -156 0 -156 -119
2021/3 78 465 246 -636 0 -636 -443
2022/3 357 903 243 -869 4 -869 -716
増減 279 438 -3 -233 4 -229 -273
2022/3予   1,179 258       非開示

増収、大幅利益となり、増配した。

単位:
 億円
売上高

営業損益

税引前
損益
株主帰属
損益
配当(円)
コア 非コア 合計 中間 期末
2020/3 35,805 1,948 -505 1,443 1,220 541 20 12
2021/3 32,575 1,747 -1,272 475 329 -76 12 12
2022/3 39,769 2,723 309 3,032 2,904 1,772 15 15
増減 7,194 976 1,580 2,557 2,575 1,847 3 3
2023/3予 44,360 2,750 20 2,770 2,660 1,530 15 15


前年の2021/3ではコア営業利益が減額で、多額の減損損失を計上し、株主帰属損益が赤字となり、減配。

今期はコア営業利益が前々年比でも増益で、減損損失もなく、大幅増益となった。

前期には下記の非コア損益があった。

ヘルスケア
(田辺三菱製薬)
-84,534 2019/10/18にイスラエルの中枢神経系治療薬(パーキンソン病等)の研究開発 を行なうNeuroDerm Ltd.総額11億ドル(経費込み1,252億円)で買収したが、予定した収益性が低下する見込みとなり、技術に係る無形資産を減額
(詳細 2021/2/10ブログ参照)
MMA
(旧 三菱レイヨン)
-19,382 米国子会社 Lucite Internationalテキサス州BeaumontにおけるMMAモノマーMAA生産を終了し、工場閉鎖することを決め 、減損損失を計上した。

2020/11/6 三菱ケミカル、テキサスのLuciteのMMAプラント閉鎖

これに関連し、コア営業損益のなかに、特別退職金 -901百万工場閉鎖関連損失引当金繰入額 -3,318百万円 、合計 -4,219百万円を計上した。

2021/2/10 三菱ケミカルHD、2021年3月期決算 480億円の赤字予想 

コア損益  数量差の影響が大きい。

  18/3 19/3 20/3 21/3 22/3 増減 売買差 数量差 コスト差 その他 23/3
機能商品 940 713 613 597 787 190 -51 313 56 -128 850
MMA 1,096 944 238 131 318 187 179 140 95 450 350
石化 259 87 -21 17 446 429 200
炭素 124 249 81 10 258 248 200
産業ガス 575 633 880 851 989 138 11 201 6 -80 1,050
ヘルスケア 812 538 165 179 -70 -249 -80 116 32 -317 140
その他/全社 -1 -23 -8 -38 -5 33 -4 39 0 -2 -40
合計 3,805 3,141 1,948 1,747 2,723 976 55 809 189 -77 2,750


MMA、石化、炭素の増益が大きい。この損益差の「その他」は原料価格上昇に伴う在庫評価益(総平均法による)が大きい。

MMAと石化の損益推移  
MMA価格は2019年に@2650であったが、2020年に@1550弱となった。最近は@1900程度とされる。

産業ガスは好調で推移。下記日本酸素ホールディングス参照

ヘルスケアについては、下記の田辺三菱製薬を参照   

なお、三菱ケミカルホールディングスは2021年12月1日、新経営方針「Forging the future 未来を拓く」を策定した。

石油化学事業及び炭素事業については、分離・再編し、独立化を進めることで、国内基礎化学産業の再編を主導するとしている。

2021/12/2 三菱ケミカルホールディングス、石油化学事業及び炭素事業を分離・再編へ 


田辺三菱製薬

三菱ケミカルホールディングス田辺三菱製薬普通株式の全てを取得し、田辺三菱製薬は、2020/2/27に上場廃止となった。

2019/11/22 三菱ケミカルホールディングス、田辺三菱製薬に公開買付け

単位:億円 売上高

営業損益

税引前
損益
株主帰属
損益
配当(円)
コア うち
ロイヤリティ
非コア 合計 中間 期末
2019/3 4,248 558 631 -55 503 504 374 28 28
2020/3 3,798 191 174 -252 -61 -65 1
公表
2021/3 3,778 210 159 -795 -585 -577 -46102
2022/3 3,859 -30 133 -127 -157 非公表 -102
増減 81 -240 -26 668 428
2023/3予 4,095 180 非公表 0 180 非公表

 コア営業利益


Medicagoが開発を進めている新型コロナウイルスワクチンやNeuroDerm社が開発を進めているパーキンソン病の治療薬など、複数のグローバル後期臨床試験が同時進行したことに加え円安の影響もあり、研究開発費が一時的に増大し、コア営業利益は前期比240億円減益となった。

なお、カナダの60%出資子会社Medicagoが開発しているCOVID-19の植物由来のウイルス様粒子ワクチン(商品名:COVIFENZ)について、2022年2月24日、カナダで承認を取得した。
しかし、WHOは
同社がタバコメーカーのPhilip Morrisからの出資(Philip Morris 40%)を受けていることを理由に、WHOの緊急使用承認を「受けられない可能性が非常に高い」と発表した。タバコや武器会社との提携に関するWHOの「非常に厳しい」ポリシーに抵触する恐れがあるため、緊急使用承認が一時停止されているという。

2021/10/3 田辺三菱製薬、カナダ子会社のCOVID-19ワクチン候補の日本における臨床試験開始

コア営業損益のほとんどを占めていたロイヤリティ収入が2929/3期以降、激減し、大幅減収減益となった。
同社はロイヤリティ収入を除くと、コア営業損益はほとんどゼロであった。

問題は多発性硬化症治療剤「ジレニア」のロイヤリティ収入である。

2019年2月、ノバルティスから本件契約の規定の一部の有効性について疑義が提起され、2019年2月15日、国際商業会議所より、ノバルティスを申立人とする仲裁の申立てがあった旨の通知を受領した。

ノバルティスは、米国、EU等における製品の売上ベースのロイヤリティ支払い義務を定める本件契約の規定の一部は無効であり、ノバルティスにはロイヤリティの一部の支払義務がないことの確認を求めている。

IFRSルールでは、収益認識基準の要件の一つ に「契約の当事者が契約を承認しており、それぞれの義務の履行を確約している」 があり、ノバルティスが契約の有効性について疑義を提起している部分がこれを満たさなくなったため、売上収益から除外する。

2019/5/16 注目会社の決算  田辺三菱製薬

 非コア損益については2021年3月期に下記の大幅減損(845億円)があった。

2019/10/18にイスラエルの中枢神経系治療薬(パーキンソン病等)の研究開発 を行なうNeuroDerm Ltd.総額11億ドル(経費込み1,252億円)で買収したが、予定した収益性が低下する見込みとなり、技術に係る無形資産を減額(詳細 2021/2/10ブログ参照)


日本酸素ホールディングス (三菱ケミカルHDの産業ガス部門)

2014年に三菱ケミカルHDがTOB 三菱ケミカルと合わせ、50.56%

2014/5/19 三菱ケミカルホールディングス、大陽日酸株式の公開買い付け 

2020年10月に大陽日酸から日本酸素ホールディングスに改称。

2018年に米国のPraxair, Inc.の欧州事業を買収、損益に大きく貢献している。

2018/7/13 大陽日酸、米国Praxairの欧州事業を買収

 

国際通貨基金(IMF)は5月11日、5年に1度の特別引き出し権(SDR)の通貨バスケットの構成比率見直しを行い、人民元の比率を10.92%から12.28%まで引き上げた。
人民元が2016年にSDR構成通貨に正式採用されて以来、初の見直しとなった。

新たなSDRの通貨バスケット構成は今年8月1日から正式に適用される。次回の見直しは2027年に行われる。

構成比率の推移は下記の通り。2000年比でみると、日本円の比率が大きく減少しているのが目立つ。

特別引出権(SDR)は、加盟国の準備資産を補完する手段として、国際通貨基金(IMF)が1969年に創設した国際準備資産。

現在までに6,607億SDR(約9,430億ドルに相当)が配分されている。

このうち、4,565億SDRが2021年8月2日に承認された史上最大の配分によるもので、この最も新しい配分は準備資産の長期的かつ世界的なニーズに対処することを目的としており、コロナ禍の影響に各国が対応できるよう支援することが狙い。


ーーー

SDRの価値は当初、純金0.888671グラム (当時の1米ドルと等価値)に相当すると決められていたが、1973年のブレトンウッズ体制の崩壊に伴い、SDRは通貨バスケットとして再定義された。

主要16カ国通貨の加重平均による価値に結びつけるとする「通貨バスケット方式」を1974年7月1日から採用することを決定 した。


1981年に計算の簡便化を図った。

ある通貨がSDRバスケットの構成通貨として採用されるためには、「輸出基準」と「自由利用可能基準」という2種類の条件を満たす必要があ るとした。

「輸出基準」:発行する国または通貨同盟の輸出額が世界で5本の指に入る こと。
「自由利用可能」:国際取引の支払いで広く使われており、主要な為替市場で広く売買されている。

1981年に「5 年間の財・サ-ビス輸出量が上位 5 位以内の加盟国通貨」(ドル、マルク、円、仏フラン、英ポンドの 5 通貨)の加重平均方式に変更その後、ユ-ロ導入で2001年に4 通貨(ドル、ユーロ、円、英ポンド)の加重平均になった。

通貨バスケットは、世界の貿易制度と金融制度における通貨の相対的な重要性を反映するために、5年ごとに見直しが行われ る。

2015年11月に終了した前回の見直しでは、中国人民元がSDRバスケット入りの条件を満たしたとの決定がIMF理事会によって下され、2016年10月1日から実際に中国人民元がSDRバスケットを構成することになり、中国国債の3か月物のベンチマーク利回りがSDR金利バスケットに組み入れられることになった。

2021年3月、IMF理事会はSDR価値バスケットの見直しを2022年7月31日まで延期することを決定し、5年周期で行っているSDR価値見直しの流れを実質的に変更した。今回の見直しで2022年8月1日に新たなバスケットが発効する。

Pfizerは5月10日、成人の急性片頭痛の治療及び一時的片頭痛の予防薬 NURTEC® ODTの開発会社である米Biohaven Pharmaceutical を現金116億ドルで買収すると発表した。PfizerはBiohavenの借入金や優先株も引き受ける。買収は手元の現金で行う。

1株あたり148.5ドルの買収で、Biohaven 株価の 過去3か月の加重平均111.70ドルに33%のプレミアムが上乗せされている。Pfizerは2021年11月にBiohaven株 2.6%を1株173ドル、合計350百万ドルで購入しており、残り全株を買収する。

その後の金利とインフレ率の上昇を受けて、投資家はリスクの高い成長株から資金を引き揚げて おり、Biohavenの株価も1月以降、40%下落していた。

Pfizerを含む現在のBiohaven株主は別途、Biohavenの開発段階の非CGRP製品を残す新会社New Biohaven社の株を、Biohaven株1株当たり 0.5株を受け取る。


片頭痛は一定の性質を満たす頭痛発作が繰り返す慢性
疾患だが、確固とした神経疾患である。

病態生理の解明が進んだ結果,カルシトニン遺伝子関連ペプチドcalcitonin gene-related peptide; CGRP)を標的にした特異的治療が行われるようになった。

Biohavenの製品もCGRP製品である。

Biohaven Pharmaceutical はPfizerによる買収後もBiohavenの社名で子会社として存続するが、同社の製品のうち、下記のCGRP関連のみを残し、それ以外の製品を新会社New Biohavenに移すもの。

  • 一般名 rimegepant:
    • 米国で承認、製品名 NURTEC® ODT、急性片頭痛の治療、一時的片頭痛の予防薬
    • EUで承認、製品名 VYDURA® 、急性片頭痛の治療、一時的片頭痛の予防薬
  • 一般名 zavegepant:
    • 急性期片頭痛の治療用鼻腔内スプレイ(米国で申請済み)、慢性片頭痛予防用の口腔ソフトゲル(開発中)
  • 臨床研究前段階の5つの CGRP 製品

なお、Pfizerは2021年11月にBiohaven株2.6%を購入しているが、この時点でBiohaven 社のrimegepant とzavegepant の米国外での商業化の協力の契約を結んでいる。

Pfizerはこれらの年間売上高総額がピーク時に60億ドルを超える可能性があると見込んでいる。
NURTEC® ODTは昨年463百万ドルの売上高を記録、Biohavenでは、今年の売上高が825ー900百万ドルを見込んでいる。

CGRP受容体拮抗薬で現在最も売上高が大きいのは、Eli Lilly(製品名Emgality、第一三共と提携)とAmgen(製品名 Aimovig) が販売する注射タイプの薬で、経口薬としてはAbbvie(製品名Qulipta) が販売し、NURTEC® ODTと競争を繰り広げている。

ーーーーー

Pfizerは5月3日に2022年1~3月期決算を発表したが、新型コロナウイルスワクチンの売り上げが伸びたことなどから、大幅な増収増益である。

(単位:百万ドル)

2022/1-3 2021/1-3 増減
売上高 Pfizer Biopharma ワクチン 14,941 4,894 10,047
Hospital 3,191 1,886 1,305
抗がん 2,967 2,862 105
内科 2,440 2,594 -154
その他 1,784 1,889 -105
合計 25,323 14,125 11,198
Pfizer CenterOne (CDMO) 338 391 -53
合計 25,661 14,516 11,145
税引前損益 9,050 5,692 3,358
株主帰属損益 7,864 4,877 2,987

ロシアの政府系電力会社 PJSC "Inter RAO"の北欧子会社RAO Nordic Oyは5月13日、電力代金の支払い問題でフィンランドへの送電を14日から停止すると発表した。

RAO Nordicは、「5月6日以降、Nord Pool 経由で販売した電気代の支払いがないため、ロシアからの輸入代金を支払えない。送電を止めざるを得なくなった」と主張した。

フィンランドは5月12日にNATOへの加盟を申請する意向を表明、ロシア外務省は「報復措置」を取らざるを得なくなるだろうと述べており、送電停止は報復の可能性もある。


北欧では電力取引所(Nord Pool)が電力の仲介をしており、ロシアの電力はNord Poolを通じてフィンランドの系統運用者のFingridが輸入している。


    https://www.kepco.co.jp/corporate/report/yaku/15/pdf/yaku15_P34_54.pdf


Fingrid もNord Pool も、今回の支払問題の背景について説明していない。

Fingridは、ロシアへの支払いはNord Poolが行なっており、同社としては取引当事者でないとしている。

ロシアは天然ガスについてはルーブル払いを条件にしたが、電力については明らかでない。Nord Poolは、ルーブル払いを要求されたかの問いに「我々はルーブルで決済を行ったことはない」と述べるにとどまっており、詳しい背景は不明である。

輸入した電気の代金を支払わないということは考え難く、フィンランドのNATO加盟への報復か、又はルーブル払いの要求の可能性がある。

Fingridでは、ロシアからの電力は国内需要の1割を占めるが、「スウェーデンからの輸入増や国内の供給増で不足分を賄える」としている。

ィンランドの電力自給体制はどんどん改善しており、特に風力発電が増加している。本年だけでも追加の2000メガワットの風力発電が稼働する。

フィンランドのTeollisuuden Voima Oy(TVO)は2021年12月21日、2005年から建設中だったOlkiluoto原子力発電所3号機(出力172万kWの欧州加圧水型炉:OL3)が臨界条件を達成したと発表した。本年6月からは営業運転を行う。(Olkiluoto島には、原発から出る放射性廃棄物の地下最終処分場 Onkaloが併設されている。)

2023年に電力自給が完成する予定。


なお、フィンランドの地元紙はロシアからの天然ガス供給が近く停止される可能性があるとも報じている。フィンランドでは2020年に国内で消費した天然ガスの7割近くをロシア産が占めた。

付記

フィンランドの国営ガス会社Gasumは5月20日、ロシアからの天然ガス供給が21日午前7時で停止すると明らかにした。ロシアからは既に送電が止まっている。
ロシアのGazpromは、ユーロではなくロシアの通貨ルーブルによる支払いを求めていたが、フィンランドはこれを拒否し、供給停止が決まった。

天然ガスについては、欧州で下記の問題が発生している。

1)ロシアはパイプライン経由の天然ガスについてルーブル払いへの切り替えを要求している。但し、下図の仕組みを提案した。


ロシア案の仕組みであれば、買い手は契約通りのユーロで支払ったと言え、売り手のGazpromはルーブルで支払いを受けたと言うことができる。

買い手が直接ルーブルで払う場合は各国の市中で多額のルーブルを入手するのは困難だが、この場合は問題ない。

2)ポーランドの国営ガス会社PGNiGは4月26日、ロシア国営Gazpromから天然ガス供給を4月27日から停止するとの通知を受けたと発表した。ブルガリアも同様に4月27日からのガス供給停止を通知された。

ポーランドがガス購入でルーブル決済を拒否し、ロシアが圧力を強めた可能性がある。
ポーランド側がロシア天然ガスの購入を拒否したとの説もある。


3)ウクライナが同国のロシア占領地域経由のパイプラインを停止、ロシア非占領地帯経由パイプラインへの切り替えを要求

2022/5/12 ウクライナ、ロシア産天然ガスの欧州向けパイプラインを一部停止

4)Gazpromは5月12日、ポーランドなどを経由するパイプラインYamal Europeを通じた天然ガスの供給を止めると明らかにした。
  ロシア政府が5月11日に発表した制裁対象に、パイプラインの一部を所有するポーランド企業EuRoPol GAZが含まれていたため。

2022/4/28 ロシア、ポーランドとブルガリアに天然ガス供給停止 



付記

デンマークのエネルギー会社Ørstedとオランダのガス会社GasTerraは5月30日、ルーブル払いを拒否したため、天然ガスを切られると発表した。

Gazpromは同日、5月31日でGas Terraへの供給を停止すると発表した。

ポーランド、ブルガリア、フィンランドに次ぐもの。

Gazprom は5月31日、デンマークのØrsted向けと、Shell Energy経由のドイツ向けの供給停止を発表した。両社がルーブル払いを拒否したため。

米上院は5月11日、女性が人工妊娠中絶を選ぶ権利を保障する法案 (Women's Health Protection Act of 2022)について、採決に進むための動議を否決した。

最高裁が女性の中絶の権利を認めた1973年の判決 Roe v. Wade)を覆す可能性が高まったのを受け、民主党が州による中絶の禁止や大幅な制限を防ぐために同判決を成文化する法案の採決を目指していた。

2022/5/10 米最高裁の中絶権判例を覆す意見草案 

ーーー

共和党が知事の多くの州で妊娠中絶を禁止、制限する州法が制定されている。

米連邦最高裁は2021年9月1日、妊娠6週目以降の中絶を禁じたテキサス州の法律に対する差し止め請求を退け、同法は同日施行された。

バイデン政権は9月9日、妊娠6週目以降の人工妊娠中絶を原則禁止するテキサス州法に異議を唱え、テキサス州西部地区連邦地方裁判所に同州を提訴した。

2021/9/14  バイデン米政権、中絶禁止法でテキサス州を提訴 

連邦最高裁は2021年10月10日、8対1で同法の効力を容認する判断を下した。同法の合憲性については判断を回避した。

2021/12/14 米最高裁、テキサス州の中絶禁止法の存続容認 

これを受け、民主党は2021年9月に妊娠中絶サービスを保護する法案Women's Health Protection Act を下院に提出、下院は2021年9月24日、賛成218 対 反対211でこれを通した。ほぼ党派に沿った投票結果で、民主党からはテキサス選出の1人だけが反対した。

しかし、上院では採決に進むのに60票の賛成が必要で、全く見通しが立たないため、付議されてこなかった。

今回、最高裁が女性の中絶の権利を認めた1973年の判決を覆す可能性が高まったのを受け、民主党が付議した。

同法案が可決される可能性は極めて低かったが、動議を出すことで中絶の権利擁護派が多い支持基盤にアピールする狙いがあった。
この取り組みによって、11月8日の中間選挙で獲得できる議席が増えると計算している。米CBSテレビが4~6日に実施した世論調査では、米国民の64%が 妊娠中絶を認めた1973年判決(Roe v. Wade)の維持を支持している。

採決に進むための 動議は上院で賛成49、反対51で否決された。共和党議員全員(50票)と民主党から中道派のJoe Manchin議員(West Virginia州選出)が反対した。

バイデン大統領は「共和党は、自分の体や家族、生命という最も個人的な判断を下す国民の権利の前に立ちはだかった」と、反対した共和党議員を批判した。

Bayerは2021年8月16日、同社の子会社Monsantoのグリホサート系除草剤「ラウンドアップ」が原因でがんになったと訴えた顧客への損害賠償を支持した米控訴裁判決を不服として、米最高裁に上告した。

最高裁は12月13日、政権に対し、最高裁が本件を取り上げるべきかどうかについての意見を求めた。

本件は連邦法を無視した州法に基づく判決であり、政権は当然、取り上げるべきだと返事すると思われた。

しかし、政権は5月10日、Bayerによる上告を拒否するよう求めた。

ーーー

Bayerが最高裁に上訴したのは下記のEdwin Hardeman訴訟である。

原告Edwin Hardemanは1980年から2012年にかけ、カリフォルニア州北部Sonoma郡の自宅でラウンドアップを定期的に使用。その後、がんの一種である非ホジキンリンパ腫と診断された。

米カリフォルニア州地方裁判所の陪審は2019年3月19日、「Roundup」ががんを発生させた「事実上の要因」だったとの評決を下した。

問題は、除草剤ラウンドアップの発癌性について、連邦法(FIFRA=Federal Insecticide, Fungicide, and Rodenticide Act )とカリフォルニア州法で意見が異なることから生じた。

(連邦法)米国で農薬承認を行うEPAは発癌性はないとしている。このため、ラベル(使用法等を記載)には「発癌性の危険」の表示はなく、仮に表示すれば違法となる。

(州法)カリフォルニア州はラウンドアップを発癌性製品のリストに含めており、その場合、「発癌性の危険」が表示されていないのは違法となる。

原告側弁護士は、連邦法ではなく、州法を基に訴訟を起こした。

陪審員は、除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されていないため違法であるとして有罪とし、一審の裁判官も、控訴裁の裁判官もこれを認めた。

サンフランシスコの地裁判事は2019年7月16日、「除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されておらず欠陥である」との陪審員の判断については否定せず、有罪にした。
被害に対しては527万ドルを認めたが、裁判官は懲罰的賠償は高すぎるとして20百万ドルに大幅に減額した。被害に対して15倍もというのは憲法から認められないとした。

原告   陪審員 裁判官判断
Edwin Hardeman   カリフォルニア 2019/3/27 地裁 2019/7/16
損害賠償 527万ドル 527万ドル
懲罰的損害賠償 75百万ドル 20百万ドル
被害に対して15倍もというのは違憲

2019/7/27 モンサントの除草剤 Roundup による発癌被害裁判、裁判官が陪審の懲罰的賠償を大幅減額

Bayerは2019年12月13日に本件で「重大なエラー」があり、裁判をすべきでなかったと主張し、控訴した。問題は、「除草剤Roundupのラベルには発癌の危険が示されておらず欠陥である」との陪審員の判断である。

米EPAと司法省は2019年12月20日、Friend of the court brief (=amicus curiae:個別事件の法律問題で第三者が裁判所に提出する情報または意見)を提出した。

このなかでEPAは、EPAはRoundupのラベルを調べ承認したこと、Roundupには発癌性はなく、このため、発癌性の危険を表示する必要性はないとした。判決は覆すべきであるとしている。

EPAは発癌性を認めず、製品ラベルには当然、発癌性の危険は表示されていない。しかし、カリフォルニア州は発癌性製品のリストに含めており、発癌性の危険が表示されていないのは違法となる。

EPAと司法省は、ラベルは法律で認めたもので、それと異なるやり方での使用は法律違反であるとし、州は農薬の販売や使用を制限することは出来るが、国が承認したラベルと異なるもの、追加したものを求めることは出来ないとしている。

2019/12/26 米EPAと司法省、除草剤Roundupの発癌被害裁判でBayer側支持の意見書 

しかし、控訴裁の合衆国第9巡回区控訴裁判所は2021年5月14日、サンフランシスコ地裁の判断を認めた。

これを受け、Bayerは2021年8月16日に最高裁に上告した。

2021/8/21 Bayer、除草剤ラウンドアップ訴訟で最高裁に上告

Bayerは、最高裁で不利な判決が出た場合に備え、45億ドルの追加引当金を計上し、和解金や訴訟費用として引き当て済みの116億ドルに上積みした。


最高裁は政府に対し、最高裁が本件を取り上げるべきかどうかについての意見を求めたが、今回、政府を代表して訟務長官(Solicitor General Prelogar )はBayerの上告を拒否するよう最高裁に求めた。

訟務長官は、「FIFRAでのEPAラベル承認」が州法が求める「警告がなかった」ということに優先するというBayerの主張を拒否するよう求めた。「EPAが特定の疾病リスクを警告しないラベルを承認したこと自体は、州法がそのような警告をすることを求めることに優先するものではない」とした。

これは上記の2019年のEPAと司法省の意見書(Friend of the court brief)と矛盾する。

意見書では、「州は農薬の販売や使用を制限することは出来るが、国が承認したラベルと異なるもの、追加したものを求めることは出来ない」としており、Bayerが州法に基づいて「発癌性のリスク」をラベルに表示すれば違法となる。

今回は、EPAの承認ラベルに「発癌性のリスク」が書かれていなくとも、州法が求めた場合は従うべきだとしている。

政府内部でどのような議論があったか不明だが、EPAと司法省の考え方は問題を含んでいる。発癌性の有無は確定した事実でなく、EPAの見解に過ぎない。州の見解に基づき「リスクがある」と書くことまでを拒否するのは行き過ぎかも知れない。

Bayerは、最高裁がこの上告を取り上げる「強い法的根拠」があると信じていると述べた。

ウクライナの天然ガスパイプライン会社は5月11日、ロシアが占領している Sokhravovka経由の天然ガス輸送を停止すると述べた。

占領軍(ロシア)による妨害を理由にし、「不可抗力」としている。

ロシアがこのパイプラインで天然ガスを抜き取り、東部の占領地帯に送っているとし、占領軍による妨害で、途中のNovopskovのガスコンプレッサー ステーションでの作業ができないとしている。

このパイプラインはロシアから西欧向けの天然ガスの1/3の日量 32.6 百万m3 を扱っている。2月の戦争開始後もウクライナ経由の西欧向け天然ガスはウクライナ経由で送られているが、一部の輸送停止は初めての事態となる。
欧州への供給がさらに不安定化する恐れもある。

なお、このパイプライン経由のガスは西欧向けで、ウクライナの需要には関係ないとされる。

ウクライナ側は、ロシアはSudzha経由のパイプライン(ロシアの非占領地帯)に切り替えればよいとしている。

しかし、Gazpromの報道官は、「不可抗力との根拠は示されていない」として疑問視し、別ルートへの全量振り向けは技術的に不可能だと表明。ガスプロムは全ての契約義務を履行していると強調した。

現在の情報ではよく分からないが、ロシアから西欧への天然ガスを、ウクライナ側がロシア占領地域を通るパイプラインを止め、ロシアの非占領地域を通るパイプラインに変えさせようとしている模様。

しかし、全体の1/3の量をもう一本のパイプラインに追加で送ることは無理と思われる。

ウクライナはロシアに対する嫌がらせで止めたと思われるが、天然ガスが送れないと困るのは西欧側である。

西欧側は既に完成したNord Stream 2の稼働を認めていないが、ウクライナ経由で送れない場合、最終的に認めざるを得なくなる可能性もある。

  付記  ロシア、ポーランドを経由するYamal Eurpeを通じた天然ガス供給を停止

AGCとタイのPTT Globalは、タイのAGC Chemical Thailand とVinythai を統合して7月に新会社AGC Vinythai Public Company Limited を設立する。


これによりAGCの東南アジアにおける体制は次のようになる。



2社の統合  2021/3/22 AGC、インドネシア半島のクロル・アルカリ事業を統合再編 

ベトナム   2013/11/11 旭硝子、ベトナムの塩ビ会社を買収

インドネシア  2013/8/16 旭硝子、インドネシアで苛性ソーダ、PVCの大増設  


AGC は5月6日、事業統合新社のタイ2拠点(AGC Chemical Thailand と Vinythai)での生産能力増強を決定したと発表した。

苛性ソーダと塩化ビニル樹脂(PVC)は、上下水道などの都市インフラ整備や多様な工業製品に欠かせない素材であり、両製品の東南アジアにおける市場は、経済成長に伴う製造業やインフラ事業等の継続的な拡大を背景に、年4%程度の成長が見込まれている。この旺盛な需要に対応する。

環境負荷低減のため、エネルギー効率や生産効率を向上させた最新の環境対応技術を導入する。

投資総額は1,000億円以上を見込んでおり、同社グループとして過去最大の金額規模となる。稼働開始は2025年第1四半期の予定で、完成後の同社グループの東南アジアにおける能力は下記の通りとなる。

  単位:千トン

NaOH VCM  PVC
AGC(Thai)

AGC Vinythai

350→570 (+220)
Vinythai 370 400→800 (+400) 300→700 (+400)
Vietnam 150
Asahimas 700 900 750
Total 1,420→1,640 (+220) 1,300→1,700 (+400) 1,200→1,600 (+400)


インドネシアのAsahimasは2022年3月にPVC200千トン増設を完了した。(550千トン→750千トン)


女性が人工中絶を選ぶ権利は憲法で保障されているという根拠になっている連邦最高裁判例(Roe v. Wade)を覆す内容の最高裁判事の意見の草案が外部にリークされた。

政治専門サイトのPoliticoが5月2日、Samuel Alito 最高裁判事がまとめた意見書の初稿だとする文書を掲載し、過去の判断を覆し、中絶を規制する南部ミシシッピ州の法律を容認する内容になっていると伝えた。

意見書初稿  https://www.politico.com/f/?id=00000180-874f-dd36-a38c-c74f98520000

アメリカでは、1973年のRoe v. Wade事件に対する最高裁判決が、女性の人工中絶権を認める歴史的な判例となっている。

最高裁は1973年のRoe v. Wade判決で、中絶は憲法に保障された権利との判断を示し、胎児が子宮の外で生きることができるようになるまでなら中絶は認められるとした。
現在は「妊娠22~24週ごろよりも前」がその基準と考えられている。

そのため、中絶に反対する勢力と女性の選択権を堅持しようとする勢力が長年、この判決をめぐり争ってきた。この「妊娠22~24週ごろよりも前」を前倒しし、それ以降の中絶を禁止する法律が各州で相次いでいる。

ミシシッピ州の州法は、妊娠15週以降の中絶を禁じているが、これについて、州内に一つしかない中絶クリニックが「憲法に反する」と訴え、最高裁が判断を下すことになっている。

連邦最高裁は今年7月初めまでに、この訴えについて判断を示す見通しで、Roe v. Wade判例が維持されるかどうかが注目されている。

今回、最高裁文書が漏洩したことに加え、初めて1973年のRoe v. Wade判例 及びこれを確認した1992年のRoe v. Casey判決を覆す内容になっていること でアメリカに衝撃を与えている。

John Roberts 最高裁長官は 文書は最高裁の「最終的な立場を示すものではない」と強調、審理の過程で草稿が外部に漏れた異例の事態について「最高裁の信頼に対する重大な背信行為だ」と断じ、経緯を調査すると表明した。

付記 

米連邦最高裁は6月24日、1973年の「Roe v. Wade判決」を覆す判断を下した。

「中絶は深い道徳上の問題だ。中絶の権利は憲法に明記されておらず、歴史や伝統に根ざしているわけでもない。憲法は州が中絶を規制したり、禁止したりすることを禁じていない」と結論づけた。

保守派判事5人が支持、リベラル派判事3人が反対し、ロバーツ長官も中絶が妊娠中期まで認められることに根拠がないとして州法の合憲性を認めた。(但し、中絶を選ぶ権利まで取り消すことには反対した。)

ミシシッピ州法については「胎児の生命を保護することなど州側の正当な利益があり、州法には合理的な根拠がある」と判断。州法を「違憲だ」とした連邦控訴裁(高裁)の判決を破棄し、審理を差し戻した。

中絶の権利に対する憲法の保障がなくなり、全米50州の26州で中絶が事実上禁止または大幅に制限される見込み。



バイデン大統領はホワイトハウスで演説し「最高裁は米国民の憲法上の権利を奪った」と批判した。


ーーー

Roe判決 :Roe v. Wade, 410 U.S. 113 (1973

妊娠中であった未婚女性Norma McCorvey(裁判での仮名Jane Roe)および中絶手術を行い逮捕された医師などが原告となり、母体の生命を保護するために必要な場合を除き妊娠中絶手術を禁止したテキサス州法が違憲であるとして、1970年3月に月のテキサス州ダラス郡の地方検事 Henry Wadeを相手取って訴えた訴訟。

通常は法律上の仮名は、John Doe、Jane Doeが使われる が、ここではJane Roeが使われている。

原告らは、州法の規定は不明確であり、また憲法上保障されている女性の中絶の権利を侵害していると主張した。

連邦最高裁は1973年1月22日、7対2でテキサス州の妊娠中絶を原則禁止とした中絶法を違憲とする判決を下した。

憲法は明文上プライバシーの権利について触れていないと認めながらも、州がデュー・プロセス・オブ・ローなしに人々の自由を奪うことを禁止した修正第14条を根拠に、プライバシーの権利を憲法上の権利として承認した。

女性が妊娠中また出産後に負う肉体的・心理的負担について強調し、プライバシーの権利は女性が妊娠中絶を行うかどうかを決定する権利を含むと判示し、これを制限する法律の合憲性は、厳格審査基準で判断される。

胎児の生命について、合衆国憲法上「人」に胎児が含まれるとは明記されていないとし、州は母体の健康を保護するやむにやまれない利益を有するほか、胎児の母体外での生存が可能となる時点以降は、州は生命の可能性を保護するやむにやまれない利益を有する。

以上の分析にもとづき、最高裁は妊娠を三半期毎に分け、それぞれについて州による中絶規制の憲法上の制限を定めた。
第1三半期においては、政府は中絶を禁止してはならず、(免許のある産科医によらなければならないなど)医療上の要件だけを定めることができる。
第2三半期に入ると、政府は中絶を禁止することはできないが、母体の健康のために合理的に必要な範囲で中絶の方法を制限することができる。
第3三半期、すなわち胎児が独立生存可能性を備えた後は、政府は母体の生命・健康を保護するために必要な場合を除いて、中絶を禁止することができる。

この結果、母体の生命を保護するために必要な場合を除き中絶を全面的に禁止したテキサス州法の規定は違憲無効とした。

同日下された別の判決では、母体の健康・生命の危険、胎児の深刻な障害、レイプによる妊娠の各場合を除き中絶を禁止していたジョージア州法が違憲とされた。
また、上記の枠組みに従わない多くの州の中絶禁止規定は自動的に無効となった。

1992年には最高裁は再び、中絶を取り上げた。Planned Parenthood v. Casey:通称 Roe v. Casey : 505 U.S. 833 (1992)

最高裁はRoe判決を5対4で維持した。

レーガン大統領が任命した3人の判事が共同で、憲法が女性の中絶の権利を保障していることを再確認する複数意見を述べた。

一方で複数意見はRoe判決の三半期にもとづく分析を批判し、代わって中絶に対する制限が女性に対する「過度の負担」となっているかどうかという、より緩やかな違憲審査基準を導入した。

ーーー

今回、Samuel Alito 判事(1950年4月生まれ、イタリア系男性、保守派、George W. Bush大統領が2006年1月任命)は、中絶問題は極めて道徳的な問題で、憲法は中絶を規制したり、禁止したりしていないとし、人工中絶の問題を、国民に選ばれた代表たちの手に戻すべきだとしている。

Abortion presents a profound moral question.
The constitution does not prohibit the citizens of each State from regulating or prohibiting abortion.
Roe and Casey arrogated that authority.
We now overrule those decisions and return that authority to the people and their elected representatives.

Politicoによると、Alito判事を含め共和党の大統領に選ばれた判事5人が今回の多数意見に同意している という。共和党のGeorge W. Bush大統領に選ばれたJohn Roberts最高裁長官はこれまでにリベラル派に同調することが多かったが、今回どのように判断するかは不明。

民主党の大統領に選ばれた判事3人は、反対意見の作成に取りかかっているという。(現時点ではBreyer判事はまだ退任していない)

 性別 born 人種背景

指名した大統領

就任日 判断傾向
Clarence Thomas 男性 1948/6 アフリカ系 George H. W. Bush 1991年10月23日 保守
John Roberts  (Chief) 男性 1955/1 白人系 George W. Bush 2005年9月29日 保守
Samuel Alito 男性 1950/4 イタリア系 2006年1月31日 保守
Sonia Sotomayor 女性 1954/6 ヒスパニック Barack Obama 2009年8月8日 リベラル
Elena Kagan 女性 1960/4 ユダヤ系 2010年8月7日 リベラル
Neil Gorsuch 男性 1967/8 白人系 Donald Trump 2017年4月10日 保守
Brett Kavanaugh 男性 1965/2 白人系 2018年10月6日 保守
Amy Coney Barrett 女性 1972/1 白人系 2020年10月26日 保守
             
Stephen Breyer 男性 1938/8 ユダヤ系 Bill Clinton 1994年8月3日 リベラル
Ketanji Brown Jackson 女性 1970/9 アフリカ系 Joe Biden   リベラル

バイデン大統領は5月3日、「女性が中絶を選択する権利を持たないと決めることを非常に懸念している」と述べた。 最高裁が2015年に合法化した同性婚の是非などの判断に影響するおそれがあるため、「あらゆる権利が問題になり、根本的な転換になる」とも語った。

与党・民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長とチャック・シューマー上院院内総務は連名で、草案を非難する声明を発表。

「もし報道が正確なら、最高裁は過去50年間で最大の権利の規制を実施する構えでいる。女性に対してだけでなく、すべてのアメリカ人に。共和党が任命した判事たちがRoe v. Wade判決を覆す判断をするなら、それは実に忌まわしい、歴史上最悪で最も弊害の多い判断として歴史に残る。リンカーンとアイゼンハワーの政党は今や、トランプ党になってしまった」と非難した。

BBCは、最高裁がRoe v. Wade判決を覆す事態に備えてすでに多くの州が州法を整備しているため、この多数意見草案が最高裁判決として下されれば、たちまち22州で人工中絶が全面禁止されると指摘する。

判決が覆されれば全米50州の26州で中絶が事実上禁止または大幅に制限される見込みだが、そのうち22州は1973年の判決前から中絶禁止・制限法を備えていたり、判決が覆ると自動的に発効する禁止・制限法を持っていたりする。

バイデン米政権は2021年9月9日、妊娠6週目以降の人工妊娠中絶を原則禁止するテキサス州法に異議を唱え、テキサス州西部地区連邦地方裁判所に同州を提訴した。

しかし、連邦最高裁は10月10日、8対1で同法の効力を容認する判断を下した。同法の合憲性については判断を回避した。

2021/12/14 米最高裁、テキサス州の中絶禁止法の存続容認


米疾病対策センター(CDC)によると、2019年のアメリカでは約63万件の人工中絶が報告された。妊娠を中絶する女性の過半数が20代で、2019年には56.9%を占めた。

米食品医薬品局(FDA)は5月5日、Johnson & Johnson (J&J) の新型コロナウイルスワクチン(Janssen COVID-19 Vaccine)について、接種により血小板の減少を伴う血栓症(TTS:Thrombosis with Thrombocytopenia Syndrome)が生じるリスクを踏まえて使用制限を決めた 。

今後は、使用が認められている18歳以上の成人の うち、次の場合にのみ使用が可能となる。(これらの場合は、資料のメリットがリスクを上回ると判断した。)
・他のワクチンが入手できない場合(other authorized or approved COVID-19 vaccines are not accessible or clinically appropriate)、
・ワクチンを接種する個人が他社製ワクチンの使用に消極的な場合(who elect to receive the Janssen COVID-19 Vaccine because they would otherwise not receive a COVID-19 vaccine)

これまでの経緯:

FDAの諮問委員会は、接種が1回で済む初の新型コロナウイルス・ワクチンの使用に対し全会一致で賛成し、2021年2月16日に緊急使用を承認した。

接種1回のワクチンで、通常の冷蔵庫より低い温度に保つ必要がないので保管が簡単という利点も有している。3大陸で実施された治験では、軽度および重篤な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症を防ぐ効果が66%確認された。

米国のFDAと疾病予防管理センター(CDC)は2021年4月13日、J&J製の新型コロナウイルスワクチンの使用を一時停止することを勧告する共同声明を発表した。

J&J製ワクチンの接種後に、まれだが、深刻な血栓が生じたケースが6件発生しており、CDCとFDAが症例についてそれぞれ調査を行う。
6件のケースは18~48歳の女性で確認され、症状はワクチン接種後6~13日以内に発生した。

FDAとCDCは2021年4月23日、J&J製の新型コロナウイルスワクチンの使用一時停止勧告を解除する共同声明を発表した。

FDAとCDCは使用停止勧告の期間中に、ワクチン接種に伴い血栓症が生じるリスクを分析し、以下を結論付けた。
(1)米国内でJ&J製ワクチンの使用を再開すべきであること、
(2)FDAとCDCはJ&J製ワクチンの安全性と有効性を信頼していること、
(3)FDAはデータを基に、同ワクチンの利点は、リスクに勝ると判断したこと、
(4)これまでに入手したデータによると、血小板減少を伴う血栓症に至る可能性は極めて低いが、FDAとCDCは引き続き慎重にリスクを調査すること

また、FDAとCDCは声明の中で、血栓症が生じたケースが合計15件確認されていることを明らかにした。これには、使用停止勧告時に発表した6件も含まれている。
15件とも、18~59歳の女性で発生した。

CDCは、血栓症が起きたほぼ全てのケースが50歳未満の女性とした上で、50歳未満の女性に対し、副反応のリスクと、同リスクが確認されていない他社製のワクチンも選択肢としてあることを認識すべきだとしている。

CDCの予防接種実施に関する諮問委員会は2021年12月16日、成人の新型コロナウイルスワクチン接種について、J&J製ワクチンよりも、PfizerやModernaのワクチンを推奨する方針を示した。

ごくまれに深刻な血栓が生じる確率が、従来の想定を上回っていたと明らかにした。

J&Jのワクチンを接種した後に血栓が生じ、血小板も減少したケースについて 諮問委員会に報告。これを受けて諮問委員会の委員15人は、今回の推奨を全会一致で支持した。

ーーー

グループ企業を通じて厚生労働省に承認の申請を行った

接種が1回で済むのが特徴で、対象は成人以上としている。

現時点ではまだ承認されていない。

日本でのワクチン承認状況は下記の通り。

      接種対象 1回の接種量 接種
Pfizer 1~2回目 2021/2/14 16歳以上 30マイクログラム 3週間間隔、2回 
2021/5/31  12歳以上
2022/1/21
5~11歳 1/3(10マイクログラム)
3回目 2021/11/11 18歳以上 30マイクログラム 2回目から6カ月以上経過

 

      接種対象 1回の接種量 接種
Moderna 1~2回目 2021/5/21 18歳以上 100マイクログラム 4週間間隔、2回
未承認* 12歳以上    
3回目 2021/12/16 18歳以上 半量(50マイクログラム) 2回目から6か月以上経過

  * 米FDAは、まれな炎症性心疾患のリスクを高める可能性を評価するために若年層での承認判断を先送りしている。

      接種対象 1回の接種量 接種
AstraZeneca 1~2回目 2021/5/21  18歳以上   4~8週間の間隔、2回

 

      接種対象 1回の接種量 接種
Novavax 1~2回目 2022/4/19 18歳以上 0.5ml 3週間の間隔、2回


2022/4/19 厚労省、ノババックス製ワクチン承認へ (武田薬品工業が申請)

Shellは5月5日発表した第1・四半期決算で、ロシアからの事業撤退に伴う費用として42億3500万ドルを計上した。しかし、石油・ガス価格の上昇を追い風に本業は好調で、株主帰属利益は71億1600万ドルと前年同期比で26%増えた。

Shellはロシアのウクライナ侵攻を受けて2月にロシア国営ガスプロムとの合弁事業の終了を決め、3月には資源調達や現地での小売りを含めてロシア関連の事業を全面的に手じまう方針も表明した。

第1四半期に計上したロシア事業撤退損失は次の通りで、サハリン2、Nord Stream 2向けの融資、Salym油田、Gydanガス田、Shell Neftのほか、長期引取権、技術等使用権などを含む。

百万ドル
Sakhalin-2 1,614 Shell 27.5%、Gazprom 50%、Mitsui 12.5%、Mitsubishi 10%
Nord Stream 2 loan 1,126 融資・保証する5社の1つ(他は、E.ON、BASF、OMV、ENGIE)
Salym Petroleum Development 233 Gazprom Neft との50/50JV 西シベリアSalym油田開発
Gydan Energy 153+35 GazpromNeft との50/50JV 北西シベリアGydan半島のガス田開発
Marketing 358 + 236 Shell NEFT : ロシアに411のStation、潤滑油ブレンド工場
長期引取権 335
技術使用権 114
その他 31
合計 4,235 (税引後で3,894百万ドル)


付記 Shellは5月12日、MarketingのShell Neft をLUKOILに売却する契約を締結したと発表した。


シェルはロシアからのスポット(随時契約)での資源調達を3月に中止、長期契約は更新せず、原油について2022年末までに大半が終了する。天然ガスについては各国政府と調整しながら調達削減を進める。

ロシア撤退で4,235百万ドルを引き当てたが、原油や天然ガスなど資源の値上がりで収益力は大きく高まった。

売上高は842億400万ドルと前年同期比で51%増えた。探査や採掘などの上流部門では生産量が15%減ったが、売価の上昇で部門利益は3倍強に膨らんだ。

在庫評価や減損の影響を除く調整後純利益は前年同期比で2.8倍の91億3千万ドルと、四半期ベースで過去最高になった。


EUの欧州委員会のフォンデアライエン委員長は5月4日、欧州議会で、ウクライナ侵攻を受けた対ロシア制裁第6弾として、ロシア産原油の段階的輸入禁止、主要銀行や放送局への制裁措置を提案した。

ロシア産原油の輸入を6カ月以内に、石油製品の輸入は2022年末までに、それぞれ段階的に停止する。欧州経済への影響は最小限に抑える方針。

EUは4月8日の第5段で、ロシアからの石炭・その他の固形化石燃料のEUへの輸入、輸送の禁止を決めている。(但し、移行期間を経て2022年8月から適用開始)。

付記

欧州連合(EU)は5月30日夜、ロシア産石油のEUへの輸入を禁止することを柱とする追加制裁で合意した。
発動後ただちに3分の2の輸入が止まり、年内に90%以上になるという。

パイプラインでロシアから石油を調達しているハンガリーが、自国のエネルギー確保が脅かされるとして強く反対していたが、協議の結果、パイプラインによる輸入は当面除外し、船で輸送される石油に限ることで合意した。
ドイツとポーランドはパイプライン経由分の年内停止も約束、ハンガリー、スロバキア、チェコはパイプラインで輸入を続ける。

さらに、ロシアの石油や石油製品の輸送に関連し、欧州の船舶や保険などの企業がサービスを提供することも禁止している。世界のタンカー賠償責任保険は、約95%がロンドンを本拠とする組織を通じて結ばれており、これがEUの法律に従うことになる。

制裁が実行されれば、ロシアとその顧客は原油漏れや海上での事故といった巨額請求につながるリスクに対し、一切の備えを失う。

フォンデアライエン委員長は「加盟国の中にはロシアの石油に大きく依存している国もあり、簡単にはいかないだろうがやらなければならない。プーチン(ロシア大統領)は、残忍な侵略行為に対して高い代償を支払わなければならない」と述べた。「代替策を確保し、市場への影響を最小化する秩序だった方法で進める」と説明した。

また、追加制裁案には、ロシア最大手の銀行
Sberbankと他2行(Credit Bank of Moscow、Russian Agricultural Bankとされる)の3銀行を新たに国際送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から除外する措置が盛り込まれた。

  順位 2022/3 今回
Sberbank PJSC  1 対象外 SWIFT除外
VTB Bank PJSC
貿易決済を担う国営銀行
2 SWIFT除外
Gazprombank
(Gazpromが投資)
3 対象外 対象外
Bank Otkritie   SWIFT除外
Novikombank  
Sovcombank PJSC  
Bank Rossiya  
VEB.RF
国営開発対外経済銀行 
 
Promsvyazbank PJSC
(軍とのつながり)
 
他 2行 対象外 SWIFT除外

2022/3/4 EU、ロシア7銀行をSWIFTから排除


またロシア国営放送3社のEUでの営業を停止する。「ケーブルテレビ、衛星、インターネット、スマートフォンなどあらゆる形のコンテンツ配信を禁止する」とした。


制裁案は全加盟国の承認を得る必要がある。
原油禁輸では難色を示してきたドイツが最近、容認に転じた。欧州メディアによると、ロシア産原油にエネルギー供給を大きく依存する東欧のハンガリーやスロバキアについては、制裁の導入時期を2023年末までに遅らせる特別措置が検討されているという。

石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、ロシアの2020年の輸出総額3382億ドルのうち、原油(724億ドル)と石油製品(806億ドル)が4割以上を占め、約1割の天然ガス(320億ドル)を合わせると5割を超える。

石油、ガス産業による収入は、露政府歳入の4割に達する。

輸出先は次の通り。

ドイツに対しては、EU内外から圧力が強まっていた。

2月下旬のウクライナ侵攻以降、欧州がロシアにエネルギー代金として350億ユーロ(約4兆7000億円)を支払ったと指摘されており、ウクライナのゼレンスキー大統領も英BBCのインタビューに、ロシア産原油の購入を続けるドイツなどが「他人の流血で金もうけをしている」と批判した。

EUは今後、ロシア産天然ガスの禁輸についても検討する可能性があるが、実現までのハードルは原油禁輸以上に高い。

BASFは天然ガスがカットされた場合の工場操業への影響について警告を発した。現在の天然ガスの需要の半分を満たさない場合、同社最大のLudwigshafe コンビナートの操業を止める必要があるとしている。

Frankfurter Allgemeine 紙とのインタビューでBASF CEO のMartin Brudermuller は、ロシアからのエネルギー途絶はドイツ経済を過去75年以上のうちで最悪の不況に陥らすと警告した。

4~5年経てばロシアのガスから独立することも可能かも分からないが、それまでについてはLNG輸入での代替は不十分である。ロシアの天然ガスはドイツの消費の55%を占めており、これが一夜にして切られると、被害は取り返しのつかないものとなる。ドイツ経済は第二次大戦以来最悪の危機に陥り、特に中小企業の多くにとって終わりを意味する。

BASFの場合、ガスの供給が最大需要量の50%以下になった場合、Ludwigshafen コンビナートで生産を大幅に落とすか、完全にシャットダウンせねばならない。

ドイツ人は事態の重要性を認識していない。天然ガスを切られると職を失うことを意味する。

アンモニアを例にとると、BASFは既にアンモニアや肥料の生産を落とさざるを得なくなっているが、肥料の生産国のロシアに頼れないため、2023年には肥料不足から食糧が不足し、価格が急騰、アフリカなどの貧困国では主食の購入が難しくなるだろうとしている。

米国FRBは5月3~4日に開いた会合で、22年ぶりとなる0.5%の大幅利上げと「量的引き締め」に乗り出すことを決めた。記録的なインフレの抑え込みを急ぐ。

パウエル議長は「インフレはあまりにも高すぎ、それがもたらす困難を理解している。強い雇用環境を維持するためにはインフレを低下させることが不可欠だ」と述べ、物価の記録的な上昇を抑えるねらいを強調した。


政策金利をこれまでの「0.25~0.50%」から通常の2倍にあたる0.5%引き上げ、「0.75~1.00%」にする。0.5%の大幅な利上げは2000年5月以来22年ぶり。

前回の2022年3月16日の引き上げ(「0~0.25%」から「0.25~0.50%」に)の際には、パウエル議長はこれを含めて7回、0.25%ずつ、利上げする想定を示した。(年末には1.75%になる。)

2022/3/18 米、ゼロ金利解除

今回、一気に0.5%引き上げた。議長は、「今後2回程度の会合でも0.5%の利上げを検討する」と述べ、7月会合で2.0%まで政策金利を引き上げたい意向を強く示唆した0.75%のさらなる大幅利上げには慎重な考えを示した。

2018/3  1.50%~1.75%
2018/6  1.75%~2.00%
2018/9  2.00%~2.25%
2018/12  2.25%~2.50%
2019/7 2.00%~2.25%
2019/9  1.75%~2.00%
2019/10

1.50%~1.75%

2020/3

1.00%~1.25%

2020/3

 0.00%~0.25%

2022/3 0.25%~0.50%
2022/5 0.75%~1.00%
2022/7予 1.75%~2.00%


さらにFRBは保有する国債などの金融資産を6月から段階的に圧縮していく対応を始めることも決めた。


米連邦準備理事会(FRB)は2021年11月3日、11月にテーパリング(量的緩和の縮小)を開始すると発表した。

2019年7月末で一旦、保有資産の縮小を止めたが、直後の9月からは短期金利の状況を抑えるためレポ取引などで資金供給を増やし、2020年3月にコロナウイルス対策で資産買入を再開した。

これまで毎月、国債を800億ドル、住宅ローン担保証券を400億ドル、計1200億ドルを購入している。

2021年11月から毎月の購入額を国債を100億ドル、住宅ローン担保証券を50億ドルの合計150億ドルずつ減らしていく計画を正式に決定した。順調にいくと8カ月で購入はゼロとなり、2022年6月でテーパリングは終了する。

その後、2021年12月の会見で、パウエル議長は「労働市場の強さとインフレ圧力の高まりを踏まえ、資産購入縮小(テーパリング)を早めることを決めた。資産購入は11月初旬の予想より数カ月早く、来年3月中旬までに止まる」と述べた。

  2021/11/5 FRB、11月から量的緩和の縮小開始

2020年3月からは毎月1200億ドルを購入、2021年11月からは購入額を毎月減らしてきたが、これまでは購入額は増え続けた。=「量的緩和」
2020年3月の大規模量的緩和を導入以降、資産残高は足元の9兆ドルまで2倍超に拡大している。

2022年6月からは逆に、これまで購入した国債などの保有額を減らしていく。=「量的引き締め」

市場では売却せず、償還を迎えた際に再投資をしない手法で減らす。
毎月の減額ペースは6~8月に国債を300億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を175億ドル、合計475億ドルとし、9月からは国債を600億ドル、MBSを350億ドル、合計950億ドルとする。


英石油大手BPは5月3日発表の2022年1~3月期決算で、ロシアからの事業撤退に伴う損失として、244億ドルを計上した。 現金支出は伴わない。

BPは2月27日、ロシアのウクライナ侵攻を受け、19.75%保有するロシア石油大手Rosneftの株式を売却すると発表した。同社と手掛けてきたロシア国内での合弁事業も全て解消し、同国から事実上撤退する。Bernard Looney CEOとBob Dudley前CEOはRosneftの取締役を即時辞任した。

BPによるRosneft への19.75%出資、取締役2名派遣の経緯については、2012/10/24 ロシアのRosneft、TNK-BPを買収 

ロシア事業撤退損失の内訳は以下の通り。

Rosneft株の売却は、ロシア政府が外国企業の事業撤退や、外国人の株式売却を制限しているため、全く目途が立っていない。このため、今回は持株の評価をゼロとした。

1)Rosneft持株の評価損 税引前240億ドル 

2月27日時点でのRosneft持株の評価をゼロとした。 税引前減損損失 135億ドル

投資開始当初からの為替差損 税引前 111億ドル

本年度第1 四半期の2月27日撤退前までのRosneft税引前利益のBP 持分 約5億ドル(利益)

以上 差引合計 240億ドル

2)Rosneftとの他のJVの評価損 税引前15億ドル

3) Rosneft の未分配利益のBPの推定シェアに対するロシアの源泉徴収税の繰延税金負債の取消 11億ドル(利益)

以上 差引合計 244億ドル

これを含めた全社の損益(前期、前年同期対比)は下記の通り(百万ドル)。

売上高は493億ドルとなり、前年同期を43%(147億ドル)上回った。原油、天然ガスの価格上昇が影響した。

株主帰属損益は204億ドルの赤字で、前期比251億円の赤字増であるが、在庫評価益や特別損益を除いた損益(Replacement cost ベース損益)は62億ドルで、前年同期(26億ドル)の倍以上となった。

2022/1Q 前期
2021/4Q
前年同期
2021/1Q
前年同期比
売上高 49,258 50,554 34,544 14,714
株主帰属損益 -20,384 2,326 4,667 -25,051
うち在庫評価益 2,664 358 1,342 1,322
在庫評価益除外 -23,048 1,968 3,325 -26,373
うち評価損等特別損益 -29,293 -2,097 695 -29,988
差引RCベース損益 6,245 4,065 2,630 3,615
Rosneft分RCベース損益
(除く 金利、税金)
555 363

RCベースはReplacement cost ベース損益
 会計ルールでは在庫評価益を含むが、石油会社の場合、この影響が大きいため、これを除いた参考損益を比較している。

中国国務院関税税則委員会は4月28日、「エネルギーの供給保障を強化し、質の高い発展を推進するため」、2022年5月1日から2023年3月31日まで、すべての石炭に対して税率がゼロとなる輸入暫定税率を適用すると発表した。

現在の石炭関税は次の通りで、これらが全てゼロとなる。

豪州、インドネシアはゼロ

その他の国は、無煙炭とコークスは3%、その他は 3、5、6%
(モンゴル、ロシア、カナダ、米国など)

業界関係者は、「エネルギーは経済社会発展の基礎的な支えであり、輸入石炭の関税を調整することは、最近の複雑な中国内外の情勢に対応し、石炭の輸入を促進し、石炭の供給保障を強化する上でプラスになるものだ」と指摘した。

ただ、 インドネシア産はもともと関税がゼロであり、国内生産が過去最高水準にあり、海上輸送運賃が高騰しているため、輸入関税の引き下げは、中国の石炭輸入に大きく影響しない見通し。

なお、豪州産石炭については、次の事情がある。

豪中関係は豪州が中国の新型コロナウイルスの対応について国際調査を要請した後などに急速に悪化した。

中国はその後、牛肉や大麦、ワインなど豪州産品の輸入規制措置などを相次いで打ち出した。

2020/12/20 中国・豪州の関係悪化、豪州が中国をWTOに提訴 

中国の国営紙「環球時報」は2020年12月、中国の国家発展改革委員会が国内の発電所に対し海外産の石炭調達を豪州産を除外すること、他については制限なく認めるとの決定を下したと伝えた。

中国政府は、公式にはオーストラリアからの輸入を停止していると発表していない。

しかし、中国の2021年1~9月の石炭輸入量は、前年同期比14.8%減の1億4,235万トンで、2013年から2020年まで8年連続で最大の輸入元(2020年は全体の25%)だったオーストラリアからの輸入が、2020年秋ごろから急激に減少、2020年12月以降、ゼロになっている。

貿易業界幹部によると、中国政府による2020年10月の非公式な輸入禁止を受け、税関を通過していない100万トンの豪州産石炭が中国沿岸部の保税倉庫に何カ月も保管されていた。

オーストラリア産石炭輸入が禁止され、習近平国家主席の「環境に優しい低炭素」政策も加わり、中国では石炭不足事態が起こった。
中国北東部の電力難につながり、一部地域では工場の稼動が停止し、家庭用の電気供給も制限された。

この結果、2021年9月に中国当局が豪州産石炭の「通関を許可する」という信号を送ったとされ、保税倉庫から放出された。(全体の100万トンは1日分にしか相当しない)

但し、中国政府は豪州産石炭の輸入再開には踏み切っていない。

日本政府やENEOS子会社のJX石油開発、三菱商事が出資するJXミャンマー石油開発は5月2日、ミャンマーのYetagun ガス田事業から撤退すると発表した。

JXミャンマー石油開発は1991年12月設立で、日本政府が50%、JX石油開発が40%、三菱商事が10%出資している。

ミャンマーの天然資源開発を巡っては、産出量に応じて収益を得るミャンマー石油ガス公社(MOGE) が人権弾圧を行っている国軍の資金源になっているとして批判を集めており、欧米メジャーが相次ぎ撤退を発表していた。

ミャンマー軍によるクーデターのあとの情勢などを踏まえ、事業の継続は難しいと判断した。
同国における社会課題への対応を含めた現下の情勢およびガス田の評価に基づく事業性などを検討・協議した結果としている。

ミャンマーのYetagun ガス田事業のパートナーのマレーシアのPetronas Carigali とタイのPTTEP Internationalも4月29日、撤退を発表した。

後記の通り、PTTEPは同じミャンマー沖のYadana海底ガス田から撤退するTotalに代わり、Operatorを引き受けており、ミャンマー軍のクーデターに関係した撤退ではなく、エネルギー確保の上でのportfolio management の一環としている。

Petronasも、決定はPetronasの資産合理化戦略の関連でのtechno-commercial review に基づいてなされたとしており、ミャンマーの軍事政権批判によるものではない模様。

この事業で残るのはミャンマー石油ガス公社(MOGE)のみとなる。

Yetagunガス田はミャンマー沖合のM-12、13、14鉱区で、下記のパートナーで事業を行っている。

権益比率
JXミャンマー石油開発 19.3%
Petronas Carigali マレーシア 40.9%  operator
MOGE ミャンマー石油ガス公社 20.5%
PTTEP International タイ 19.3%


日本石油が1991年にM-13、14鉱区、1992年にM-12鉱区の権益を取得した。
1991年12月にJXミャンマー石油開発を設立、探鉱段階から参画し、1992年末に同鉱区でガス田を発見、埋蔵量の評価作業や、生産・出荷設備の建設(パイプラインを含む)を経て、2000年から生産段階に移行し、天然ガス・コンデンセートの生産・販売を行なっている。

天然ガスは、パイプラインを使ってタイ石油公社PTTに販売している。天然ガスの生産に随伴して生産されるコンデンセートは、いったんFSO(Floating Storage and Offloading system)に集積し、権益保有各社により共同で販売している。

ーーー

ミャンマーの海底ガス田はYetagunのほかに3つある。

ミャンマー最大の天然ガス田であるYadanaガス田の出資者で操業を担当するTotal は2022年1月に撤退を発表した。

2021年2月に国軍のクーデターが起きた後、国軍側の収入源とならないよう、現地の天然ガスパイプライン事業で配当金支払いを止める対応をとってきたが、人権問題で状況の改善が見込めず継続は困難と判断したとしている。

Chevronも撤退を発表した。

タイ政府系の資源開発会社PTTEPは3月14日、Yadana海底ガス田について、撤退を決めた仏Totalからオペレーターの役割を引き継ぐと発表した。Totalの権益の一部も引き取る。

PTTEPは声明で、Yadanaはミャンマーとタイの人々の生活に欠かせない天然ガス供給源で、長期にわたるエネルギー安全保障を強化するために、後継事業者となることを検討してきたと述べている。

PTTEPは今回、Yetagunからは撤退を表明した。

各セグメントともに増収増益で、全社の営業損益が72%増の6,763億円、株主帰属損益で70%増 の5,001億円となった。

特に塩ビが中心の生活環境基盤の営業損益が2,182億円増 の3,178億円となり、前年比で3.2倍という脅威的な伸びである。
後述するが、第1四半期から第2四半期に営業利益が8割増となっている。

なお、海外子会社損益の連結には1-12月平均の為替レートを使っているが、2020年は106.18円、2021年は109.8円で、レート差だけでも 2.8%の利益増となる。

株主帰属利益は5000億円を超えた。年間配当は前年の250円を400円に増やす。

更に、 1000億円を上限とする自己株式の取得を行い、全てを消却する。

単位:億円 (配当:円)

  売上高 営業損益 経常損益 株主帰属
当期損益

配当

中間 期末
2020/3 15,435 4,060 4,182 3,140 110 110
2021/3 14,969 3,922 4,051 2,937 110 140
2022/3 20,744 6,763 6,944 5,001 150 250
前年比 5,775 2,841 2,893 2,064 40 110
2023/3

未定


営業損益

今回、セグメントを変更した。(2021/3実績は新旧セグメントで表示)
2021/3の旧セグメントでの塩ビ・化成品と、新セグメントでの生活環境基盤がほぼ同額であるため、ほぼ同じとみなせる。

2022/3では、塩ビが中心の生活環境基盤が3.2倍と大増益となったほか、他のセグメントも増益となった。

2011/3 2018/3 2019/3 2020/3 2021/3 2021/3 2022/3 増減
塩ビ・化成品 197 932 1,065 922 970 生活環境基盤
(塩ビほか)
996 3,178 2,182
シリコーン 341 520 585 615 451 機能材料
(シリコーンほか)
707 948 241
機能性化学品 129 257 266 277 218
半導体シリコン 389 930 1,320 1,433 1,441 電子材料
(半導体シリコンほか)
2,061 2,448 387
電子・機能材料 361 616 670 685 702
その他 73 115 133 148 143 加工・商事 163 209 46
全社 3 -2 -3 -20 -3 -5 -19 -14
合計 1,492 3,368 4,037 4,060 3,922 3,922 6,763 2,841


生活環境基盤の大増益の理由

塩化ビニル、苛性ソーダともに、需要は堅調に推移し、米国シンテック社を初めとする全拠点でフル操業を行なった。

今回、Shintechの損益がまだ公表されていないが、2020年12月決算は経常損益が800億円弱であり、塩ビ・化成品の営業損益(970億円)の大半がShinechのものであることが分かる。

特に米国の住宅需要は旺盛で、PVCの国内需要が好調なほか、輸出も好調であ る


売価も、2021年平均(四半期平均)が2020年平均と比較し、国内が41%アップ、輸出価格は2.1倍となっている。
売価は上がり調子のため、増設分の寄与が後半に増えると売価差益は平均より増えることとなる。

勿論、原料価格も上昇している。自製VCMの原料エタンは53%アップした。塩素は地下の岩塩使用のため、電気代のアップのみ響く。
購入VCMは契約条件が不明だが、かなりアップしていると思われる。



今回の発表では、営業損益の四半期別推移から、2022年第2四半期(Shintechの下半期)に営業利益が急増(1.79倍)になっている。
ShintechのPVC増強による販売数量のアップ(徐々に増えていったとみられる)と価格上昇によると見られる。

ShintechではPVC増設第一期が2021年下半期に完成した。(赤字は発表文からの推定で、VCMは今回修正)

立地 PVC VCM

NaOH

エチレン
Texas州 Freeport  145   -   -
Louisiana州 Addis   58   -   -
Plaquemine   60   160  106
2013/6 増設 32 30 20
手直し 7 3
2020年初め 完成 50
Ⅰ 2021年下期 完成 29 40 27  
Ⅱ 2023年末 完成 38 58 39
今回増設後合計 362  295   195 50


PVCの増設は29万トン(これだけでも大きい)
だが、2022/1/27の説明会で、 実質40万トンの増になると、以下の説明をしている。

北米においては、昨年と比較すると、極めて高い値段から今年は出発するということ、それから (発表の図では2021年下期完成となっているが)2020年12月に稼働を開始した新工場が今年フルに(約40万トン)寄与します。全て売り切る自信があります。

新工場の塩ビの能力は29万 トン/年ですが、モノマーの方が大きい増設になっています。これまでモノマーが足りないマテリアルバランスで来ており、今回稼働したモノマーをフルに塩ビにできるため、(PVCは)約40万トンの数量が増えます。


なお、Shintechの第二期の新増設工事は計画通り進捗している。


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